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死にたがりの私を、なぜか皆が愛し始めた
死にたがりの私を、なぜか皆が愛し始めた
Autor: 金星鈴里

第1話

Autor: 金星鈴里
財閥の御曹司である九条海斗(くじょう かいと)と、午前中に入籍したばかりだというのに、その日の午後には、私たちは離婚届を提出するために再び役所を訪れていた。

手元に残されたのは、結婚届と離婚届受理証明書だけだ。

私・如月琴音(きさらぎ ことね)はその場で立ち尽くし、周囲を取り囲む彼の友人たちからの嘲笑を浴びていた。

「おい海斗、莉奈の一言のために、まさか本当に如月家のご令嬢と結婚して即離婚するとはな」

「見ろよ、お嬢様のあの顔、真っ青だぞ。泣くんじゃないか?」

しかし、海斗は如月家の養女である白石莉奈(しらいし りな)を愛おしそうに抱き寄せ、甘い声で囁いた。

「ほら、これで二つの受理証明書、揃ったぞ。

これで笑ってくれるか?」

莉奈は「ぷっ」と吹き出し、その澄ました顔に花が咲いたような笑みを浮かべた。

文句の一つも言ってやろうと踏み出したが、三人の兄たちに力ずくで止められた。

如月グループ総帥である如月家長男の如月大和(きさらぎ やまと)は、眉をひそめて言った。

「莉奈を笑顔にできるのは海斗だけだ。

お前も少しは弁えたらどうだ?」

トップ俳優である如月家次男の如月蓮(きさらぎ れん)は、私を地面に突き飛ばした。

「あの子は身寄りがなくて可哀想なんだ。

お前は恵まれているんだから、男の一人や二人、くれてやれ」

生物学教授である如月家三男の如月湊(きさらぎ みなと)は、冷たい表情で告げた。

「海斗は最初から彼女と結ばれるべきだったんだ。二度と二人の邪魔をするな」

心の奥底にいる「最愛の人」の幸せを、私なんかに邪魔させないために、彼らは私を無理やり車に押し込んだ。

その時、長い間沈黙していたシステムがついに起動した。

【プレイヤー様、攻略ミッションの完了を確認しました!

直ちに元の世界へ帰還しますか?】

後部座席に座り、私は憂鬱なふりをして窓外を眺めたが、危うく笑い出しそうになった。

ミッションのために演じてきたこの茶番劇も、ようやく終わりだ。

彼らの茶番になんて、もう二度と付き合ってられないわ!

システムがさらに、新たな通知を表示した。

【如月三兄弟および主人公の攻略度が95%に達成!

九条海斗との結婚ミッション完了!おめでとうございます!

プレイヤー様の肉体死亡後、直ちに元の世界へ帰還し、賞金一億円を獲得!

隠しミッションを達成すると、さらに骨肉腫も完治します!】

私は込み上げてくる喜びを、必死に抑え込んだ。

やっと、元の世界へ帰れる!

大和と湊は莉奈に付き添うため残り、蓮が私を家まで送ることになった。

蓮は車に乗ってからずっと不機嫌な顔をしていたが、莉奈からのメッセージを受信した途端、デレデレとした笑みを浮かべた。

私の視線に気づくと、彼は慌ててスマホを伏せ、眉をひそめた。

「なんだ?まだ諦めてないのか?

まさか戻って海斗と莉奈の邪魔をするつもりじゃないだろうな?

莉奈はまだ若いし、苦労してきたんだ。

どうしてお前は、あの子を許してやれないんだ?」

私は指を強く握りしめ、自嘲気味に笑った。

若さで言うなら、私の方が莉奈より一歳年下なんだけどね。

私の顔色があまりに悪いせいか、蓮はふとため息をついた。

「今回の件は、お前から莉奈に謝るんだ。あまりわがままを言うなよ」

彼は私の頭を撫でようと手を伸ばしてきたが、私はそれを避けて問い返した。

「どうして私が謝るの?私が何をしたっていうの?」

蓮は動きを止め、その顔に苛立ちが浮かんだ。

「如月琴音!お前、いい加減にしろよ!」

私は目を閉じた。

ミッションのためとはいえ、長年過ごしていれば多少の情は移る。

彼らの冷たい態度に、本気で傷ついたことだってあった。

でも、それももう終わりだ。

「莉奈の大会が終わったら、一緒に彼女へ謝りに行くぞ」

私はもう何も答えず、心の中でシステムに問いかけた。

【この肉体が死ねば、元の世界へ帰れるのよね?】

【はい、その通りです】

私はゆっくりと息を吐き、窓から周囲の状況を確認した。

他人を巻き込む恐れがないことを確かめると、ロックを解除し、勢いよくドアを開けた。

まだ説教を続けていた蓮が、悲鳴を上げる。

「琴音、何をする気だ!」

私は構わず、躊躇なく車から飛び降りた。

寒風が頬を打ちつけ、体が宙に投げ出されるような浮遊感に襲われた。

私は目を固く閉じた。恐怖なんて微塵もなかった。

しかし次の瞬間、腰に強い衝撃を感じた。誰かに抱き留められたのだ。

私はその腕に守られたまま、アスファルト脇の植え込みへと倒れ込んだ。

天地が回転する中、苦痛に満ちた呻き声が聞こえた。

二人はもつれ合うように地面を転がり、ようやく止まった。

私を庇った人は、植え込みの枝で体中を引っ掻き、血だらけになっていたが、私自身は無傷だった。

顔を上げると、驚愕に顔を引きつらせた蓮がいた。私は淡々と言い放つ。

「離して」

蓮は私の平然とした態度を見て、怒りを爆発させた。

「俺が少し注意したくらいで、飛び降りるなんて馬鹿な真似があるか!

甘やかしすぎたせいで、こんなワガママに育ったんだな!

また気を引くためにやったんだろう?

その浅ましい根性、いい加減にしろ!」

私は聞く耳を持たず、彼の手を振りほどいた。

立ち上がって周囲を見渡すと、猛スピードでこちらに向かってくる黒い車が目に入った。

「自分から当たりに行ったのよ。車の修理代はそっちで払っておいて」

そう言い残し、私はその車の前へと身を投げ出した。

「琴音!!」

蓮の絶望的な叫びが響く。

彼は必死に起き上がろうとしたが、間に合わなかった。

私は希望に満ち溢れながら、死を待ち受けた。

どうせ元の世界に戻ればすぐに死ぬ運命だとしても、この世界にはもう一秒たりとも留まりたくなかった。

しかし、耳をつんざくようなブレーキ音が鳴り響き、黒い車は奇跡的にも寸前で停車した。

私はよろめきながら数歩後退し、追いかけてきた蓮の胸に倒れ込んだ。

「気が狂ったのか!本当に死にたいのかよ!?」

蓮は目を真っ赤にし、震える手で私の頬や肩を確かめる。

「ぶつかってないか?どこか痛むところは?何か言ってくれ!」

また死に損なった……私は心底がっかりして、視線を落とした。

その先には、蓮の足があった。

ズボンの裾はすでに血でぐっしょりと濡れている。

明らかに重傷で、今も血が滴り落ちていた。

以前の私なら、自分を庇って傷ついた彼を見て、胸を痛めて泣きじゃくっていたに違いない。

けれど今は、ただ冷ややかに視線を逸らすだけだった。

「なによ。私が死ぬのにも、あなたたちの許可が必要なの?」

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