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第4話

Author: ひとつの甜菜
今、香奈が身に着けているワンピース、首元のネックレス、指にはめた指輪、そして腕につけた腕輪。それらはすべて、奈月の私物だった。

香奈の目に、あからさまな挑発の色がよぎる。「こっちに服を持ってくるのを忘れてしまって。奈月さんとは体型も似ていますし、少しお借りしただけです」

奈月の胸の奥から、一気に怒りが込み上げた。「借りたですって?私に一言でも断ったの?それは全部私のものよ。持ち主に無断で使うのは、世間ではそれを『泥棒』って呼ぶのよ」

彼女が今着ているワンピースは、去年の誕生日に兄がわざわざ海外から取り寄せてくれた特注品だ。腕輪に至っては、亡き母の大切な形見である。

どちらも大切にしてきた品なのに、今、この世で一番嫌いな相手に身に着けられ、汚されている。

すると香奈はひどく傷ついたような顔を作り、大知を見上げた。

「大知さん、私、決して泥棒なんかじゃないわ。小さい頃から姉に『人の物を勝手に持っていっちゃだめ』ってずっと言われて育ったもの。だから、その教えをちゃんと守ってきたのに……」

大知はすぐさま香奈をかばうように前へ出ると、奈月に向けて冷たく言い放った。

「少しは言葉を選べ。香奈はちょっと借りただけだろう。『泥棒』などという汚い言葉を使うなんて」

香奈は慌てた様子で腕輪や指輪、ネックレスを次々と外すと、奈月の足元に無造作に放り投げた。

「奈月さん、お返しします。だから、どうかもう怒らないでください」

その突然の行動に、奈月が慌てて手を伸ばしたときにはもう遅かった。母の形見である腕輪は硬い床に落ち、無残にもバラバラに砕け散ってしまった。

奈月はもはや自分の中の衝動を抑えきれなかった。勢いよく手を振り上げ、香奈を平手打ちしようとした。だが、香奈はひどく怯えたふりをして大知の背後へと隠れた。

大知が奈月の腕を力強く掴み、荒々しく振り払った。

「一体いくらするのか言え、俺が弁償してやる。だが、香奈には今後指一本触れるな!」

そう吐き捨てると、彼は香奈を連れて背を向け、そのまま去っていった。

奈月は目を真っ赤にしながら、床に散らばった腕輪の欠片を一つひとつ拾い集めた。そして、悲痛な声で呟いた。

「お母さん……ごめんね。私に男を見る目がなかったせいで、お母さんの大切な形見すら守れなかった」

込み上げる涙を乱暴に拭うと、奈月はそのままゲストルームへ向かい、自らの荷物をすべてスーツケースに詰め込んだ。かつては宝物のように大切にしていた大知の私物も、今はためらうことなくすべてゴミ箱へと捨てた。

ここは最初から、自分の居場所などではなかったのだ。もう一日たりとも、こんな家にはいたくなかった。

荷造りを終えた奈月が、二つの大きなスーツケースを引きずりながら階下へ降りると、ちょうど大知が香奈を連れて買い物から戻ってきたところだった。

荷物を見た大知は、不快そうに眉をひそめて尋ねた。「お前、どこへ行くつもりだ」

奈月が答えるより先に、香奈が脱いだばかりのあの白いワンピースを差し出してきた。

「奈月さん、あなたの服を勝手に着たのは私が悪かったです。大知さんにもさっき注意されましたし、代わりにたくさん新しい服も買ってもらいましたから。

このワンピースはお返ししますね。だから、もう家出なんて子供じみた真似はやめてください」

奈月は白いワンピースの襟元にくっきりと残る口紅の跡に目を留めると、冷ややかに言い放った。「汚いから、もういらないわ」

すると香奈は、また即座に傷ついたような顔をつくった。「……確かに私も姉も、貧しい環境で育ちましたけど、決して心が汚いわけじゃありません」

大知は氷のように冷ややかな視線で、奈月を真っ直ぐに見据えた。

「心が汚れている人間には、何を見ても汚く見えるらしいな」

「それなら、その心が汚い女は、あなたの目障りにならないよう、とっととここを出ていくわ」

奈月は一切未練を見せることなくスーツケースを引き、そのまま屋敷を後にした。

後ろから、香奈が涙声で言うのが聞こえた。

「奈月さんにそこまで言われるなら、私が出ていきます。大知さんは早く奈月さんのところへ行って、落ち着かせてあげてください。

姉との約束のことも、もう気にしないでください。これからは自分の力でやっていきます。もう大知さんに迷惑はかけません」

だが、大知は優しく香奈を引き止めた。「俺は結奈に、お前の面倒を一生見ると約束したんだ。これからここがお前の家だ。好きなだけいればいい」

すでに玄関を出ていた奈月の耳にも、そのやり取りははっきりと届いていた。彼女の口元に、嘲るような冷たい笑みが浮かぶ。

大知。香奈があなたに対してどんな想いを寄せているかを知ったとき、それでもあなたは今と同じことが言えるのかしらね。

……

屋敷を出た奈月は、そのまま都内の五つ星ホテルへと直行し、チェックインを済ませた。

離婚届受理証明書さえ無事に届けば、すぐにでもこの街を出ていくつもりだった。

翌朝のことだった。奈月のスマホに、香奈から突然一本の動画が送られてきた。

メッセージには一言、【奈月さん、忘れ物です】とだけ添えられていた。

動画を再生した瞬間、奈月は血相を変えてホテルを飛び出し、大知の屋敷へと急いだ。

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