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第9話
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永遠に離れない愛 第11話
あの日以来、私は知哉と二度と会わなかった。ただ、癌は確実に進行していた。頻繁に襲う発作で顔色はますます悪くなり、髪はごそっと抜け落ちた。塚本さんは毎日、少しの時間でもそばに来てくれ、食べたいものや、遊びたいもの、見たいものはあるかと尋ねてくれた。最期の時期ですら、彼女は自腹で私に小説サイトの会員権を買ってくれ、私は毎日そこで様々な小説を読んでいた。特に好きだったのは、おバカで笑える作品だ。それを読むと、しばし煩わしさを忘れ、心の底から笑うことができた。そんな時だけは、ただの普通の女の子に戻れた気がしたから。だが病状の悪化は止まらない。発作の頻度は増し、吐血、下血。ついには意識を失った。長い時間意識を失い、目覚めてはすぐにまた倒れる――そんな日々が続いた。ある日、私はふと目を覚ました。そばには塚本さんが座っていた。口を開け、水が欲しいと合図する。彼女はそれを見て、慌てて水を汲みに行く。忙しそうに去っていく背中を見ながら、私はかすかに唇を微笑ませた。まぶたがどんどん重くなる……ごめんね、もうあなたがくれた水を飲むことはできないかもしれない。ありがとう、塚本さん。そして――知哉、ごめんね、愛してる。「304号室3番ベッド、七原澪、薬を飲みに出てください！」私は眉をひそめ、ゆっくりと目を開けた。長く、混乱した夢を見ていたような気がする。「304号室3番！早く出てください！」看護師のいら立った声が響く。「はい！」思わず返事をした瞬間、首を押さえ、目を見開いて信じられない思いに包まれる。看護師の呼びかけなど構わず、鏡の前に駆け寄ると、そこには青ざめた自分の顔が映っていた。自分の頬をつまみ、驚愕する。私は……生きてる？それに健康そう？じゃ知哉は？彼はどこに……？私が無事なら、もう彼と離れなくてもいい……嬉しさのあまり走り出し、誰かに事情を聞こうとした。途中、看護師室を通りかかり、自然と足が止まる。中から聞こえる会話に耳が引かれた。思わず立ち止まり、ドア板に耳を近づけてこっそり聞く。「304の3番、あの女、ほんと厄介だわ。数日おきに記憶喪失になったり自殺未遂したり。今回は長く寝てたから、次は何をしでかすか……」ある看護師が嫌悪の声で
永遠に離れない愛 第10話
私は彼に怒り心頭で、胸が痛くなるほどだった。「私は元カノよ、ゆいが今の彼女でしょ？元カノのために今の彼女を殴るなんて……っ、げほっ……」激しい咳き込みで体が震える。「……最悪だわ、知哉」十年の付き合いで、初めて彼に手を上げた。今まで一度だって指一本触れたことなどなかったのに。今感じている胸の痛みは、言葉では表せない。震える手で知哉を指さす。「私たちはもう別れたのよ、知哉……新しい彼女がいるのに、元彼に執着して……あんた、本当にクズじゃないの、知哉？！」知哉は顔をそむけたまま、しばらく動かなかった。私は彼の様子を見ながら、さらに罵って追い払おうとした瞬間、服の裾が引かれた。「澪」子供のように私の服の裾を握りしめ、諦めきれない様子で見上げてくる。声はかすれていた。「説明してくれ」私は冷笑した。「五年前に済んだ話よ。お金持ちの生活が好きだって、貧乏人のあなたなんか嫌いだって……」「でも、今の俺はもうあの貧乏人じゃない！」知哉の目が真っ赤に染まる。肩を強く掴まれ、震える声が響いた。「もう違う、もう貧乏じゃないんだ、澪、もう貧乏じゃない……もうお前にアパート暮らしさせない、一日中カップ麺ばかり食べさせたりしない……澪、お願いだ。戻ってくれ。償わせてくれ……」耳元に迫る哀願に、体が思わず震える。なぜ？どうしてここまでして、彼は諦めないの？あんなにひどいことをしたのに。私を恨むべきなのに。まだ……絶望が足りなかったってこと？目を開け、古びた階段の天井を仰ぎ見ながら、涙を落とす。長い沈黙の後、深く息を吸い込み、彼の手を払いのける。「もう無駄よ、知哉」知哉は目を大きく見開き、手足をもがくように言う。「どうして無駄なんだ、俺、何だって変えられる、何だってあげられる……澪……」胸を切り裂かれるような痛みをこらえ、目の前の深く愛した人を見つめ、私は人生最大の嘘を口にする。「だって、私はもうあなたを愛していないの、知哉。あなたが五年間一途に想い続けても、私の気持ちはとっくに消えていたの」目の前で、私の言葉に衝撃を受けた知哉の虚ろな表情を見つめ、手を振り払い、隙を見て部屋の扉を開け、彼を外に置いていった。その後の細かい記憶は、もうあまり覚えていない。ただ一
永遠に離れない愛 第9話
その言葉が出た瞬間、ゆいの涙はついに抑えきれず、顔を覆いながら大声で泣き出した。「私にあなたの彼女役をさせたのも、あの人を刺激して振り向かせろって言ったのも、あなたじゃない……どうして私を殴るの！？私はずっとあなたの命令通りにやってきたのに……」言い終わるか終わらないかのうちに、知哉は冷たく嗤い、一歩一歩ゆっくりと彼女に近づく。激しい怒りがゆいを襲い、彼女の脚は震えて力が入らなくなる。「お前に、彼女を殴れなんて指示を出した覚えはない」鋭い眼光でじっと見据える。ゆいは口を押さえ、気づけば涙が顔を覆っていた。「契約の内容は、お前が数日間俺の彼女を演じること。俺はお前の小林グループを危機から救う」知哉は首を動かし、ゆっくりと背筋を伸ばして見下ろすようにゆいを見つめる。「お前も、お前の父親もな」知哉は冷笑を漏らす。「その下心は全部しまえ。お前みたいな女は、俺には価値がない」全てを看破されたゆいは震え上がり、抑えきれない感情が爆発した。「どうして？家柄も、学識も、容姿も、私は澪に劣るところなんてないのに……どうして！？」知哉は冷静に、感情が崩壊した彼女を見つめる。「しかも、あいつは一度お前を振ったんだぞ……」反論がないのを幸い、ゆいは勇気を得たように知哉の腰に手を回す。「知哉、……私の良さを知らないからそう言えるの。一度でいいから……」ふくよかな胸を押し付けながら甘える。「私なら、あの女が与えられないもの全部……あっ！」ゆいが言い終わらないうちに、知哉は彼女を雪の上に押し倒した。彼は薄い唇をわずかに開き、低く言葉を吐き出す。「汚らわしい」たった一言で、ゆいは雷に打たれたように凍りつく。「今のお前の行為だけで、一生あいつには及ばない」知哉は冷たく言い放ち、振り返ることもなく去って行った。ゆいはその場に一人取り残される。知哉が近づいてくると、待ち構えていた運転手が慌てて車のドアを開け、「ボス、澪さんの住居が判明しました。明日ですか、それとも……」「今だ」知哉は迷わず答えた。運転手は頷き、アクセルを踏み込む。【澪視点】ここで知哉に会うとは、全く思っていなかった。この五年間、半死半生の体を維持するため、貯金をすべて使い、借金もたくさんした。海外で
永遠に離れない愛 第8話
「なにが『もったいない』んだよ？」委員長はその様子を見て、またあの見栄っ張りな態度を取り、大きく手を振る。まるでこの酒は自分が買ったかのように。「さあ飲め！まだ14杯残ってるじゃないか。澪がジュースを飲んだんだし、俺たちは一人一杯ずつワインを……楽しいだろ？ハハハハ……」皆は大笑いし、まるでこの言葉を待っていたかのようにワインを取りに行く。しかし、騒ぎの中で、ひとつだけ時期外れの声が響いた。「知哉さんがいないのに、人の酒を飲むのはちょっと……」だが、そのか細い声はすぐに押しつぶされ、誰も耳を貸さない。ゆいも一杯を手にした。彼女は本当は飲む気などなかったが、1本で十数万円のワインと聞き、思わず一口飲んでしまう。紫色の液体が喉を滑り、ゆいはグラスを置き、味を思い返して眉をひそめる。突然、ひとつの推測が心に浮かぶ。全身の血が凍りつく思いだった。その瞬間、委員長たちも疑問の声を上げ始めた。「おい、これワインって言うけどジュースじゃねーか？」「俺のも同じだ……」「いや、間違いなくただのぶどうジュースだわ。年に何百回も飲んでるからわかる」……話しているうちに、皆は突然同時に硬直した。そう、すべてがジュースだったのだ。最初から、知哉は澪を責めてはいなかった。ガラッ！個室のドアが突然、荒々しく蹴り開けられる。全員が身震いする。知哉が全身から低気圧のようなオーラをまとい、入ってきたのだ。酔っぱらった委員長も、この瞬間には覚めたかのように硬直する。彼は気まずそうに前に進み、口ごもりながら言った。「知哉さん、す、すまない、あの…ワインが……」知哉は淡く彼を一瞥し、気にも留めない。代わりに、カウチに座るゆいを見据え、陰鬱な顔で言う。「出てこい」ゆいの体が硬直する。鼓動が早くなりながら、知哉の後を追った。この先の運命がわからなかった。知哉は、勝手に案内しようとするウェイターなど無視し、直接ゆいを会所の裏口から連れ出す。彼は終始冷たい顔で、余計な言葉は一切発しない。時刻は深夜、通りには人影もまばら。夜明け前の街は人気がなく、オレンジ色の街灯が降り積もる雪を照らしていた。ドラマなら、主人公が愛を告白するのにふさわしい情景だ。ゆいの緊張も少しほぐれ、長年の願い
永遠に離れない愛 第7話
彼の顔に暗い影が満ちているのを見て、私は容赦なく嗤った。「犬に噛まれたんだってさ」知哉の喉が詰まる。彼も馬鹿ではない、瞬時に誰のことかわかったようだ。陰鬱な顔で、ゆっくりと私の下顎から手を放す。「住む場所はあるのか？」「ありますよ。島崎社長をわざわざ心配させる必要はない」私は冷たく嗤い、皮肉たっぷりに言う。「社長さんがまだ帰らないなら、次にゆいさんと会うときに告げ口してやるわ」言い終えると、知哉の表情など気にせず、車に向かう。ダブルウインカーを点滅させたタクシーが目の前に停まる。礼儀正しく別れを告げることもなく、私はドアを乱暴に閉め、小さなアパートへ戻った。一方。委員長たちはしばらく遊び戯れていたが、やがて何かがおかしいと気づく。「え？委員長、知哉さん、トイレから戻ってこないな。長すぎないか？」委員長も酔っ払っており、酒臭い息を吐きながら答える。「気にするなよ！あいつがいない方が……げっぷ……気楽だろ！もう勘定は済ませてくれたんだから、ビビってんじゃねえよ……」「そうそう、やっぱ委員長賢いな、ハハハ……」……ゆいは眉をひそめ、憂鬱そうな顔で手にしたグラスを揺らす。先ほど澪が言った言葉は、まるで刺のように彼女の心に突き刺さる。たとえ知哉が彼女とただの取引で関係していたとしても、彼の時折見せる優しさは、本物に違いない。骨の髄まで染み込んだような愛は、演技でできるものじゃない……まさか、自分のこの澪に似た顔のせいなのか？ゆいは悔しさで、服をぎゅっと掴む。なんで、なんでこんなことになるの？私、ゆいの家柄も、学識も、容姿も、どれも澪に劣っていないはずなのに！なのに、どうして私の中に彼女の影を見つけるの！？考えれば考えるほど腹が立ち、手にしたグラスが小刻みに震えた。ありえない、ありえない。知哉が私に気持ちを持っているに違いない。澪というあのビッチは、わざと私をかき乱しているのだ。きっとそうだ。ゆいはしばらく考え込み、ようやく感情を落ち着ける。その時、背後の酔っ払い連中が、突然別の興味を示し始めた。「おい、委員長」体育委員が酔い潰れてふらふらしながら、グラスを持って歩いてくる。「見ろよ、さっき知哉さんが用意したワインだってさ。全部最高
永遠に離れない愛 第6話
ドンドンドン！ドンドンドン！激しいドアを叩く音で、記憶の底から引きずり戻された。「このクソ女、出てこい！澪、出てきやがれ！」ぼんやりとしていた意識がようやく戻り、ノックしているのが知哉の現カノ、ゆいだと気づく。彼女がこんなに怒っているのは、なぜだろう……私を脅威だと感じたのか？正直、そんな必要はない。あと10日もすれば、私は死ぬ身なのだから。深く息を吸い、トイレの水を流すボタンを押す。血でいっぱいの浴槽を洗い流してから、ようやく扉を開ける。ゆいは挑発的な視線を私に向け、ふと後ろの床を見て悲鳴を上げた。「きゃあっ！血……血がっ！」眉をひそめ、面倒くさそうに振り返る。水を流したとはいえ、どうしても少しは外に血が残ってしまう。深呼吸して、一気にゆいを押しのけ、先制して嘲笑する。「どうしたの？生理とか経験ないの？」「……？」一瞬呆然とし、ゆいが眉をピンと立てる。「この汚い女、私を押す気？知哉は大人だから許しているけど、私はそんな度量ないわよ！」私は冷たく彼女を見る。「そうね。だから彼は、度量のないあなたなんて愛してないのよ」その言葉で、ゆいの顔色は一瞬で青ざめる。次の瞬間、彼女は手を振り上げ、私を叩こうとした。私は避けず、堂々とその平手を受け止める。死にゆく身だ、たかが一発のことを気にする必要もない。ゆいは全力で叩いたらしく、右耳が一時的に聞こえなくなり、耳鳴りがした。血が腫れた唇の端から滴る。「これで満足？」ゆいは、私が反撃しないことに驚くが、気勢では負けたくない。両手を腰に当て、顎を上げ、軽蔑の眼差しで私を見る。その角度で見たゆいの顔――私と八割方似ている。一瞬呆然とするが、すぐに自嘲の笑みを浮かべ、ゆいを迂回して出口へ向かう。「澪、調子に乗らないで。知哉がどんなに前にあなたを愛していても、私が彼を変えてみせる！」後ろでゆいが叫ぶ。私は足を止めず、振り返らずに淡々と返す。「ふーん、そう？」「もちろんよ！」ゆいは拳を強く握る。「彼は私に気持ちがあるって、わかるのよ！」その言葉で、私は顔を覆い、ゆいの視点からは震え始めた背中しか見えない。「ハハハハハハハハ……」抑えきれない笑いが喉から漏れる。「このビッチ、何
