LOGINShare
第468話
Latest chapter
永遠の毒薬 第474話
直人は一言だけ返した。「タバコを吸いに行ってくる」胸の中の辛い気持ちは、どうしても抑えきれなかった。乃亜は「うん」とだけ答え、直人を外へ送り出すと、大きな足取りで病床へと向かった。紗希を見て、心が痛んだ。思わず声をかけた。「紗希！」その瞬間、涙が止まらなかった。紗希もまた涙をこぼしながら言った。「乃亜、私はもうダメだ......」「違う、あなたはダメじゃない！まだ立ち上がれるし、普通に歩ける。普通の生活だって送れるよ！」乃亜は必死に励まそうとした。「でも、足が......」義足をつけたとしても、もう短いスカートやショートパンツを履けないし、生活はどうしても不便だ。「紗希......」乃亜は彼女を強く抱きしめ、たくさんの言葉を言いたかったが、何も言えなかった。晴嵐が目を覚ますと、家には誰もいなかった。しかし、彼は淡々と洗面を済ませ、冷蔵庫からパンと牛乳を取り出して食べた。その後、上の階に上がり、バッグを整理した。下に降りると、リビングに拓海が座っているのを見て、驚きの表情を浮かべた。「パパ、仕事に行ってなかったの？どうして戻ってきたの？」以前、両親が忙しい時は、よく家に一人で残されていたので、起きたときに家に誰もいなくても、仕事があるんだろうと理解していた。「今日は保育園に行く日だから、もちろん送るよ！」拓海は晴嵐のバッグを見て、笑顔で言った。「もう準備ができているんだね、すごい！」晴嵐は2歳の時から一人でお風呂に入り、顔を洗い、歯を磨き、服を整えることを覚えた。3歳になった今、かなり自分でできることが増えていた。おじいさんたちは、「子供があまりにも賢いと、早く亡くなる」とよく言っていた。そのため、乃亜はこんなにしっかりしている息子を見るたびに不安を感じていた。晴嵐は実は今日、保育園に行くつもりはなく、凌央を探しに行こうとしていた。バッグの中には、コンピュータと携帯が入っている。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、拓海にニコニコと微笑みかけて言った。「今日はちょっと体調が悪いんだ。パパ、先生にお休みをお願いしてくれない？」と額をさすりながら、「頭が痛いよ！」拓海は彼が演技をしていることに気づき、クスッと笑いながら言った。「それは僕には決められないよ！ママに聞かないとね！」子供の教育に関して、拓海は乃亜とい
永遠の毒薬 第473話
乃亜は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。「何ですって？」咲良は大きく息を吸ってから、強い口調で言った。「凌央が私に裁判を頼んできたんだ。晴嵐を奪おうとしてる」乃亜はようやくその言葉を理解し、冷たい表情を浮かべた。「他の人に頼んで、私の息子を奪うつもり？そんなことさせるわけにはいかないわ。もし裁判を起こすなら、ライブ放送を要求するわ。桜華市中の人々の前で恥をかかせてやる！」凌央が一体、どういうつもりで息子を奪おうとしているのか。乃亜は理解できなかった。「私はその場で断った。でも彼は、『桜華市の弁護士界ではやっていけないようにしてやる』って言ってきた」咲良は桜華法律事務所のトップ弁護士で、年収も高い。凌央の脅しなんて全く怖くない。そして、乃亜という強力なバックもある。「彼がまたあなたに頼んできたら、私が直接相手をしてやるわ」乃亜は冷笑した。「美咲のために何度も私を陥れ、結局は死んだことにされて逃げ出した。やっと三歳の息子を育て上げたのに、こんなことをされるなんて、信じられない！」「乃亜姉さん、心配しないでください。私、絶対にあなたの味方よ！」咲良は力強く言った。乃亜姉さんが今の私を作ってくれたから、恩を仇で返すなんてできるわけがない。「うん、分かってるわ。じゃあ、私は少し用事があるから、先に行くわね」乃亜は電話を切り、急いで中に入っていった。その時、拓海の携帯が鳴った。「もしもし」電話の向こうから助手の声が聞こえる。「拓海さん、聞いたんですけど、凌央が裁判を起こして、晴嵐の養育権を奪おうとしているみたいです」拓海は目を細め、唇に軽い嘲笑を浮かべた。「分かった」「会社に急ぎで見ていただきたい書類があるのですが、いつ来ますか？」「今行く」拓海は電話を切り、スマホをテーブルに置いた。タバコが吸いたくなったが、晴嵐が生まれてから一度も吸っていなかった。タバコもない。少し落ち着いてから、拓海は車を走らせた。乃亜は最速で病室に到着した。扉を開けた瞬間、紗希の怒鳴り声が聞こえた。「直人、出て行け！」乃亜は急いで扉を開けた。何かが彼女に向かって飛んできたが、乃亜は慌てて避けた。「パリン！」という音とともに、ガラスのコップが床に落ちて割れた。乃亜は深く息を吸い、冷静になった後、扉を開けて
永遠の毒薬 第472話
拓海は乃亜の隣に座り、心が静かになり、体もリラックスした。彼女がそばにいるだけで、心地よさを感じる。翌朝、乃亜は目を覚まし、無意識に手を伸ばして背伸びをした。しかし、拳が誰かにぶつかり、驚いた顔をした。「目が覚めた？」次の瞬間、深い愛情を感じる瞳が彼女を見つめていた。「拓海、どうして私のベッドに？」昨夜、ソファで寝落ちしたはずなのに、その後のことは全く覚えていなかった。「君が寝ていたから、ベッドに運んだんだ。そして、君が僕の腰を抱えて離さなかったから、そのまま残ることにした」拓海は穏やかに言った。「昨夜遅くまで起きていたから、もう少し寝ていてもいいよ。僕は先に朝ごはんを作って、出来たら起こしに行くよ」乃亜は返事をしようとしたが、その時、携帯電話が鳴った。急いで携帯を取ると、通話が繋がった。「乃亜、早く来てくれ！紗希が目を覚まし、怒っているんだ。俺一人じゃどうにもならない！」電話の向こうから直人の慌てた声が聞こえた。乃亜は急いでベッドから飛び起きた。「わかった、すぐ行く！」麻酔が切れたことに驚いたが、自分の不注意だと感じた。電話を切った後、乃亜は急いでベッドから降り、「寝てていいよ、私は急いで病院に行くから。紗希の状態が良くないみたい！」そう言いながら、衣装部屋へ向かった。拓海は急いで起きて、階下に降りてキッチンへ向かった。乃亜はバッグを背負って階下に降りると、拓海が温かい保温ボックスを持って、ドアの前に立っていた。足元には小さな白い靴が置かれている。乃亜は深呼吸をして、靴を履き、保温ボックスを手に取った。「行こう、車で行こう。途中で食べながら行けるよ」車に乗り込み、乃亜は保温ボックスを開けた。中には肉まんがいくつか入っていて、薄い皮とたっぷりの具が詰まっており、一口食べるとジューシーな肉汁が広がった。「ゆっくり食べて、気を付けて。車には牛乳もあるから」乃亜は一つ食べたが、それ以上食べられなかった。頭の中はずっと紗希のことでいっぱいだった。拓海は彼女が苦しんでいるのを見て、心が痛みながらも、優しく言った。「君の体が一番大事だよ。無理しないで」彼は彼女に無理をさせることなく、静かに彼女を見守った。「紗希の右足を......切断した」乃亜は深く息を吸って、感情が
永遠の毒薬 第471話
車のナンバーが外されてる。ナンバーが無ければ車主がわからないと思ってるのか？ふふ......彼女は冷笑を浮かべて言った。「このマンションの車は、外部の車は登録しないと入れない。もしこの車がマンションの住民なら、情報はすぐに分かるし、外部の車でも登録情報がある。けれど、この人は紗希を殺すつもりで車を使っているなら、偽の情報を使っているはず」「もう一つの可能性は、マンションのオーナーが手配して、車をそのまま通したことだ」「どんな状況でも、私は最短時間で車の情報を突き止める」そう思いながら調査を続けようとしたその時、ドアの外からノックの音が聞こえてきた。「来たか！」コンピュータを閉じ、立ち上がってドアへ向かう。ドアを開けると、すぐに温かい眉と目をした男が目に入った。彼女は安心感を感じた。「こんなに早くできたの？さあ、下に行こう、食事しよう」乃亜は手を伸ばして彼の腕を取ると、二人は一緒に階段を降り始めた。テーブルには餃子が置かれていて、その香りが漂ってきた。「いつ餃子を包んだの？」乃亜は驚いた表情で尋ねた。彼女は餃子が好きだけれど、冷凍餃子は食べないので、毎回拓海が自分で包んでくれる。「君が出かけてから、すぐに生地をこねて、具を作って、少ししたら包み始めたんだ」拓海は穏やかに言った。「最初はうまくいかなかったけれど、君が餃子を好きだって知って、練習したんだ」最初は失敗ばかりだったけれど、今では手際よく、きれいに餃子を包むことができる。「拓海、こんなに私に良くしてくれるなんて」乃亜は目に涙を浮かべ、心から感動していた。拓海は彼女の涙を拭きながら、優しく言った。「君に何も返してほしいなんて思ってないよ。負担に感じないで、早く座って餃子を食べて。冷めちゃうから」拓海は乃亜が彼にとって何よりも大切だと知っている。彼は、乃亜がどう感じているか、気にすることなく、ただ彼女のためにできる限りのことをしている。乃亜は深呼吸してから、ようやく餃子を食べ始めた。拓海は彼女の隣で、静かに見守っていた。時々、一緒にいるだけで、何も言わなくても幸せを感じることがある。「食べる？」乃亜は餃子を箸でつまんで、少し傾けながら彼に尋ねた。「うん」拓海は答えて、突然彼女の箸から餃子を食べた。乃亜は驚いて顔が
永遠の毒薬 第470話
紗希は美しいことを大切にしているから、足の一部を失うことを受け入れられるわけがない。乃亜は冷たい顔をして、医師や看護師の後ろについて病室に入った。全ての検査が終わり、紗希を看護スタッフに任せて安心した。振り返り、直人に冷たい目で言った。「外に出て。話がある」直人はベッドの横に歩み寄り、横たわる紗希を見つめた。彼女はとても痩せていて、顔が小さく、今は弱っているように見える。まるで、すぐに消えてしまいそうな感じだ。乃亜は冷たく言った。「彼女を守れなかったくせに、今更後悔しても意味がない。外に出て、話がある」直人は目をそらし、乃亜に従って病室を出た。「なぜあなたがあそこにいたの？一体何があった？」乃亜は率直に尋ねた。紗希が今こうなってしまったことを考えると、心が痛む。だからこそ、直人には本当に怒りを感じている。こんな質問ですら、彼には十分優しくしているつもりだ。「彼女と話をしたかったんだ。でも、彼女は話したくなくて逃げてしまった。その後、車にひかれたんだ」直人はその時の出来事を思い返して言った。「あなたが仕掛けたわけではないの？」乃亜は疑いの目を向けた。「もちろん、違う！」直人は強く否定した。「そんなことをするわけがない！どうして俺が彼女にそんなことをするんだ！」彼は心の底から彼女と一緒に生きたかった。「もしあなたが関わっていないなら、私が調べる。もしあなたの両親や婚約者が関わっていたら、私は容赦しない。その時は頼んでも無駄だから」乃亜は冷たく言い放った。この2年間、会社は順調で、紗希を狙うようなライバルは考えられない。紗希はすでに家族とは連絡を取っておらず、今の状況を知っている人は誰もいない。家族が関わることは絶対にない。それなのに、直人が現れたその時に紗希が車にひかれた。どう考えても、これは直人に関係している。直人はその場で立ち尽くし、乃亜の言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。両親や舞衣......その中で、誰が関わっているのか？乃亜が家に帰ると、拓海はソファに座って書類を読んでいた。遠目に見ると、穏やかな時間が流れているように見える。その瞬間、少し心が温かくなった。足音が聞こえ、拓海は書類を置き、立ち上がって歩み寄った。「待たなくていいって言ったよね？」乃亜は優しく
永遠の毒薬 第469話
乃亜は服を整えながら、靴を取ろうと手を伸ばした。拓海は彼女より先に靴を取り、しゃがんで彼女の足元に置いた。「足を上げて、履いて」晴嵐は非常にしっかりとした考えを持っている子供で、言いたくないことは一切口にしない。「私行ってくる。紗希の状況次第では、今日帰って来れないかもだけど、私のことは心配しないで。早く息子を寝かせてあげて」拓海の手助けで、乃亜は靴を履きながら、心配そうに言った。拓海は立ち上がり、優しい目で彼女の顔を見つめ、唇の端に柔らかな笑みを浮かべた。「わかった、気をつけてね」乃亜は彼の服を引っ張り、つま先を立てて、彼の唇に軽くキスをした。「言ったこと、全部覚えてるからね！」毎回、外出するたびに拓海はこんなに繰り返して彼女に注意してくれる。まるで彼女を子供のように扱っているみたいだ。でも、少し温かい気持ちが湧いてくる。誰かがいつも気にかけてくれることって、幸せを感じさせてくれる。拓海は思わず彼女の頭を優しく撫でた。「また僕をからかうつもりか？信じて、君を行かせないぞ！」乃亜は手を振りながら「私を捕まえられる？」と答え、足を速めて走り出した。彼女の元気に走る姿を見て、拓海は思った。どんなに最後の一歩を踏み出せなくても、彼女のそばにいられるだけで、幸せだと。乃亜の姿が見えなくなった後、拓海は急いで携帯を取り出し、電話をかけた。「乃亜の後を追って、誰かつけておけ」彼は心配で、乃亜に何かあったらどうしようと気が気でなかった。乃亜は急いで病院の救急室に到着した。直人は彼女を見て、すぐに立ち上がった。「紗希はまだ中にいるの？」乃亜は尋ねた。「はい！」「あなたが伝えておいて。私が直接手術をする」声には毅然とした決意が感じられた。直人は驚きの表情で彼女を見た。「お前が手術をするのか？」「そうよ、私のこと信じられないの？もたもたしてる暇ないわ、どいて」乃亜は無駄な言い訳を許さなかった。直人は言葉を返さず、すぐに手続きを進め、乃亜を救急室に通した。手術室のドアが閉まった後、直人は深く息をつき、罪悪感で胸が苦しくなった。もし自分があそこで現れなかったら、紗希は車にひかれることはなかったはずだ。すべて自分のせいだ。救急室のライトは夜の2時まで消えることがなかった。直人は外で待っ
