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第18話

Auteur: 三原 笑
汐恩は喉に広がる苦味をそっと飲み込み、ゆっくりと言葉を選んだ。

「......誤解してる。そんなこと、さすがに俺でもやらないよ。けど安心してくれ、この件、必ず真相を突き止める」

だが、綾羽は特に反応を見せなかった。

彼女の中に、汐恩への信頼というものはもう存在していない。

これだけ長いあいだ彼に付きまとわれた経験がある彼女にとって、「店を潰してでも自分の元へ引き戻す」なんて考えが、彼にないとは思えなかった。

なにしろ――汐恩は、目的のためなら手段を選ばない人間なのだ。

これ以上言葉を交わす意味はない。

綾羽は席を立ち、奏多と共に厨房へ向かっていった。

一方の汐恩は、自ら調査を始めるため人脈を頼った。

この土地は彼の勢力圏ではなかったが、それでも彼のツテと資金力があれば、調べごとなど造作もない。

店が封鎖された翌日、まだ保健所が結論を出していない段階で――汐恩は調査報告書を手に、再び現れた。

その結果は、あまりに衝撃的だった。

黒幕は、なんと美玲だったのだ。

彼女は昼時の忙しいタイミングを狙って、厨房が目を離した隙にこっそり侵入し、食材に異物を混入させていた。

「うちの人間が乗り込んだ時には、もう風の噂を聞いて逃げた様だが、証拠は全部そろってる。どこに逃げようが、いずれ捕まる」

汐恩は報告書を綾羽に差し出した。その目はいつになく真剣だった。

「すでに捜索も始めさせた。今日中には何かしら動きがあるはずだ」

綾羽は無言のまま視線を落とし、数ページを読み進めてから、静かに目を閉じた。

まさか、ここまでやるなんて。

綾羽は信じられなかった。

たった一人の男を引き留めるために、自分を排除しようと法まで犯すなんて。

正気の沙汰じゃない。

昔の彼女なら、そんな美玲の一途さに少しは哀れみを覚えたかもしれない。

だが今の彼女は、ただ呆れていた。

男ひとりの気持ちを繋ぎとめるために、自分の人生を棒に振る――あまりに愚かで、救いようがなかった。

報告書を返し、綾羽はふらりと立ち上がって店の入り口へ向かった。

外には、やわらかな日差しが降り注いでいる。

店が封鎖されたのを、彼女は一種の「休息」だと捉えていた。

これまで目まぐるしい日々を送っていたのだから、少しくらい陽の光を浴びる時間があってもいい。

橙色の光が肩に、髪に、そして小さく
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