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流年に空しく涙尽きし時
流年に空しく涙尽きし時
Penulis: ドリアン

第1話

Penulis: ドリアン
家を出て五年目。村上莉音(むらかみ りおん)を海外に放置したまま一度も連絡を寄こさなかった父親が、突然人を遣わして彼女を連れ戻した。

彼女はついに、家族が自分という隠し子を受け入れてくれたのだと思っていた。

だが、彼女を待っているのは恋人の青山涼介(あおやま りょうすけ)が監禁されているという事実だった。莉音の父は、彼を拷問する映像を毎日彼女に送りつけ、江原家の目が見えない御曹司との結婚を強要してきた。

両手を縛られ、血まみれになった涼介の姿を見て、莉音はついにそのことに同意した。

しかし、ようやく涼介が解放されたその夜。莉音は慌てて彼に「一緒に逃げよう」と言いに来た時、彼の部屋から聞こえてきたのは姉の村上玲乃(むらかみ れの)の声だった。

「涼介、ありがとう……莉音は私の父を奪った。彼女の母親は私の母を怒らせて死なせたのよ……彼女があのとき海外に行かなかったら、もしかしたら父は彼女のために私を捨てていたかもしれないわ」

「でも彼女、あなたのことをとても好きだね。しかし五年間、彼女のそばでボディガードのふりしていたのは、全て私の復讐のためだった。そんな事実を知ったら、彼女は狂っちゃうじゃない?」

五年の付き添い、生死を共にすると思っていた彼の想いは――ただ玲乃に捧げる忠誠の証でしかなかった。

……

祠堂に閉じ込められて十五日目、莉音はついに口を開いた。「村上さんに伝えて……彼の条件、受け入れるって」

そう言い終えると、電話越しから彼女の父の歓喜の声が響いた。

「莉音、やっとわかってくれたか!安心しなさい、君は村上家の戸籍には入れないが、それでも娘として認めているさ。江原家には、盛大な式で嫁がせてやるからな……」

「娘?」彼女はふっと笑い、震える指先を必死で抑えながら冷たく言った。「私の母はあなたの妻でもないのに、私があなたの『娘』だと?」

相手の沈黙を無視して、さらに皮肉めいて尋ねた。「村上さん、『隠し子』も娘なのか?」

「莉音!」

怒りに駆られた彼の声が低く響いた。「忘れるな、あの男はまだ俺の手の中にあるぞ。あいつの命が惜しければ、結婚するまでは大人しく従うんだ!」

涼介の話を聞いた瞬間、莉音の呼吸が止まった。

「彼はどこ……彼をどうしたの!私もう江原湧仁(えはら ゆうじん)と結婚すると言ったじゃない、だからお願い、彼を放して!」

しかし、電話は無情にも切られた。

代わりに送られてきたのは、一分半の映像だった。

シャツ姿の男が血まみれで倒れ、彼女が彼のために求めた数珠のブレスレットは床に散らばっていた。

涼介は手を後ろに縛られ、目からは血の涙が流れ、ひび割れた唇が音にならない言葉を形作った。

彼は彼女を呼んでいた。

「莉音……助けてくれ……」

目の見えない男に嫁ごうと、生みの父に祠堂へ閉じ込められようと、眉ひとつ動かさなかった莉音──そんな彼女が、ただこの瞬間だけは、声を枯らして絶叫した。

使用人の手を振り払い、彼女はその場に崩れ落ちて号泣した。「私が江原家のあの目の見えない男と結婚すれば、彼を放してくれるって、そう言ったじゃないか!」

タイミングを見計らったように、彼女の父の秘書が静かにメモを差し出した。「莉音お嬢様が大人しく嫁入りするなら、村上社長は青山様にこれ以上手を出しません。今、彼に会いに行けます」

十五日前、彼女を五年間も海外に放り出し、音沙汰一つなかった血の繋がった実の父親が、人を遣って彼女を迎えに来た。

その時、莉音は喜びいっぱいで、やっと家に帰れると涼介に言った。

だが、彼女を待っているのは恋人の涼介が監禁されているという事実だった。莉音の父は、彼を拷問する映像を毎日彼女に送りつけ、江原家の目が見えない御曹司との結婚を強要してきた。

江原家と交わした婚約は、もともと玲乃のためのものだった。

だが湧仁が事故で視力を失い、後継者争いから脱落すると、莉音の父はもう一人の「娘」の存在を思い出したのだ。

涼介は、莉音の父が彼女の監視役として送り込んだボディーガード。そして彼もこの五年間、彼女の唯一の支えだった。

そして彼は、彼女の一番の弱点だ。彼女にとって、彼は命よりも大事な存在だから。

莉音は意識を取り戻し、紙を握りしめると、何も見ずに走り出した。

長期間の絶食で、ハンドルすら満足に握れず、何度も追突しかけながら目的地に到着した。

胃の痛みに耐え、震える手で口紅を塗り直し、ようやく呼吸を整えて扉に手をかけた、その瞬間――

部屋の中から、聞き覚えのある低音が聞こえてきた。

それは涼介の声だった。女の甘い笑い声と混ざり、莉音の鼓膜を突き刺した。

ブラインドの隙間から見えるのは、あの動画の中で血まみれだった男が、今は仏前に跪き、ぼんやりした瞳に玲乃の甘い笑顔を映していた。

五年間、冷静で禁欲的だったはずの涼介が、玲乃の名前を呼びながら欲望の深みに堕ちていった。

ただ画面に映る玲乃の顔を見ただけで、すでに抑えきれなくなっていた。

「玲乃……」彼はかすれた声で呟いた。「助けてくれ、君に会いたくてたまらない……」

ビデオ通話の先で玲乃が甘ったるく笑い、嬉しそうに言った。

「涼介、やっぱり一番私に優しいのはあなただよね」

「莉音は私の父を奪った。彼女の母親は私の母を怒らせて死なせたのよ……彼女があのとき海外に行かなかったら、もしかしたら父は彼女のために私を捨てていたかもしれないわ」

「でも彼女、あなたのことをとても好きだね。しかし五年間、彼女のそばでボディガードのふりしていたのは、全て私の復讐のためだった」

「そんな事実を知ったら、彼女は痛すぎて狂っちゃうじゃない?」

ドア一枚隔てて、莉音は自分の手首を強く掴み、血のにじむ歯型がひりひりと疼いた。

それは、祠堂で彼への想いに狂い、自らの体に噛みついた痕だった。

どれほど時間が経っただろう。熱い涙が頬を伝うほど長い時間、涼介は首を硬くしたまま激情をぶつけた。そして玲乃の命令通り、莉音が自ら縫ったお守りで下半身の汚れを拭い去った。

そのお守りは、彼女の足元に無造作に投げ捨てられた。そして彼は冷たく言い捨てた。「彼女なんてどうでもいいさ。玲乃、君はわかってるだろ……この五年、俺がどれだけ我慢してきたか」

玲乃は愉快そうに笑った。「彼女、ほんとバカね。偽物の血も本物だと思って、あなたが傷ついたってだけで魂抜けたみたいな顔をして」

彼らの声が遠ざかった。

莉音は無表情でしゃがみ込み、一針一針自分で縫い上げたお守りを拾い上げた。

その瞬間、胃の奥がひっくり返るような吐き気が襲った。

彼女はもう抑えきれず、壁に手をついて嘔吐した。胆汁に血が混じり、彼女の姿がぐちゃぐちゃになった。

五臓六腑が絡み合ったように締めつけられ、呼吸すらままならなかった。

涼介と出会ったあの日は、莉音の十八歳の誕生日だった。そして、初めて村上家の門を叩いた日でもあった。

母の遺骨を抱えて村上家の前で泣き崩れた彼女は、ただ、母に墓を与えてほしかった。

彼女は光を浴びることの許されない隠し子なのだ。しかし彼女の母も、ただ騙され、感情を弄ばれた一人の女にすぎなかった。莉音の父の二人目の子を身ごもった彼女は、分娩台上で難産の末に息を引き取ったのだ。

彼女の十八歳の誕生日の願いは、ただただ支え合って生きてきた母を葬ってあげることだった。

雨に打たれ、死にかけていた彼女を抱えて村上家に運んだのが、涼介だった。

彼女の父は金を出すことに同意したが、代償として、彼女は二度と国内に現れてはならない、と涼介が教えてくれた。

彼女は全身が痙攣するほど泣きじゃくり、狂ったように彼を詰め寄った。「私もあの人の娘なのに……なぜ、なぜこんな仕打ちを受けなきゃならないの?」

熱い涙が涼介の肌に落ちた。男の息遣いが一瞬、鋭く乱れた。

彼は静かに抱きしめた。「俺がついてるよ」

彼女は信じなかった。でも翌日、彼は本当に彼女のボディーガードとして、共に海外へ旅立った。

五年の間、彼は一切の家事を引き受けた。洗濯に料理、そして自ら彼女のハイヒールを脱がせてさえ――まるで子供のように寵愛したのだ。

ただ、一度も一線を越えなかった。

彼女は彼の優しく細やかな心遣いに次第に惹かれていった。しかし莉音が酔って誘惑しようと、自ら抱きつこうと、裸になって涼介のベッドに横たわろうと、彼が数珠を回す手は微動だにしなかった。

「お嬢様」彼はため息をつき、布団に彼女をくるみながら、そのまま外へ抱き出した。「知ってるだろ?俺には俺の信仰があるんだ」

でも、彼女は聞いてしまった。閉じた扉の向こう、喉の奥で漏れる声。「莉音……莉音……」

かつて彼女は信じていた。彼は、ただ自分の信仰を超えられないだけ。待てばいいと信じていた。

だから彼女は三千段の石階を裸足で登り、血の滲む額を地に擦りつけ、祝福された数珠を手に入れた。

十指を針で貫き、血でお守りを縫った。

何枚も経典を書き、経幡を作り、仏前に捧げた。彼を救ってほしいと、ただ祈りながら。

だけど、今やっと気づいた。彼の「信仰」は、仏などではなかった。

彼が喉から絞り出したその名は、「莉音」ではなく、「玲乃」だった。

五年の付き添い、生死を共にすると思っていた彼の想いは――ただ玲乃に捧げる忠誠の証でしかなかった。

莉音は、自らを罰するように扉の前に座り込んだ。中の物音が静かになるまで。そして、震える手でドアノブを、ゆっくりと握った。
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