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第2話 ​

作者: バブちゃん​
「先輩が以前、社長のことが好きだったのは知っています。でも、社長は先輩にそんな気はなかったんですよね。前、二人の間で噂が立った時も、社長は裏で私たちに、ただの上司と部下だからってきっぱり否定していました」

その言葉が出た瞬間、周囲の私を見る目が一変した。

まるで、想いが届かずに逆上した、哀れな泥棒猫を見るかのような目だ。

私は公生を見た。

彼は目をそらし、視線を窓の外へと逃がして、私を庇う言葉を一言も口にしなかった。

8年間の秘密の恋。

彼のために、私はどれほど取引先のお酒に付き合い、どれほど会社を救う大口の契約を勝ち取ってきたことか。どれだけ周囲から都合のいい女だと噂されても、彼はいつも聞こえないふりをしてきた。

それなのに今、最後のプライドさえも、私に残してはくれない。

さらに周囲が調子に乗って囃し立てる。

「若草さん、社長はリナちゃんと籍を入れたんだから、これ以上しつこくすると泥棒猫ですよ。そんな噂が広まったら、会社が営業できなくなるんじゃないですか」

「その通りです。後輩の男を奪おうなんて、恥を知るべきですわ」

自分が一から育ててきた同僚たちを見つめながら、私は突然、すべてが馬鹿らしく思えた。

招待状を全部回収したくなるほど、彼らのことが嫌いになった気がした。

体の横に垂らした手でスマホを強く握りしめ、全員を冷たく見据えた。

「そこまで言うなら、婚約者を紹介しておく必要がありますね」

私がアルバムを開き、一弘とのツーショット写真を見せようとしたその時。

手首を不意に強く掴まれた。

公生が私のスマホをひったくり、その顔色はこれ以上ないほど険しくなっている。

「全員、仕事に戻れ!」

彼は周囲に向かって怒鳴りつけると、私の腕を引っ張り、社長室へと引きずり込んだ。

背後からは、リナを囲んで慰める声と、私に向けられた軽蔑の視線が突き刺さっている。

社長室に入るなり、公生は乱暴にドアを閉め、苛立たしげにネクタイを緩めた。

「籍を入れたのは罰ゲームだって言っただろう!どうしてみんなを巻き込んで泥沼にしないと気が済まないんだ!」

「罰ゲームだと言うのなら」

私は彼を見上げ、氷のように冷たい声で言った。

「どうしてさっき否定しなかったの?どうして私が泥棒猫呼ばわりされるのを、黙って見てたの?」

彼は言葉に詰まりながらも、どこか当然だと言わんばかりの口調で返した。

「リナはまだ若いんだ。プライドもある。みんなの前で彼女に恥をかかせるわけにはいかないだろう?」

だから、私のプライドなら、いくら踏みにじられても構わないというわけだ。

私は彼の手からスマホを取り返し、外へと歩き出した。

ドアノブに手をかけた瞬間、足を止めたが、振り返ることはなかった。

「結婚式は来週の土曜日。戸松さんと一緒に来て。待ってるから」

……

地下駐車場に着いた途端、スマホが鳴った。

以前から連絡をくれていたヘッドハンターからだ。

「若草さん、以前お話しした上場企業のマーケティング部長のポストですが、先方が提示額からさらに2割の給与上乗せを約束してくれました。もう一度、前向きにご検討いただけないでしょうか?」

その給与は、この業界における最高峰だ。

「お受けします」

私の声は驚くほど落ち着いている。

「それから、5億円規模の案件をそちらに手土産として持参します。それに見合うボーナスの確保をお願いします」

電話の向こうで、ヘッドハンターは喜びのあまり悲鳴を上げそうになっている。

「お任せください!万全の体制でお迎えできるよう、しっかりと手配いたします!」

電話を切り、車内に乗り込んだ私は、連絡先にある一弘の名前を指でなぞり、メッセージを送った。

【契約の調印は少し待って。後で連絡するから】

公生は会社の状況が厳しいと言い、私に足を引っ張るなと言った。

けれど、この8年間、会社の危機を命がけで救ってきたのは、一体誰だと思っているのだろう。

今回の久木山グループとの共同事業だって、私がプライドを捨て、一弘に何度も頭を下げてようやく掴み取ったものだ。

公生の会社の命綱となるはずの案件だった。

車を地下駐車場から発進させると、路頭の景色が猛スピードで後ろへと流れていった。

まるで、私と公生が共に過ごしたこの8年間の歳月が、あっという間に過ぎ去ってしまうかのように。

初めて彼に出会ったのは、大学の寮の前だった。

私の大親友である連城つむぎ(れんじょう つむぎ)の実の兄で、妹の夏休みの帰省を迎えに来ていた。白いシャツを着て木陰に立つ彼。笑った時に下がる目尻に、小さな泣きぼくろが見えた。

私はその一瞬で、恋に落ちてしまったのだ。

その後、卒業祝いの集まりで、私たちは一緒にお酒を飲みすぎ、気づけば一線を越えてしまっていた。

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