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私が惨死した後、母は狂ってしまった

私が惨死した後、母は狂ってしまった

By:  塩梅Completed
Language: Japanese
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家のブレーカーが落ち、母の養女・藤崎玲奈(ふじさき れいな)は暗闇の中に五分間閉じ込められた。 それを私のせいにして、母・藤崎文子(ふじさき ふみこ)は閉所恐怖症の私・藤崎美桜(ふじさき みお)を、誰もいない真っ暗な物置に閉じ込めた。 「玲奈が暗いのを怖がるって知ってるのに、わざとブレーカーを落として驚かせたんでしょう。今日はしっかり反省しなさい!」 私は「やってない」と泣いて懇願したが、返ってきたのは母の無慈悲な平手打ちだけだった。 「閉所恐怖症だなんて、贅沢な暮らしをしてるからそんなワガママが出るのよ!」 深夜、家に誰かが侵入した気配を感じた私は、すぐに著名な犯罪心理学者である母に電話をかけて助けを求めた。しかし、電話の向こうから聞こえてきたのは激しい怒声だった。 「玲奈と張り合いたいからって、そんな演技まで覚えたの!? 強盗って?だったらそのまま死ねばいいわ!私の邪魔をしないで!」 母の願い通り、私は残忍な方法で虐殺され、その死体は母が一番大切にしていた花壇に埋められた。 死後、私の魂は一匹の猫の体に宿った。 私はただ、母の周りをうろつくことしかできなかった。 それから五日後。警察が、バラバラにされた遺体を母のもとへ届け、犯人のプロファイリングを依頼した……

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Chapter 1

第1話

家のブレーカーが落ち、母の養女・藤崎玲奈(ふじさき れいな)は暗闇の中に五分間閉じ込められた。

それを私のせいにして、母・藤崎文子(ふじさき ふみこ)は閉所恐怖症の私・藤崎美桜(ふじさき みお)を、誰もいない真っ暗な物置に閉じ込めた。

「玲奈が暗いのを怖がるって知ってるのに、わざとブレーカーを落として驚かせたんでしょう。今日はしっかり反省しなさい!」

私は「やってない」と泣いて懇願したが、返ってきたのは母の無慈悲な平手打ちだけだった。

「閉所恐怖症だなんて、贅沢な暮らしをしてるからそんなワガママが出るのよ!」

深夜、家に誰かが侵入した気配を感じた私は、すぐに著名な犯罪心理学者である母に電話をかけて助けを求めた。しかし、電話の向こうから聞こえてきたのは激しい怒声だった。

「玲奈と張り合いたいからって、そんな演技まで覚えたの!?

強盗って?だったらそのまま死ねばいいわ!私の邪魔をしないで!」

母の願い通り、私は残忍な方法で虐殺され、その死体は母が一番大切にしていた花壇に埋められた。

死後、私の魂は一匹の猫の体に宿った。

私はただ、母の周りをうろつくことしかできなかった。

それから五日後。警察が、バラバラにされた遺体を母のもとへ届け、犯人のプロファイリングを依頼した……

……

「被害者は女性、年齢は十六歳から二十歳の間、死亡推定時刻は三日前です。

現在見つかっている遺体の状況からの判断ですが、被害者は生前……皮膚を剥ぎ取られ、ハンマーのような鈍器で全身を殴打され、粉砕骨折を起こしています。

被害者は生前、おそらく筆舌に尽くしがたい虐待を受けたものと……」

監察医の初期判断を聞き、その場にいた警察官たちは一様に息を飲んだ。

若い女性警察官などは、あまりに残酷な殺害状況を聞いて涙を流していた。

連絡を受けて急いで駆けつけた母は、その話を聞くと表情を険しくした。

母の姿を見て、高木健吾(たかぎ けんご)警部が挨拶をする。

「文子さん、来てくれたか。プロファイリングの件、頼むよ」

「ええ、務めだから」

母は私の遺体の方へと歩きながら、高木警部に尋ねた。

「これで何件目?」

「五件目だ。だが今回は……この連続殺人犯はとりわけ残忍だ……」

著名な犯罪心理学者である母は、現場に入り、地面に散らばる砕かれた骨の山を見つめたまま、長いこと言葉を発しなかった。

私の心の中に、微かな期待が湧き上がる。お母さん、私だって気づいてくれる?

母が死体を凝視したまま動かないのを見て、高木警部が緊張した面持ちで尋ねた。

「どうだ、被害者の似顔絵は描けそうか?」

母の声には、どこか困惑が混じっていた。

「高木さん、私にどれだけ能力があっても、頭蓋骨がなければ無理よ」

次の瞬間、母の表情が引き締まった。

「一刻も早く頭蓋骨を見つけて。遺体が腐敗しきる前なら、被害者の顔を最大限まで復顔できるわ」

頭蓋骨!私、頭蓋骨がどこにあるか知ってるよ!

私は母の足元に駆け寄り、「ニャー」と数回鳴いて、ズボンの裾を咥えて花壇の方へと引っ張った。

母は呆気に取られて私を見ていたが、先に口を開いたのは高木警部だった。

「ついて行ってみよう。動物には霊感があると言うからな」

半信半疑の二人を連れて花壇まで来ると、見慣れた花壇を目にした母は一瞬、呆然とした。

高木警部が私が立ち止まった場所を見て、シャベルで土を掘り返し始める。

「本当にあった……」

高木警部は、花壇の中から現れた、すでにウジ虫がわいた頭蓋骨を見て、思わず声を漏らした。

母は優しく私を抱き上げ、この十二年間で初めての笑顔を私に向けてくれた。

「ありがとう、猫のお巡りさん」

久しぶりに見る母の笑顔。けれど、私の心は苦しかった。

もしこの猫の中身が私だと知ったら、母はホルマリンで消毒したくなるほど嫌悪するだろうか。

高木警部は掘り出された骸骨を見つめ、怒りを抑えきれずに罵った。

「犯人のやつめ、なんて畜生だ!」

母の目にも、わずかに憐れみの色が浮かんでいた。

「まだ若いのに、こんな惨たらしい殺され方をして……家族が知ったら、どれほど悲しむことか」

悲しい?

もしお母さんが私の死を知ったら、赤飯を炊いてお祝いするんじゃないかな。

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第1話
家のブレーカーが落ち、母の養女・藤崎玲奈(ふじさき れいな)は暗闇の中に五分間閉じ込められた。それを私のせいにして、母・藤崎文子(ふじさき ふみこ)は閉所恐怖症の私・藤崎美桜(ふじさき みお)を、誰もいない真っ暗な物置に閉じ込めた。「玲奈が暗いのを怖がるって知ってるのに、わざとブレーカーを落として驚かせたんでしょう。今日はしっかり反省しなさい!」私は「やってない」と泣いて懇願したが、返ってきたのは母の無慈悲な平手打ちだけだった。「閉所恐怖症だなんて、贅沢な暮らしをしてるからそんなワガママが出るのよ!」深夜、家に誰かが侵入した気配を感じた私は、すぐに著名な犯罪心理学者である母に電話をかけて助けを求めた。しかし、電話の向こうから聞こえてきたのは激しい怒声だった。「玲奈と張り合いたいからって、そんな演技まで覚えたの!? 強盗って?だったらそのまま死ねばいいわ!私の邪魔をしないで!」母の願い通り、私は残忍な方法で虐殺され、その死体は母が一番大切にしていた花壇に埋められた。死後、私の魂は一匹の猫の体に宿った。私はただ、母の周りをうろつくことしかできなかった。それから五日後。警察が、バラバラにされた遺体を母のもとへ届け、犯人のプロファイリングを依頼した…………「被害者は女性、年齢は十六歳から二十歳の間、死亡推定時刻は三日前です。現在見つかっている遺体の状況からの判断ですが、被害者は生前……皮膚を剥ぎ取られ、ハンマーのような鈍器で全身を殴打され、粉砕骨折を起こしています。被害者は生前、おそらく筆舌に尽くしがたい虐待を受けたものと……」監察医の初期判断を聞き、その場にいた警察官たちは一様に息を飲んだ。若い女性警察官などは、あまりに残酷な殺害状況を聞いて涙を流していた。連絡を受けて急いで駆けつけた母は、その話を聞くと表情を険しくした。母の姿を見て、高木健吾(たかぎ けんご)警部が挨拶をする。「文子さん、来てくれたか。プロファイリングの件、頼むよ」「ええ、務めだから」母は私の遺体の方へと歩きながら、高木警部に尋ねた。「これで何件目?」「五件目だ。だが今回は……この連続殺人犯はとりわけ残忍だ……」著名な犯罪心理学者である母は、現場に入り、地面に散らばる砕かれた骨の山を見つめたまま、長いこと
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第2話
高木警部はマンションの周囲を見渡しながら、ふと思い出したように母に忠告した。「この数カ所の遺体遺棄現場、美桜ちゃんの住んでいるアパートに近いな。美桜ちゃんに連絡して、最近は戸締まりに気をつけるよう伝えた方がいいんじゃないか?」私の名前が出た瞬間、母の目からスッと光が消え、嫌悪感が走った。私を抱く手に力がこもる。「私の前であの子の話はしないで!あの子が事件に巻き込まれるわけないでしょう?」高木警部はタバコを持つ手を止め、ため息をついた。「あの時のことはもう随分前の話だ。お前もそろそろ許してやったらどうだ。どうあれ美桜ちゃんはお前の実の娘だぞ。他人の俺から見ても、お前のあの子に対する態度は不憫すぎる」「あの時」という言葉に、母の目元が瞬時に赤くなった。「あの子が腹痛だなんて嘘をつかなければ、国夫は死なずに済んだのよ!玲奈の両親だって死ぬことはなかった!全部あの嘘つき娘のせいよ。あいつが原因でみんな死んだんだわ!あの子が死なない限り、私は一生許さない!」母が「国夫」と呼んでいるのは私の父、藤崎国夫(ふじさき くにお)。十二年だ。私がどんなに説明しても、母は私を殺人犯だと思い込んでいる。嘘をついて、父と玲奈の両親を死なせた、と。母は私を田舎に追いやり、玲奈を養子にして、全ての愛情を彼女に注いだ。ここ数年、祖母と父の友人が密かに援助してくれなければ、私はとっくに野垂れ死んでいただろう。母の腕の中で、私は震えが止まらなかった。お母さん、私はもう死んだよ。これで許してくれる?私が腕の中で小刻みに震えているのに気づき、母はすぐに私を撫でて宥めた。「怖くないわよ、チビちゃん。あんたのこと言ってるんじゃないの」頭蓋骨は損傷が激しく、復顔作業はすぐには始められないようだ。母は私を連れて車に戻った。車に乗り込んだ直後、母の携帯が鳴った。「もしもし、文子かい?美桜から連絡はないか?あの子、もう何日も電話に出てくれないんだ。こっちからかけても繋がらないし、あの子に何かあったんじゃないかって……」祖母の心配そうな声が聞こえた。それを聞いた途端、母は眉間に深い皺を刻んだ。「知るわけないでしょ。あの図太い子がそう簡単に死ぬもんか!死んだのでもない限り、あの子のことで連絡してこないで!」祖母がまだ何か言
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第3話
母が玲奈を引き取ってから、私は家の中で「日陰の存在」になった。私は息を潜めるようにして生きるようになった。部屋は玲奈に譲り、可愛いドレスも全部玲奈のものになった。可愛い文房具だって、私には無縁のものだ。私は家事の全てを担うようになった。皿洗い、洗濯、床拭き、掃除。母の機嫌が取れることなら何でもやった。母が夜中に高熱を出した時も、私が冷たいタオルで一晩中看病した。翌朝、母が目を覚まし、熱を下げるために冷水で絞り続けて真っ赤になった私の手を見た時。母の態度が軟化したのを感じた。しかしその翌日、今度は玲奈が高熱を出した。「やっぱり嘘つきね!本当はずっと玲奈が看病してくれてたのに、あの子が少し眠った隙に手柄を横取りするなんて!あの時だって嘘をついて人を死なせたのに、まだ嘘をつくの!?美桜、あんたみたいな娘を持った覚えはないわ!家から出て行って!」母の肩に力なく寄りかかりながら、玲奈はか細い声で私を庇うふりをした。「ママ、お姉さんを責めないで。お姉さんも……ママの看病をしてたのかもしれないし」母が私を見る目は、さらに嫌悪に満ちたものになった。その背後で、玲奈は私に向かって勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。私は不器用ながらも、自分が一晩中看病していたことを証明しようとしたが、母は私を真っ暗な物置に閉じ込めて罰した。「まだ嘘をつくの!?そこで頭を冷やしなさい!」それ以来、私は閉所恐怖症を患った。祖母が田舎から迎えに来た時、私は物置の中で恐怖のあまり全身を痙攣させていた。祖母が私を抱え、母のところへ行ったら、その時母は玲奈に付き添って、点滴を受けさせていた。母はただ軽蔑したように笑った。「お義母さん、美桜はただの虚言癖ですよ。国夫が死んだ時だって嘘をついたし、今度は閉所恐怖症だなんて嘘をついてるんです。玲奈が暗いのが怖くて、私がいつも付いててやるのが気に入らないんでしょう。私の気を引こうとしてるだけです。美桜、言っておくけどね、私の前で嘘は通じないわよ。全部お見通しなんだから!」死ぬ直前にかけた最期の電話でさえ、母は私を嘘つき呼ばわりした。母が電話を切った瞬間、壁一枚隔てた向こうで、殺人犯が狂ったように笑いながら物置のドアを開けた。「ここに隠れてたのか、可愛いネズミちゃ
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第4話
「何て言ったの?被害者は……誰だって?」電話の向こうは長い沈黙に包まれ、荒い息遣いだけが聞こえてくる。「……文子さん、今すぐ警察署に来て、美桜ちゃんの遺体を確認してくれ」握りしめていたスマホが床に落ち、音を立てて砕け散った。狭いオフィスの中で、その音は不幸の知らせを告げるのに十分だった。祖母の皺だらけの顔を涙が伝い、老いた体は衝撃に耐えきれず、ソファに崩れ落ちた。それでも祖母は必死に体を支え、震える足で立ち上がった。「美桜……どうしてうちの美桜なの?私が……私が見に行かなくちゃ。あんなに良い子が死ぬはずない。きっと警察の間違いだ」祖母はうわごとのように呟き続けていた。そうでもしなければ、警察署まで体が持たないようだった。母が駆け寄って祖母を支えようとする。「お義母さん!そんなわけないです。きっと警察のミスよ。美桜が死ぬわけありません!似てる子なんてたくさんいますから、きっと間違いです。あの子は男と遊び歩いてるだけに決まってるのです!」祖母は涙を止め、氷のような冷たい視線を母に向けた。「間違い? 文子、言っておくけどね、美桜は何も悪くないのよ!一番の過ちは、私があんたにあの子を引き渡したこと!国夫の死は事故だったの!この数年、過去に囚われてたのはあんた自身よ!もし美桜に何かあったら、私は一生あんたを許さない。国夫だって、あんたが美桜をこんな目に遭わせていたと知ったら、絶対に許さないだろうね」母の顔色は瞬時に土気色になった。祖母は母の手を激しく振り払い、気力を振り絞って外へと歩き出した。口の中でずっと繰り返している。「美桜、怖くないよ。おばあちゃんが迎えに行くからね」遠ざかる祖母の背中を見て、母は慌てて追いかけた。警察署に着くと、高木警部が入り口で待っていた。震えながら現れた祖母を見ると、彼は急いで駆け寄り、体を支えた。「おばさん、どうしてここへ?これは……」彼は助けを求めるように、心ここにあらずといった様子の母を見た。祖母は彼の手をポンポンと叩き、震える声で言った。「美桜を連れて帰りに来たのよ」高木警部は心配そうだったが、一目遺体を見たいという祖母の執念には勝てなかった。彼は二人を遺体の安置室へと案内した。「遺体は皮膚が剥がされており、大部分
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第5話
高木警部は、私がかけた最後の電話の内容について、母を問い詰め続けた。「変な物音とか、聞こえなかったのか?付近の防犯カメラを全て確認した。分かったのは、その時すでに美桜ちゃんは何者かに拘束されていたということだ。あの電話は、おそらく最後の救難信号だったんだぞ」母の呆然とした顔に、ようやく動揺の色が浮かんだ。「だって、電話は来たけど……あの子、前にも嘘をついて私を騙したことがあったから。だから私……」そこまで言って、母はようやくあの日の通話内容を思い出したようだ。あの日、電話が繋がった瞬間、私は唐突にこう聞いた。「お母さん、私が悪人に殺されたら、嬉しい?」そして母は、自分がどう答えたかも思い出した。「玲奈と張り合いたいからって、そんな演技まで覚えたの!?強盗って?だったらそのまま死ねばいいわ!私の邪魔をしないで!」私が何か言い返す間もなく、母は電話を切った。だから、犯人がドアを破って入ってきた時、私はもう覚悟して静かに全てを受け入れた。ただ、死ぬ時の痛みが、予想していたよりも遥かに酷かった。当時の自分の言葉を思い出し、母の唇が震えている。高木警部は目を閉じ、顔いっぱいに怒りを滲ませた。「お前は心理学の専門家だろう!どうして美桜ちゃんが助けを求めていると分からなかった!美桜ちゃんが死ぬ時、どれほど痛かったか分かるか!?皮膚を裂かれ、骨を砕かれ、遺体はバラバラにされて捨てられたんだ。今も見つかっていない部位があるんだぞ!藤崎文子!それでも母親か!あの子はまだ十八だったんだぞ!一言でも詳しく聞いてやれば、異常に気づけたはずだ!それなのにお前は!」最後には、高木警部は母に向かって怒鳴りつけていた。母は慌てて首を振った。「そんなつもりじゃなかった!あの子がいつも嘘ばかりつくから、だから……」そこまで言うと、母は嗚咽で言葉にならなくなった。目を覚ました祖母が最初に聞いたのは、高木警部のその糾弾だった。祖母は感情を爆発させ、母の胸ぐらを掴んだ。「文子!美桜はあんたの実の子だろう!どうしてそんな仕打ちができるんだい!そんなに大事にできないなら、どうして私から美桜を奪ったんだ!あの子は……私のところにいた時は一番いい子だったのに!」覚えている。当時、母は私が玲奈の手柄を横取りす
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第6話
高木警部は、力が抜けて地面に伏して泣いている母を見ると、彼女を脇へと連れ出した。その声は冷ややかだ。「美桜ちゃんが死んだと信じられないなら、俺と一緒に現場へ来い。プロとしての自覚を持てよ。現場を荒らして捜査の邪魔をするな」高木警部に連れられ、母は事件現場へと足を踏み入れた。一目見ただけで、母は気絶しそうになった。普段はきれいなはずのアパートの一室に、死臭が充満している。黒ずんだ血痕が壁一面に飛び散り、天井にまで達していた。かつて母が私を閉じ込めた物置のドアは、真ん中から大きく破壊されていた。そこには衣服の切れ端と、肉片がぶら下がっていた。リビング全体に、血を引きずった跡が残っている。母は恐怖で口を押さえ、体は震え、両目は真っ赤に充血していた。「あの子が死んだ時……すごく痛かったのかしら……」「痛い?痛いだけで済むものか。このなぶり殺しは少なくとも五時間は続いたんだ」母はついに高木警部の言葉を聞き続けることができず、ドアを飛び出し、廊下で大声を上げて泣き崩れた。「美桜……ごめんなさい、私が悪かった!ごめんなさい!」残念だねお母さん。過ちに気づくのが遅すぎたよ。私は根に持つタイプだから、絶対にお母さんを許さない。高木警部も後から出てきて、しばらく躊躇っていたが、意を決して口を開いた。「文子、美桜ちゃんはな……実はだいぶ前から病気だったんだ。重度のうつ病だよ」その言葉を聞いて、壁にもたれていた母の虚ろな表情が一瞬揺らいだ。「以前、知人の付き添いで病院に行った時、美桜ちゃんが一人で心療内科に通っているのを見かけたんだ。あの子、俺を見つけて、お前には言わないでくれって口止めしたんだ。知ったらお母さんが心配するからって……美桜ちゃんは、あの子なりに精一杯お前のことを思っていたんだぞ。それなのにお前は、あの子に何をしてやったんだ。あの時の事故が、誰のせいでもないことはみんな分かってる。それなのにお前は全てを美桜ちゃんのせいにして、玲奈を実の子のように可愛がった。それが美桜ちゃんにとってどれほど不公平だったか、考えたことはあるか?俺は時々思うんだ。こうして去ることができたのは、美桜ちゃんにとっては一種の『救い』だったんじゃないかってな」母は今や、声にならないほど泣きじゃくっていた。彼
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第7話
おそらく、高木警部のあの言葉が、母の中に残っていた私への最後の母性を呼び覚ましたのだろう。母は、私と玲奈の学校での出来事を調べ始めた。調べれば調べるほど、恐ろしい事実が明らかになった。調査結果を見た母の顔色は、ただでさえ悪かったのに、さらに青ざめていった。田舎から呼び戻された後、私はSNSの裏垢を作って、そこに色々なことを書き込んでいた。私がテストで一位を取った時の投稿――【今日も物置に閉じ込められた。カンニングなんてしてない、本当に一番だったのに。どうして玲奈が言うことは何でも信じるのに、私の言うことは聞いてくれないの?】母が玲奈の誕生日を祝った時の投稿――【ケーキだ。もうずっと誕生日ケーキなんて食べてない……お母さん、私も誕生日を祝ってほしい……でも、お母さんは私がパパたちを殺したって言う。私に祝ってくれない……】死んだあの日、物置に閉じ込められた時の投稿――【もう疲れた。これ以上は無理かも。私が死んだら、お母さんは喜んでくれるかな……】二千件以上の呟きには、私の心の軌跡が全て記録されていた。同時に、母が雇った探偵は、学校で私が受けていた長期にわたるいじめについても突き止めた。加害者たちは口を揃えて、玲奈の指示でやったと証言した。玲奈が実は暗闇なんて怖がっていないという事実も含めて。それらは全て、母の関心を奪うための手段に過ぎなかったのだ。私が経験した一つ一つの出来事が浮き彫りになるにつれ、母は乾いた笑みを漏らしたかと思うと、突然泣き出した。全ての事実を知った母は、玲奈に対して、ただ彼女が暗闇を怖がらないという証拠を提示し、静かに理由を尋ねただけだった。玲奈の笑顔が引きつり、気まずそうに母を見る。「怖かっただけなの……私にはパパもママもいないから。やっとママができたから、離れたくなくて、それで……」そう言って目を固く閉じ、母の叱責を待った。しかし母は彼女を抱きしめ、謝った。「ごめんね玲奈、ママが悪かったわ」玲奈は嘘をついても、良い匂いのする抱擁を得られた。それなら私は?彼女の嘘のせいで、私の人生は十八歳で永遠に終わってしまった。私が何をしたっていうの!私は目を吊り上げ、爪研ぎの上で狂ったように爪を立てた。心の中の怒りをぶつけたくてたまらないのに、誰にも気づいてもら
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第8話
高木警部がドアを開けた時、鼻をつくような異臭が漂ってきた。彼は、ソファに座って包丁を磨いている母を見て、呆然とした。「文子、お前……」母は彼に向かってニッコリと微笑んだ。「来たのね」彼女は指で、原形を留めないほど損壊した死体の一つを指差した。「あの連続殺人犯、あそこにいるよ」高木警部はもう一つの死体を見て尋ねた。「これは、玲奈か?」「ええ。偶然ってあるものね。あの殺人犯が家に押し入って来た時、ちょうど私と鉢合わせたの。でも、私が殺すべき相手を、他の人に譲るわけにはいかないでしょう?」連続殺人犯が私を狙った理由は、おそらく私が「著名な犯罪心理学者」の娘だったからだ。彼は、どんな凶悪事件にも動じない母が、自分の子供が殺された姿を見てどんな顔をするか見たかったのだろう。だから私に手を下した。それなのに、私の死は母に少しの悲しみも与えなかった。犯人は調査の結果、母にとって本当に重要な人物が「玲奈」であることに気づいた。そして今日、犯行に及んだのだ。彼は母と玲奈を薬で眠らせ、椅子に縛り付けた。母が目を覚ますと、彼は私を殺した時の様子を語り始めた。「お前が電話を切った瞬間、あの子の目から光が消えたんだ。本当はもっと楽に死なせてやるつもりだった。でもあの子、まるで死にたい、早く殺してくれって顔をしてたんだ。それじゃ面白くないだろう?だからナイフで背骨に沿って切り開いて、少しずつ皮膚を剥いでやったんだ。舌がないから叫び声も上げられない姿、惨めだったなあ。骨も脆くて、軽く叩いただけで粉々になったよ」犯人が私を殺した時の快感に浸っている間に、母はすでに縄を解いていた。母が調合した特製の麻酔薬は、180センチの大男を、意識を保ったまま一歩も動けなくさせるのに十分だった。犯人がマズいと気づいた時には、もう指一本動かせなくなっていた。そして、母は彼が語った通りのことを、彼に対して実行した。私にやったことの全てを、そっくりそのままやり返したのだ。母が全てを終えた頃、ようやく玲奈が目を覚ました。目の前の地獄絵図を見て、彼女は再び気絶しそうになったが、母がナイフで刺して無理やり起こした。それからの時間、母は玲奈が私にした仕打ちを一つ一つ語り始めた。一つ話すたびに、母は玲奈の体から肉を
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