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第7話

Auteur: 容奏
翌日の午後、梨央は自分の荷物をまとめ、一晩、実家に泊まり、それから離婚届受理証明書を受け取りに行く準備をしていた。

そこへ、時哉が結衣を連れて突然、部屋に飛び込んできた。彼の顔には、これまで見たこともないような焦りの色があった。

「先生から電話があった。君が昼に悠樹と拓海を連れて帰ったそうだな?」

「え?」梨央は一瞬、呆然とした。「いいえ、そんなことしてないわ」

時哉は梨央の手首を掴み、鋭い目で睨みつけた。「先生が言うには、君が昼に学校へ電話して、二人を家に帰らせたそうだ。それからずっと学校に戻っていない!」

結衣が泣きながら飛びかかってきた。「梨央さん、今朝、私が時哉と一緒に悠樹君と拓海君の授業参観に行くと聞いて、あなたが気を悪くしたのは知っているわ。でも、だからって彼らを隠したりしなくても……」

「梨央!」時哉の手のひらに力がこもった。梨央の手首が軋むように痛んだ。「彼らが結衣を慕い、彼女に懐くことがあっても、君の地位には何の影響もないはずだ。なぜこんな手段を使う!

二人をどこに隠した?」

「私じゃないわ」梨央は眉をひそめ、内心では慌てふためいていた。そして口調が早くなった。「学校に電話もしていないし、彼らを迎えにも行ってない。あの子たち、何かあったんじゃ……」

時哉は梨央を深く見つめ、彼女が心から心配している様子を見て、ようやく手を振り払った。

「急いで探すぞ!僕は警察に通報してくる」

時哉は結衣の手を引いて慌ただしく階下へ降りていった。彼の車が玄関先に停めてあり、二人は車に乗り込むと、猛スピードで走り去った。

梨央も慌てて外に飛び出した。心臓は激しく鼓動し、手足は震え、立っているのもやっとだった。

梨央は舌先を噛み、無理やり自分を落ち着かせると、近所の人たちに声をかけて捜索を手伝ってもらい、それから自転車に乗って、二人が普段よく行く場所を一つ一つ回り、二人の名前を呼び続けた。

梨央の世界から、ふいに色が消えた。周りの音がすべて遠のき、頭の中はただ、二人の子供たちの姿だけで埋め尽くされた。

生まれたばかりのあの温もり。「ママ」と、初めて呼んでくれた、あの声。何度も転びながら、必死に立ち上がろうとした小さな背中。「僕がママを守る!」と、胸を張って誓ってくれた、幼い日の輝き。

たとえ彼らが自分を好いていなくても、親不孝でも、たとえ彼女がもう彼らを愛すまいと決心していたとしても。

それでも、梨央は母親だった。子供たちとの縁を切りたいと願ってはいても、彼らの残りの人生が順風満帆であることを望んでいた。

梨央は涙を流し、全身を震わせながら、必死に自転車をこいで探し続けた。

一通り探し回り、今度は郊外の雑木林へ行き、川沿いを長い時間探した。

空が完全に暗くなり、汗だくで疲れ果てた頃、梨央はようやくブレーキをかけ、引き返し始めた。

家に戻って、様子を見なければならない。

自転車を玄関先に停めると、屋内は煌々と明かりが灯り、悠樹と拓海の笑い声が絶え間なく聞こえてきた。

梨央の心はふっと安定を取り戻した。彼女は安堵のため息をつき、冷たく麻痺した手足を動かして、ドアを押して中に入った。

空気が一瞬凍りついた。

次の瞬間、陶器のカップが梨央の足元で砕け散った。

「梨央!よくもまあ、戻って来られたな!」

悠樹と拓海が結衣の後ろに駆け込んだ。「結衣さん、僕たちを守って!ママが僕たちをわざと閉じ込めて、もう二度と会わせないって言ったんだ!」

「……何ですって?」

その言葉は梨央にとってまさに青天の霹靂だった。 頭が真っ白になり、耳の奥ではキーンという甲高い耳鳴りの音だけが響き渡っていた。

梨央は鈍い動きで悠樹と拓海に視線を向けた。「あなたたち、今、何て言ったの?」

「ママだよ!」悠樹が梨央を指差した。「ママがお昼に僕たちを連れ出して、郊外の廃棄された倉庫に閉じ込めたんだ!ちゃんと反省しないと、ここから出さないって!」

拓海が腰に手を当てた。「それに、これからは結衣さんと会っちゃダメだって言った!パパはママ一人のものなんだって!」
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