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第8話

Auteur: 容奏
梨央の目は真っ赤に充血していた。ドア枠を掴む指は爪が木枠に食い込むほど強く握りしめられ、血の気を失って白く変色していた。

水分不足で乾ききった喉は恐ろしいほどかすれていたが、その声は鋭かった。「あなたたち、自分が何を言ってるかわかってるの!本当のことを言いなさい!」

悠樹と拓海は梨央の鬼気迫る様子に怯え、咄嗟に結衣の背後に身を隠した。

「もういい!」時哉が猛然と立ち上がり、梨央の手首を掴んで室内に引きずり込んだ。その力は、彼女の骨を砕かんばかりだった。

時哉の鋭い眼差しには、嫌悪感が宿っていた。「梨央、君はそれでも母親か?わずかな嫉妬心から自分の子供を傷つけ、今度は嘘をつけと脅迫するのか?」

「違う!」梨央は叫んだ。全身が震え、目は真っ赤になり、涙が目尻からゆっくりと流れ落ちた。

時哉ははっと息を呑み、掴んでいた腕の力を反射的に緩めた。

結衣が突然、口を開いた。「時哉、梨央さんを怖がらせているわ」

時哉ははっと我に返り、梨央を見つめ、氷のように冷たい声を出した。「まだ言い逃れをするのか。梨央、あの子たちはまだ十歳だぞ。まさか、わざと嘘をついて君を陥れようとしたとでもいうのか?

梨央、君は母親失格だ」

母親失格。

梨央の体はぐらりと揺れた。彼女は自嘲するように笑い、ゆっくりと目を閉じた。涙が次々と床に落ちていった。

「パパ……」悠樹と拓海が突然、大声で泣き出した。「あの倉庫、すっごく暗くて、僕たち、怖かったよ……」

時哉はすぐに梨央に背を向け二人をなだめに行った。その顔は心配で歪んでいた。「もう大丈夫だ。パパが守ってやるから……」

「パパ、僕たち、ママと一緒に住むのもう嫌だ!ママに会いたくないよ!怖い!」

「パパ、ママが悪いことをしたんだから、罰を受けないと!ママも倉庫に閉じ込めようよ!」

梨央は目の前の二つの顔を見つめ、心底ぞっとした。

続いて時哉に視線を移すと、彼の瞳の奥に宿る底知れぬ冷酷さが、梨央を体の芯から凍えさせた。

「わかった。パパが彼女に罰を受けさせる」

時哉は梨央の手首を掴むと、彼女を引きずって外に出し、乱暴に車に押し込んだ。

車は猛スピードで走り出した。彼が全身から発する凄まじいまでの怒気に、車内の空気は息が詰まるほどに張り詰めていた。

郊外にある廃棄された倉庫。そこに到着すると、時哉は梨央を突き飛ばした。

「梨央、ここでしっかり反省しろ。これが最後であることを願う」

ドアに鍵がかけられ、梨央は再び完全なる暗闇の中に突き落とされた。

もはや、悔しさも、恐怖も感じなかった。あれほど激しく渦巻いていた痛みと怒りがまるで嘘のように静まった後には、ただ虚無だけが残っていた。

梨央は軽く笑い、意識を失った。

梨央は、一晩中、夢を見ていた。

夢の中で、梨央は妊娠初期から、絶え間ない吐き気と不快感に苦しんでいた。

妊娠中期には、切迫早産のリスクで入院が必要になり、一人で病院で三ヶ月間過ごした。毎日二十四時間、子宮収縮を抑える点滴を打ち続け、両腕の血管は注射痕だらけになった。

点滴の副作用でアレルギー反応が起き、全身に薬疹が広がったが、妊娠中のため薬は使えなかった。掻きむしりたくなるような痒みに、一晩中眠ることもできなかった。

出産時、梨央は血圧が異常上昇したため、緊急帝王切開となり、ICUに十日間入った。

悠樹と拓海は二人とも生まれた時の体重は2キログラムにも満たず、幼い頃から病弱だった。

梨央はたった一人で、数え切れないほどの昼も夜も耐え続けた。その無理がたたって、彼女の体はすり減り、ボロボロになってしまった。

それなのに、たとえ自分が病気で熱を出していても、二人の子供の世話をしなければならなかった。

命がけで産んだ子供たち。精魂込めて育てた子供たち。何十年も手放すことができなかった子供たち……

梨央は、胸が張り裂けるほどの苦痛に襲われた。彼女の心は二人の子供によってズタズタに引き裂かれ、まるでゴミ屑のように無造作に打ち捨てられ、そして挙句の果てに、地の底まで踏みにじられたかのようだった。
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