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第4話

Author: ココナッツコーラ
果物を洗い終えて、葉と礼司は病室に戻った。少し話をしたあと、みんなで一緒に帰ることになった。

ちょうど病院を出たところで、雅美が真っ先に口を開いた。

「礼司さん、それに葉さんも、お昼時だし、一緒にご飯どう?」

雅美の提案を、司礼が断るはずもなかった。

それに、葉がまたわがままを言って雅美を困らせるのを避けたかったのだろう、葉がまだ何も言わないうちに、礼司が代わりに「いいよ」と勝手に承諾してしまった。

レストランに着いてから、三人は案内された個室に通された。礼司は当然のようにメニューを受け取って、迷いなく注文した。

でも、料理が全部運ばれてきたときに葉は気づいたのだ。彼が頼んだのって、ぜんぶ雅美の好きなものばっかりだったんだ。

これが愛があるかないかの違いなのだろう。

葉はかつて、自分の好みをすべて覚えるよう礼司に要求したことがあった。しかし一方は強制で、もう一方は心からの気遣い──その差は雲泥のものだった。

なんとなくこうなる気はしてた葉は、そこまでショックは受けることもなく、黙ってご飯を食べ続けることにした。

ちょうど食事も半分ほど進んだ頃、突然スマホの着信音が個室に響いた。礼司は電話を取るために、外へ出て行った。

そのとき、葉は雅美がスープをよそう手に光る指輪を見つけ――一瞬、表情が固まった。

「そのピンキーリング、どこで手に入れたの?」

雅美はちらっと小指のリングを見て、まるで何でもないことのように笑って答えた。

「これ?礼司さんがくれたの。かわいいって言ったら、すぐにくれたの」

その瞬間、葉の顔から血の気が引いた。

あのピンキーリングは、葉が細かい細工をして、何度も手を傷つけながら仕上げたもの。

葉たちの記念日に、心を込めて彼にプレゼントした、世界に一つだけのリング。内側には、小さな文字が刻まれてる。

――「礼司が大好き、ずっと 来栖葉」

自分の想いを全部込めて礼司に渡した指輪。そんな大切なものを、あっさり雅美にあげたなんて。

胸の奥から静かに怒りが湧き上がってくるのを感じた。でも、その瞬間、原作のストーリーがふと頭をよぎった。

礼司が好きなのは、最初から雅美だった。どれだけ尽くしても、礼司が葉の想いを大切にしてくれるはずがない。

ここで何かを問い詰めたところで、礼司にとっての自分は、ますます面倒な女になるだけだ。

まるで冷水を頭からぶっかけられたみたいに、一気に冷静になった葉は、顔の感情を整えて、少し笑ってみせた。

「似合ってる。すごく綺麗よ、あなたにぴったり」

葉が怒り出すのを待ってた雅美は、あまりに平然としている葉を見て、一瞬だけ驚いたような顔をした。

そして次の瞬間、雅美は軽く歯を食いしばり、ふいに立ち上がって、一杯のスープを「気を利かせた」風に葉に差し出してきた。

「葉さん、ご飯ばっかりじゃなくて、この海鮮スープもちょっと飲んでみて?美味しいよ」

葉は海鮮アレルギーがあるから断ろうとしたんだけど、次の瞬間、雅美はそのスープを実際には渡さず、手首をひねったような仕草をしたかと思うと――

ガシャーン!

碗が床に叩きつけられるように砕けた。

雅美は涙がこぼれそうな目で、悲しげに葉を見つめてきた。

葉は一瞬、彼女が何をしようとしているのか全く理解できなかった。でもすぐに、礼司が葉の横を駆け抜けて、雅美を自分の背にかばうようにして立ちはだかり、冷たい視線を真っ直ぐこちらに向けてきた。

「お前、何やってんだ!」

雅美は目を赤くしながら、礼司の胸にそっと身を預けて、絶妙なタイミングで言葉を挟んできた。

「礼司さん……全部、私が悪いの。私が葉さんを怒らせちゃったから、葉さんもついカッとなってスープをかけちゃったのだろ。ただの軽い火傷だから、大丈夫。彼女を責めないであげて」

「私じゃない!」

あまりにも事実をねじ曲げられて、葉は思わず目を見開き、必死に弁解しようとした。けれど、礼司は葉の言葉なんて一切聞こうとしなかった。ただ冷たい視線を一瞥だけ向けて、こう言い放った。

「お前、頭おかしいんじゃないのか?」

そう言い捨てると、何も言わずに彼女を抱き上げて、そのままその場を去っていった。

葉はただ、その冷たい背中と、雅美の挑発的な視線を見送ることしかできなくて、呆然とその場に立ち尽くした。心の中が一気に真っ暗になった。

でも、もっと予想外だったのは――その後、数日間の雅美の行動だった。

あの子、自分の嘘がうまく通じたのが嬉しかったのか、まるで癖になったみたいに、次から次へと葉を陥れ始めた。

「葉さんのせいで仕事を失った」とか、「あの人が業界中に私の悪口を言いふらして、干された」とか、「家の前にペンキをまかれて、もう安心して暮らせない」とか……

どれもこれも、ありえない話ばかり。

礼司は最初のうちは我慢してたみたいだけど、ついに堪えきれなくなったのか、ある日、帰ってくるなり葉の腕をガシッと掴んできた。

「お前さ、俺に不満があるなら、直接言えよ。なんで雅美をいじめるんだ?」

付き合って五年。礼司は常に冷たい態度を崩さなかった。葉が彼の感情をこれほど露わにする姿を見るのは初めてだった。だが、それが雅美をかばうためだと思うと、胸が締め付けられるような思いがした。

「私は何もしてないし、そもそも雅美を狙ったわけじゃない」

必死に説明を続けたが、礼司の表情は終始、疑いに満ちたままだった。

「お前以外に誰がいる!?契約彼氏とか言い出すような女が、今さら何もしないとか、説得力あると思ってんのか?

もういい加減にしろよ。あげられるものは全部差しあげたのに、なんで俺の周りの人間まで巻き込むんだよ!」

そう言い捨てると、礼司は完全に失望しきった目で、もう一言も口をきく気はないとばかりに、まっすぐ客間へと向かっていった。

その背中を見送りながら、葉は込み上げる悲しみをどうにか押し殺した。

彼の中で、自分はいつまでも「信じるに値しない存在」のままなのだ。

けれど、悲しみ以上に強かったのは恐怖だった。

あと数日でこの家を離れるというのに、このままじゃ偽装死どころか、その前に礼司に本当に殺されてしまいそうだった。

眠れぬままベッドで何度も寝返りを打ち、悩みに悩んだ末、ようやく一つの考えにたどり着いた。

その夜のうちに車を走らせ、雅美の家を訪れた。

そして、開口一番こう切り出した。

「雅美さん、もう和解しよう。これからは、礼司とあなたをくっつけてあげるから」

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