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第807話

Author: 一匹の金魚
部屋には再び静寂が戻り、時計の刻む音だけが何かのカウントダウンをしているように響いていた。

日差しがゆっくりと移動し、明暗の境目の線は徐々に礼央の膝にまで伸びた。しかし、それでも彼の瞳の奥に潜む闇を照らすことはできなかった。

麗蘭はわかっていた。自分には彼を説得できない、と。

礼央は、真衣たち親子のために道を整えると決めた日から、すでに自分の生死を度外視していた。

彼の世界には「自分」は存在せず、「真衣たち」だけがあった。

麗蘭は立ち上がり、机の上の診察記録を手に取り、軽く言った。「修司さんの来週の手術は、私が直接見届けるわ」

礼央は振り向かず、ただ軽く「うん」とだけ返した。

麗蘭はドアを開けて外に出た。

ドアを閉める瞬間、麗蘭は部屋からかすかなため息が聞こえたような気がした。それはまるで羽根のように心に落ち、ほんの少し押しつけただけで、突き刺さるような痛みを生んだ。

彼女は廊下に立ち、窓の外の空を見つめた。

雲が低く垂れこめ、今にも雨が降りそうだった。

彼女はふと礼央がさっき言った言葉を思い出した――恋愛はまるで放物線のようなもので、結婚が頂点で、その後は下り坂だ、と。

それなら、真衣と礼央は、最初から頂点のない放物線を描く運命にあったのだろうか?ずっと下り続け、やがて果てしない深淵に落ちるまで。

麗蘭には答えがわからなかった。

彼女がわかっているのは、礼央の時間がもう多く残されていないということだけだった。そして真衣は、永遠に気づかないかもしれない――深く憎んでいた男が、自分の命を使って、彼女のために光へ続く道を作っていたことを。

-

翌朝早く。

真衣が目を覚ますと、部屋には礼央の姿はもうなかった。

彼女は無意識に指先を丸めた。昨夜寝る前、彼の左腕の包帯から少し血が滲んでいるのを確かに見た――

携帯画面にある「礼央」の名前に視線を落とし、指先を長く宙に浮かせてからようやく通話ボタンを押した。

呼出音が三度鳴った時、ようやく電話がつながり、彼の声は普段より低く、病院の中の特有の冷たい反響を伴っていた。「起きた?」

「どこにいるの?」真衣はできるだけ平静な声を心がけた。「腕の傷の薬は替えなくていいの?」

一瞬の沈黙の後に、淡々とした説明が返ってきた。「病院にいる。総士と麗蘭と、修司さんの臓器移植の話をしている」

真衣は携
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Comments (2)
goodnovel comment avatar
まかろん
もういい加減真衣の頑固な被害者意識終わらせて欲しい。礼央はかなり頑張って打ち明けてくれてるよ もしかしたら、この事件が解決したあたりが完結なのかな 恋愛モードほぼなく終わっちゃわないか心配
goodnovel comment avatar
asagao
作者様 礼央が亡くなるのは嫌です。 親子3人、ハッピーエンドにしてください...
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