LOGIN礼央は険しい表情で、二人の会話を聞いていた。財政危機に陥った松崎家に対する常陸家の行動は、情け容赦のないものだ。礼央は安浩を見つめて言った。「松崎家のことなら、俺が財政危機を緩和できるように、手配しておく。常陸家の件については、妥協する必要はない。自分の気持ちを貫けばいいんだ」真衣も沙夜に言った。「ええ、必ず解決策があるはず。私たちはあなたたちの味方よ」沙夜は涙を流しながら、安浩の胸に寄り添った。絶望的な状況の中、自分には支えになってくれる人が、こんなにたくさんいてくれる。礼央は目の前の光景を見て、立ち去ろうとしていた足を止めた。元々危険な異国の拠点で、新たに松崎家と常陸家の間に問題が発生し、安浩はまだ完全に傷が癒えておらず、沙夜は心を乱してしまった。礼央は真衣を見つめて言った。「やはり俺は、しばらくここに留まる」真衣は呆然とした。「でも、千咲は……」「千咲は、信頼できる者に預けてある」礼央は真衣の手を握って言った。「松崎家と常陸家の間に問題が起きた。スパイもまだ見つかっていない。その上、奴らも目を光らせている。ここに残って、お前と一緒にこれらの困難に立ち向かわせてくれ」このような状況で、彼はどうしても真衣を置いて帰国する気にはなれなかった。彼は元々、彼女を守るために駆け付けたのだ。これから騒ぎが起きると分かっていて、ここを立ち去ることなどできない。松崎家は資金繰りが逼迫し、一夜にして破綻の危機に瀕している。常陸家は名声と財産を守るため、松崎家を断ち切ろうと、人を遣って二人の離婚を迫り、沙夜と安浩を切り離そうとしている。彼らは家の事情に翻弄され、関係を引き裂かれようとしている。安浩は沙夜をしっかりと胸に抱きしめ、なだめるように背中を優しく撫でた。彼の表情は、落ち着いていた。「泣かないで」安浩は力強く言った。「僕がついてるから」真衣の心は、締め付けられるように痛んだ。彼女にとって沙夜は、今まで何度も困難を共に乗り越えてきた同士であり、親友だ。財政危機に陥った松崎家に対する常陸家の態度は、あまりにも冷淡で、薄情だった。礼央は険しい表情を浮かべ、真衣の傍に立っていた。彼は沙夜を一瞥した後、視線を安浩に移し、淡々とした口調で言った。「とにかく、家に電話するんだ」安浩は
隣にいる礼央は、穏やかな表情を浮かべ、気持ちよさそうに眠っていた。真衣は、彼を起こさないように静かに起き上がり、朝食の準備をしようとした。その瞬間、彼女は手首を掴まれた。礼央は眠そうに目を開けて言った。「もう起きるのか?」「そろそろ起きなきゃ。今日は帰国する日だし」真衣が優しく言った。帰国と聞いて礼央の目は鋭くなったが、彼は彼女の手を離すのを惜しんでいるようだった。「国内の用事をできるだけ早く片付けて、また会いに来るよ」礼央は真衣を抱き寄せ、額にキスをした。「身体を大事に。千咲も待ってる」「うん」真衣は彼の胸の中で、そっと頷いた。しばらくした後、礼央は身支度を始め、真衣は朝食の準備に向かった。礼央が出発しようと表に出た時、スタッフたちは驚いた表情を浮かべたが、皆気を利かせて深くは尋ねず、礼儀正しく挨拶をした。沙夜は安浩を支えて近づいて来ると、真衣の名残惜しそうな表情を見て、二人の関係が修復されたことを悟り、二人の幸せを喜んだ。ちょうど礼央が発とうとしたその時、真衣の携帯が突然鳴り響いた。着信は沙夜の家族からだった。沙夜は驚き、胸騒ぎがして、慌てて電話に出た。受話器の向こうから、冴子の涙交じりの声が聞こえた。「沙夜、大変なことになったの。会社の資金繰りが断たれて、債権者が取り立てに来てるの。松崎家はもう終わりよ……さっき、常陸家の人が来て、松崎家のせいで常陸家にまで迷惑が及ぶから、あなたと安浩さんに離婚してほしいって言ってきたの。今後、常陸家には関わらないでほしいって」そんな。沙夜はショックのあまり、携帯を落してしまった。彼女自身、松崎家とは関わりたくないし、実家がどうなろうと構わない。でも――彼女は離婚したくなかった。安浩は青ざめた沙夜の顔を見て、心配そうに尋ねた。「どうしたの?何があったんだ?」沙夜は言った。「松崎家が……財政危機に陥って崩壊寸前らしいの……それで、常陸家が私たちに離婚してほしいと言ってるそうよ」辺りにいる者たちは皆、呆然とした。安浩の表情がたちまち険しくなり、周囲の空気が一気に凍り付いた。彼は沙夜をしっかりと抱きしめて言った。「心配しないで。僕たちは離婚なんかしないよ」「でも常陸家は……」沙夜は彼を見つめた。「私たちに離婚を命じているわ。私
「お前を守るために、亮太に部下を率いて潜伏させていたんだ」礼央は隠さずに話した。「何かあれば、すぐに彼らが駆け付け対処する」「そこまでしなくていいのに」真衣はそう言ったが、心の中は温もりに満たされていた。「お前のことに関しては、万全を期したい」率直な礼央の言葉を聞いて、真衣は頬を赤らめた。その後、二人は現在の状況について改めて詳しく話し合った。エリアスと宗一郎は暗がりに潜み、内部のスパイはまだ特定できていない。拠点は依然として危険に晒されているが、礼央と真衣がそれぞれ持つ情報を照らし合わせることで、スパイの容疑者はさらに絞り込まれ、対応策もより明確なものになった。「俺は、任務が終わるまでここにいる」礼央は力強い口調で言った。「俺がいる限り、誰にもお前を傷つけさせたりしない」しかし、真衣は困惑したように首を振った。「それはダメよ」彼女は声を潜めて言った。「実家には千咲がいる。あの子はまだ小さいから、親が傍にいてやらないと。国境も、あなたを必要としている。私は、あなたがここまで来てくれただけで、十分よ」娘の話になると、礼央の表情が和らいだ。彼はもちろん千咲のことも想っていたが、今は危険な状況にある真衣のことが、より気がかりでならなかったのだ。「お前のことが心配でたまらないんだ」「でも、後藤さんもついていてくれるし、増援部隊も、先輩も沙夜も傍にいるわ」真衣は礼央の手を握って言った。「あなたは明日帰って。あなたが千咲を守り、国を守ってくれれば、私は安心して仕事に打ち込めるの。約束する。自分の身を守り、任務を無事に終わらせて、必ず無事に帰国する」彼女の眼差しは力強く誠実で、とても優しかった。礼央は真衣を見つめ、長い間沈黙した後、ようやく頷いた。「わかった、明日戻る」彼は続けた。「でも約束してくれ。何かあったら無理をせず、必ず俺に連絡するんだ」「約束する」真衣は微笑んで頷いた。夜が更けると、窓の外に吹く風の音は次第に静まり、拠点に静寂が訪れた。真衣は礼央をゲストルームに案内した。部屋は広くはないが、清潔で整然としていた。連日の疲れが一気に押し寄せ、礼央は簡単に身支度を済ませると、ベッドに横たわった。ベッドの端に座っていた真衣は、彼の疲れ切った様子を見て、胸を痛めた。「ゆっくり休んでね
真衣の胸が締め付けられるように痛んだ。そして、温もりを感じた。ここ数日、真衣の心には緊張や不安が重くのしかかっていた。しかし、礼央が現れた途端、それらは嘘のように和らいでいった。オフィスにいた者たちは、次々と休憩に出かけていった。沙夜は安浩と病室に戻り、哲也は警備班を率いて巡回に向かい、オフィスには真衣と礼央の二人きりになった。真衣は礼央に椅子を勧め、温かいお茶を注いで彼に差し出した。「長旅で疲れたでしょう?」彼女は尋ねた。「まあな」礼央はカップを受け取り、真衣を見つめて続けた。「でも、お前の無事が確認できれば、それだけで十分さ」その言葉を聞いて、真衣は嬉しくなった。彼が現れた途端、ここ数日間の隠し事や駆け引きに、すべて納得のいく説明がついたかのように思えた。真衣は彼の嘘を暴いたり、責めたりせず、ただ静かに彼の向かい側に座った。静かな室内には、風の音だけが微かに響いていた。礼央が先に口を開き、沈黙を破った。彼は真剣な表情で言った。「もう、気付いているんだろう?」礼央は申し訳なさそうに真衣を見て続けた。「エリアスと山口社長がこの国にいる。二人はお前達の航空材料を狙っているんだ。俺は国境の警戒態勢を強化し、検問所を封鎖したが、奴らの居場所を特定できなかった」真衣は黙って、静かに耳を傾けていた。「この間、通信が途絶えた時、俺は自制心を失いかけた」彼は続けた。「遠く離れた場所で、何もできず、ただ画面を見つめて情報を待つだけ。あんな無力感は、二度と味わいたくない」「だから、私に隠していたの?」真衣は言った。「国境の状況は緊迫していたのに、あなたは私に毎日無事を伝えてた。それで私が安心できると思う?」「怖かったんだ。お前が俺を心配して、危険を冒すんじゃないかって」礼央は彼女の手を握って言った。「真衣、俺はどんな危険にも立ち向かえる。でも、お前に何かあると思うと、怖くて仕方ないんだ」彼の手のひらは大きくて温かく、力強く、人を安心させる力に満ちていた。真衣も、震える手で、そっと礼央の手を握り返した。「私はそんなに弱くないわ」真衣は礼央を見つめて言った。「私は砲撃から逃げることも、スパイを摘発することも、実験の成果を守ることもできる。だから、もっと私のことを信じてほしいの」「わかっ
「だからこそ、行かなければならない」礼央は顔を上げた。「もう待つのはたくさんだ。またいつ連絡が途絶え、砲撃が始まり、彼女が罠にはまるかわからないのに、何もせずただ待つなんて、俺には耐えられない」以前なら、忍耐し、待ち、理性で衝動を抑えることもできた。しかし、通信が途絶えたあの日、「お繋ぎできません」というメッセージを見て自制心を失った時から、礼央は不安でたまらなかった。自分の目で、真衣の無事を確かめたい。彼女の傍にいたい。自分の手で、彼女を守りたい。遠くでただ心配しているだけの日々はもう耐えられない。その夜、礼央は真衣に知らせないまま出国し、何度も経由しながら目立たないように、彼女のいる国に入国した。事前に知らせなかった理由は、真衣を驚かせたいという気持ちと、本当にすべてが順調に運んでいるのか、自分の目で確かめるためだった。臨時拠点は、依然として厳戒態勢にあった。砲撃の余波は収まらず、スパイもまだ特定できていない。真衣は神経を尖らせながら、資料の仕上げ作業に取り組んでいた。彼女は毎日、礼央と形式だけメールのやり取りを続けていた。彼も彼女も、互いに事実を伏せ、無事を告げていた。真夜中、彼女はふと複雑な思いを感じ、窓の外をぼんやりと見つめることがあった。任務を終えるまで、自分たちはきっと、このまま偽りの無事を伝えつづけるのだろう。翌日の午後。拠点の入り口で微かな物音がし、警備員が近づくと、彼は複雑な表情でオフィスの方を見つめた。真衣は足音を聞いて、スタッフが資料を取りに来たのだと思い、うつむいたまま言った。「データの照合結果は机の上にあります。スパイの容疑者リストは――」その時、懐かしい匂いが鼻をくすぐった。真衣は、はっとして手を止めた。この匂い……真衣は顔を上げた。逆光の中、颯爽と立つ男性の姿が見える。目元には疲労が浮かんでいたが、全身に彼特有の落ち着いた気迫が漂っていた。彼は入国してすぐ、この拠点に駆け付けて来たのだ。礼央だった。真衣は驚きのあまり、息をするのも忘れるほどだった。彼女は状況が理解できず、ぼんやりと彼を見つめた。どうして彼がここに?国境の仕事は?どうして彼は突然、この不安定な異国の戦地に現れたのだろう?衝撃、驚き、混乱……さまざまな感
真衣は、礼央が何度も一人で行動しないように念を押していた理由をようやく理解した。そして実情が、彼の言う「すべて順調」ではなかったということも理解した。彼は国境で、大きなプレッシャーに耐えながら、エリアスと宗一郎の行方を追っていた。たった一人で不安や恐怖を背負いながら、真衣の前では平静を装い、優しい嘘をついていた。しかし、真衣にとって礼央に隠し事をされることは、辛いことだった。真衣は、気持ちを落ち着かせようと、深呼吸をして込み上げる感情を押し殺した。慌てたり、動揺してはいけない。ここで気丈に振る舞わなければ、拠点全体に影響が及び、実験の成果やスタッフの安全が、さらに危険な状況に陥ることになる。この、表面上の平穏をあとどれだけ維持できるかはわからないが、真衣が今がすべきことは、礼央の嘘を暴くことでも、隠し事を問い詰めることでもない。彼女は、いつもと変わらないメッセージを彼に送った。【今日も順調だったよ。データの大半が修復できたし、スパイの調査にも進展があった。そっちはどう?国境付近に異常はない?】送信成功の通知がポップアップされると、真衣は携帯を机に置き、画面をじっと見つめた。真衣は待った。礼央の返事を。彼がまた嘘で真実を隠すのを。数分後、携帯が振動した。礼央から、普段と変わらない簡潔な返信が届いた。【こちらもいつもと変わらず、異常はない。俺のことは気にせず、仕事に専念してくれ。くれぐれも自分の身体を大切に】今日もいつも通り、完璧なまでに平静な文面だった。真衣はメッセージを見つめ、口元にほのかな笑みを浮かべた。思った通りだ。こちらから話題を振っても、彼はすべての困難やプレッシャーを一人で背負い、実情を隠そうとする。真衣はそれ以上は何も尋ねず、返信を送信した。【わかった】メッセージのやり取りは終わり、同時に静かな駆け引きの幕が上がった。真衣は礼央の嘘に気付き、彼もまた彼女が自身の嘘に気付いているかもしれないと感じていたが、二人は互いにそのことを口にしなかった。礼央は遠く離れた国境で、自分なりの方法で真衣の身を守っていた。胸の内の恐怖や不安をひた隠し、努めて冷静を保つように心がけていた。真衣もまた、危険な戦地にいながらも、落ち着いて行動し、与えられた業務をこなした。不安や
「?」真衣は眉をひそめた。彼女は自分の耳を疑った。「何だって?」礼央は落ち着いた口調で言った。「お前はいつも彼女に冷たい態度を取っている。そのせいで彼女はひどく落ち込んでいる。少しは態度を改めて、謝るべきだ」真衣は思わず息が詰まりそうになった。まるで途方もない冗談を聞かされたようだった。「私を呼び出したのは、こんな話をするため?」彼女は冷ややかに笑った。「あの人が死にかけでもしない限り、私に関わらないでもらえる?」礼央は気にした様子もなく続けた。「それと、お前の娘のしつけもちゃんとしろ」真衣は嘲るように唇を引きつらせた。お前の娘?自分ひとりの娘だとでも?なん
彼は彼女と協力したいとは思っていないようだった。萌寧はこめかみを押さえながら、少し頭痛を感じていた。今の自分の能力と経歴があれば、九空のような企業を一から立ち上げることだってできる。それなのに、安浩が協力を断る理由が見当たらない。彼女が望んでいるのは、安浩という人脈につながることだけだった。「きっと沙夜と真衣が常陸社長に何か吹き込んだんだ。お前の悪口でも言ったんじゃないか?」高史がそう言うと、「いいのよ」萌寧は微笑んだ。「礼央に電話して、この状況を話せばいい。あの人なら、きっと何とかしてくれるから」萌寧は研究に没頭するのは得意でも、対外的なやり取りや連絡には、やはり礼央
礼央は無表情のまま真衣に目を向けたが、その眼差しの奥にはどこか可笑しさを含んでいるようだった。きっと礼央自身も、こんな茶番を続けることに嫌気が差しているのだろう。だが、真衣はそんな礼央の態度など気にも留めなかった。すっと立ち上がり、千咲の手を取って、その場を後にする。事前に手配しておいたタクシーがすでに待っていた。礼央と同じ車で帰るなんて、真衣にとっては屈辱以外の何物でもなかった。「ママ、どうしちゃったの?そんなに怒っていて……」翔太はきょとんとした顔で、去っていく真衣の背中を見つめながら首を傾げた。礼央は何も答えず、淡々と視線を逸らしただけだった。「パパ、放課後に萌寧
「君は間違っている」礼央は言った。「俺と君は、同じ種類の人間ではない」礼央が求めてきたものは、名誉や地位、権力などではなかった。彼が望んだのは、真衣と千咲の無事と、かつて埋もれていた真実、そして高瀬グループが正しい道を歩み続けることだけだった。宗一郎の表情が険しくなった。「つまり、私の申し出を断るということか?」「ああ」礼央はきっぱりと言った。「君と手を組むことはない」宗一郎は礼央の言った言葉の真偽を探るように、彼の顔をじっと見つめた。やがて、彼は口角を吊り上げ、冷笑して言った。「そうか、それはいい選択だ」「さすがは高瀬社長、やはりガッツのある男だ」宗一郎は小銭







