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第8話

Autor: ゆい
それからの結城家は、まるでお祭り騒ぎだった。家中が華やかに飾り立てられ、あちこちの扉や壁に婚礼を祝う飾りが施されていく。

「柚奈が本当にお嫁に行くなんてね。こんな日がこんなに早く来るなんて思わなかったわ」

百合子は柚奈の手を固く握り締め、感極まって涙を滲ませていた。

雅臣は傍らで式場設営の段取りを電話で指示し、翔も親族や知人に片っ端から連絡を入れて挙式の案内を出している。

湊に至ってはすべての仕事を放り出し、結婚式の準備に没頭していた。

形だけの結婚式だと口では言いながら、その手配は誰が見ても本気そのものだった。これで形だけだと言われて、一体誰が信じるというのか。

澪は彼らの狂騒の脇をただ無言で通り過ぎた。誰一人、澪の存在に気づかなかった。

そうして、柚奈の誕生日が巡ってきた。

「柚奈、大々的なパーティーは遠慮したいと言っていたけれど、せめて家族の間だけでもお祝いしよう。とびきりのプレゼントを用意したんだ、きっと気に入るよ」

雅臣と百合子はそう言って彼女の機嫌を取りながら、一着の豪奢なウェディングドレスを披露した。

「柚奈もいよいよ花嫁になるんだからね。お父さんとお母さんから、特別な贈り物よ。気に入った?」

すかさず翔も、桐箱に収められた縁結びの御守りを差し出した。

「これは俺が由緒ある神社で、祈願を重ねて授かってきたものだ。柚奈、お前と湊が永遠に結ばれるよう祈ってる」

湊もまた、手品のように小さなベルベットの箱を取り出し、愛おしげな眼差しで柚奈の前に差し出した。

「柚奈、これが俺たちの結婚指輪だ。君の指のサイズに合わせて特注したんだよ」

柚奈は息を呑んで両手で口元を覆い、感涙に瞳を潤ませた。

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん……それから、湊。本当にありがとう」

4人が満面の笑みでバースデーソングを歌い上げると、柚奈は幸福感に浸りながらそっと目を閉じ、願い事をした。

「もうすぐお式だけど……たとえ形だけでもいいから、湊にキスしてほしいな」

そう言って目を開けると、彼女は瞳に涙を湛えたまま、輪の外に佇む澪へと視線を投げかけた。

「お姉ちゃん、湊にキスしてもらってもいい?」

澪は相変わらず無表情のまま、淡々と唇を動かした。

「好きにすれば」

あの日、澪があまりにもあっさりと承諾したため、柚奈の情緒不安定を案じる一同は、すぐさま挙式の準備に取り掛かっていた。

だが、この瞬間になって初めて、湊は澪のただならぬ空気に違和感を覚えた。

承諾が早かったなどという次元ではない。彼女は心底どうでもよさそうなのだ。

自分が形だけの結婚をすることも、相手が誰であるかも、そして何より、自分という存在そのものに、微塵も執着していない。

湊は胸を締めつけられるような不安を覚え、何かを言おうと口を開きかけたが、翔がそれを遮った。

「今日は柚奈の誕生日だぞ。主役の願いを叶えてやるのが筋だろう。湊、早くキスしてやれよ」

雅臣と百合子もせっつく。

「そうよ、今日くらい柚奈を一番にしてあげなさい。湊、ほら」

湊は長いこと迷ったが、柚奈の目から次々と涙がこぼれ落ちるのを見かねて、ついに身をかがめ、柚奈を抱き寄せてその唇の端にキスをした。

触れ合うだけの短い口づけに、残る3人は惜しみない拍手と歓声を送った。

その茶番を一瞥した澪は乾いた笑みを浮かべ、キッチンで適当につまめるものを腹に収めると、足早に自室へと引き上げた。

すべての喧騒を、冷たい背中の向こうへと置き去りにして。

出発の3日前。澪は雅臣、百合子、翔、そして湊との思い出の品をすべて整理し始めた。

万を超える写真、数え切れない贈り物。それらを残らず、一つの大きな段ボール箱へと乱暴に投げ込んだ。

彼女は箱を抱えて家を出ると、一切の躊躇もなく、近所のゴミ集積場へと投げ捨てた。

結城家も、湊という男も、彼女の中では完全に過去のものとなっていた。もはや彼らに期待する心など、欠片も残っていない。

ゴミを捨て終えて戻ると、ちょうど屋敷を訪ねてきた湊と鉢合わせた。

湊は怪訝そうに彼女を呼び止める。

「澪、今、何を捨てたんだ?」

「ゴミよ」

澪は抑揚のない声で言い、彼を見据えた。

その虚無の視線に、湊の心臓が不穏に跳ねた。得体の知れない焦燥が胸を突く。

彼は思わず歩み寄って彼女の手首を掴み、弁解するように囁いた。

「澪、柚奈はこの前自殺を図ったばかりで、まだ精神的に不安定なんだ。あのキスだって、あいつを落ち着かせるための気休めに過ぎない。変な誤解はしないでくれ」

そう言い添えながら、彼は金箔押しされた婚礼の招待状を差し出した。

「式当日は必ず来てくれ。誓うよ、柚奈と一線を越えるような真似は絶対にしない。式は、形だけのものに過ぎないんだから」

10日――

招待状に刻まれた日付は、奇しくも彼女がこの地を去る日そのものだった。

澪は招待状を見つめたまま、一言も発しなかった。

湊はその沈黙を行く意思の表れだと都合よく解釈し、安堵のため息を漏らすと、再び式の準備へと戻っていった。

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