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第5話

Author: 葉の桃
直人は連行された。

背後から、蒼介の冷淡な声が響いた。

「君の父親の事件だが、俺は莉子の代理人弁護士として、自ら彼女の被害を立証するつもりだ」

月の顔色は一瞬にして紙のように蒼白になった。

蒼介は東都市のトップ弁護士であり、これまで無敗を誇っている。

もし彼が本気で父親を追い詰めるつもりなら、もはや弁解の余地など全くなくなってしまう。

彼女はたまらず哀願した。

「莉子はいくら賠償金が欲しいの?私が払うから、被害届を取り下げさせて、お願い」

蒼介は目を伏せ、月の青ざめた顔を見つめた。その瞳の奥に、一瞬だけ心が痛むような色がよぎった。

彼は手を伸ばして彼女を助け起こしたが、その眼差しは同情から次第に冷酷なものへと変わっていった。

「月、そんなことはやめろ。俺は弁護士だ。私情で法を曲げれば、被害者への二次被害になる」

月は全身を震わせ、目に溜まっていた涙がとうとうこぼれ落ちた。

彼女は彼を見つめた。まるで、この男の本当の姿を初めて知ったかのようだった。

蒼介は指の腹で彼女の涙を拭った。

「大丈夫だ。君は君で何とかすればいい。だが、君を助けないのが、俺の譲れない一線だ。

何しろ君は俺の妻だからな。君を助けたら、莉子に対して不公平になる」

不公平、またその言葉か。

莉子が父親を罠にかけたのは明白で、その手口も極めて稚拙だというのに。

これほど聡明な彼が、あっさりと信じ込んでしまうとは。

明らかに誰かを贔屓しているというのに、それでもなお「公平」と言える。

そのせいで、月の恨み言すらも理不尽な言いがかりのように聞こえてしまう。

彼女は勢いよく彼を突き飛ばし、涙を拭って、一歩一歩よろめきながら外へと歩き出した。

蒼介が助けてくれないのなら、自分に頼るしかない。

それからの数日間、月は目が回るほど忙しく駆けずり回った。

愛想笑いを浮かべて関係者を食事に招き、次から次へと強い酒を喉に流し込んだ。

胃が焼けるように痛み、ある時トイレで吐き出したものの中には、目も眩むような鮮血が混じっていた。

洗面台に寄りかかり、水をすくってうがいをしようとしたその時、突然横から手が伸びてきた。

骨格のしっかりとした指の間に、綺麗にアイロンのかかったハンカチが挟まれていた。

「医者を呼びましょうか?」

月は勢いよく顔を上げた。

目に飛び込んできたのは、端正な顔立ちと、涼しげな瞳だった。仕立ての良いダークグレーのスーツを着た男が、静かに彼女を見つめていた。

彼女は目を伏せ、そのハンカチを見つめたが、指は無意識のうちに洗面台の縁をきつく掴んでいた。

またこの人だ。

この半年間、蒼介と莉子のじゃれ合いの影で自分が隅に取り残されるたびに、この男はいつも絶妙なタイミングで現れた。

遠からず近からず、テーブルをいくつか挟んだ距離から、穏やかな眼差しで彼女を見つめていたのだ。

彼女は彼を不審に思ったこともあったが、深くは考えなかった。

今、月がなかなかハンカチを受け取らず、それどころか警戒の眼差しで自分を睨みつけているのを見て、男の瞳の奥に一瞬だけ落胆の色がよぎった。

彼は手を引っ込め、ハンカチを乾いた台の上にそっと置いた。

「申し訳ありません」

彼は軽く頷いた。

「唐突すぎましたね」

彼は穏やかな手つきで名刺を差し出し、気遣うような眼差しを向けた。

「もし何かお困りのことがあれば、ご連絡ください。

ご安心を。怪しい者ではありませんから」

そう言い残すと、彼は軽く会釈をして、礼儀正しく背を向けて立ち去った。

月はその名刺をじっと見つめ、しばらく経ってから震える指先を伸ばしてつまみ上げた。

帝星グループ代表取締役社長、鷹司涼真(たかつかさ りょうま)。

彼女はスマートフォンを開いて調べた。帝星グループは東都市に数十年も君臨し、盤石の基盤を持つ、蒼介でさえ見上げなければならないほどの巨大企業だった。

月は名刺を握りしめた。指先は氷のように冷たかった。

この世にタダより高いものはないと、彼女は信じていた。ましてや、その施しを与えるのが鷹司涼真のような権力の頂点に立つ男であれば、なおさらだ。

彼の穏やかさ、彼の眼差しには、間違いなく彼女には想像もつかないほどの対価がつけられているはずだ。

月は名刺をバッグの一番奥のポケットにしまい込んだ。

乱暴に口元を拭い、メイクを直してから、再び接待の個室へと戻っていった。

だが、相手の弁護士が蒼介だと聞いた途端、頼った人々は例外なく尻込みした。

「朝比奈さん、あなたと氷室先生は夫婦なんだから、私たちに頼み込むより、家に帰って彼に折れた方がいいんじゃないですか?寝物語にでも頼み込めば、何より効果的でしょう?」

折れる?

月の口元に、苦笑いが漏れた。

当然懇願した。プライドを捨てて地に這いつくばるように頼み込んだのだ。しかし返ってきたのは、蒼介の「法に情けは無用だ」という冷酷な一言だった。

自分に一体何ができるというのか!?

だが、昨日面会室で父親を見た時の光景が、再び彼女の喉を強く締め付けた。

ガラス越しに見た父親の老いた顔には、無数の小さな傷ができていた。

両手は痣だらけで腫れ上がり、受話器を握る姿勢さえも歪んでいた。

それでも年老いた父は彼女の顔を見るなり、必死に笑みを作り、ガラス越しにぎこちなく身振りを交えて言ったのだ。

「月、焦らなくていいぞ……父さんはここで美味しいものを食べて、暖かくしてるし、快適に過ごしてるから……心配するな……」

その無理に作った気楽な様子は、どんな泣き叫ぶ声よりも月の心を痛めつけた。

彼女は血の味がするまで唇を強く噛み締め、喉まで出かかった嗚咽をどうにか飲み込んだ。

もう躊躇している暇はない。父親の体はこれ以上の苦痛には耐えられない。

疲れ切った体を引きずって家に帰り、ドアを開けた瞬間、月はその場に凍りついた。

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