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第9話

Auteur: 浜辺玖珠
雪の下に埋もれた美優は、意識が遠のく中でも、大地の焦った声をはっきりと聞いていた。

「早く掘り出せ!」

大地は秘書や周囲のスタッフに叫んだ。

「スタッフが、琉那が小屋に来たと言っていた。俺がさっき見た時、彼女は雪の下に埋まっていた。急げ、救え!」

スタッフが雪を掘り返しながら言った。

「もう一人の女性も一緒に埋まっているようです、たしか長谷川さん......」

大地の表情が固まった。

「美優も......そこにいるのか?」

その言葉の直後、秘書が叫んだ。

「西谷さんがいました!まだ生きてます!」

大地はすぐさま駆け寄り、意識を失った琉那を抱き上げた。

山を下りようとした時、スタッフが言った。

「ケーブルカーは一度に一人しか運べません。次に戻るのは午後です。川村さん、本当に先に彼女を下ろしますか?」

大地は眉をひそめた。

「どういうこと?」

秘書が声を上げた。

「川村さん、美優さんも埋まっているかもしれません!彼女を助けなくていいんですか?」

大地は一瞬迷い、そして言った。

「......まず琉那を下ろして。失明していたあの3年間、彼女は命がけで俺を支えてくれた。俺はその恩を忘れられない。美優は......」

彼は一言だけ残した。

「後で戻って必ず救うから」

雪の下で、その言葉を耳にした美優の心に残っていた最後の希望は、音を立てて崩れ落ちた。

スタッフは必死で雪を掘り続け、美優を引き上げたときには、彼女の体はすっかり冷え切っていた。

上着を脱いでかけてくれたスタッフの腕の中で、美優の抑えていた感情が爆発した。

「あああああ!」

痛みと怒りと絶望の叫びが、冷たい空気に響き渡った。

川村大地!愛し続けるなんて全部嘘だった!

私を騙し、裏切った人を絶対に許さない!

午後、大地が再び雪山に戻ったとき、美優の姿はすでになかった。

入れ替わったスタッフに行方を尋ねると、「長谷川さんなら、すでに帰りましたよ」

そう告げられ、大地は慌てて山を下りていった。

その頃、美優は別荘で最後の荷物をまとめていた。

大地の署名入りの書類をすべて持ち出し、事前に用意したDVDを封筒に入れ、送り先を記して宅配業者に依頼した。

明後日が結婚式。その日に必ずホテルにこのDVDが届くはずだ。

全ての準備が終わると、美優は病院から持ち帰った骨格標本をリビングに置き、買い込んだガソリンを辺りに撒いた。

最後に、別荘をじっと見つめた。

これは、大学卒業の年に大地が贈ってくれた家だ。

二人の愛の巣であり、一生を共にすると誓った場所でもある。

だが、その愛はただの幻に過ぎなかった。

その時、スマホが鳴った。

大地からの音声メッセージ。

「美優、もう家に戻ったか?こっちはまだ少し片付けがあるが、今夜は必ず帰るから、待ってくれるか......」

そう言った直後、背景から琉那の声が聞こえた。

「ねえ、早く食べさせてよ......」

美優は冷笑し、大地の連絡先をブロックした。

もう、彼のために悲しむことはない。

それでも、最後に震える声で呟いた。

「大地、もう二度と私を見ることはない。それが、あなたの裏切りへの代償よ」

振り返る前に、彼女はライターを取り出し、火を灯して別荘へ投げ入れた。

轟音と共に炎が広がった。

燃え上がる炎の海を見つめながら、美優は冷たく言った。

「大地、さようなら」

彼女は未練なく背を向け、キャリーバッグを引いて歩き出した。

背後では炎が別荘に残る全ての愛と甘い記憶を焼き尽くしていた。

これで終わり。

大地、もう二度と君と会うことはない。

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