監視カメラの映像で、長谷川美優は10年間付き合ってきた婚約者の川村大地が浮気しているところを見ていた。 画面の中で、彼は見知らぬ女と車の中で情事に耽っていた。 その女はかつて視力を失った川村大地を丸3年も世話していた女だった。2人は美優に隠れて密かに愛し合っていたのだ......
View More1か月後、ネットで爆発的なニュースが飛び込んできた。「川村家の資産がすべて長谷川家に移転、御曹司の大地は両目が失明」実は、美優が大地を去る前、すでに彼に数多くの書類へサインさせており、その時点で川村家の資産を密かに長谷川家へ移す準備を進めていた。オークションで落札したあの書類にも川村家の株式移転の条項が仕込まれていたが、大地は美優を取り戻すことばかり考えていて、まったく気づいていなかったのだ。今や川村家は完全に倒産してしまった。大地はずっと病院に入院し、眼の治療費すら払えないほど困窮していた。川村の両親は泣きながら美優に哀願した。「どうか慈悲を......せめて資産の3分の1だけでも返してほしい。大地の目を治療するためなのです」だが、美優は彼らと会おうともしなかった。会社の門前には「川村家関係者立入禁止」の看板が立てられた。国内へ戻った川村の母は毎日泣き崩れ、後悔していた。長谷川家に対抗するために仕掛けた策が、まさか自分たちに牙を剥く結果になるとは思いもしなかった。そして病室で目を覚ました大地は、母の懺悔を耳にしてしまう。「私が悪かったのよ......あの飛行機事故を仕組むべきじゃなかった。琉那を大地のそばに置いたのも私......それに、琉那を大地のそばに送り込むべきじゃなかった。本来は琉那を美優の代わりに据えるつもりだった。そうすれば、美優は大地に捨てられたも同然になる。彼女はあれほど大地を愛しているから、必ず彼のそばに残ろうとあれこれ画策するはずだ。長谷川家も娘の辛い思いを見過ごせず、きっと大量の株を差し出すに違いない」その言葉を聞いた大地の心は激しく揺れた。彼はよろよろと病室を出て、母に問い詰めた。「母さん......今の話、全部......本当なのか?」「大地......起きていたの?」母は顔面蒼白となり、口ごもった。「俺が失明したのは母さんのせいなのか?琉那をそばに置いたのも......全部母さんの策略だったのか!?」母は肩を震わせ、ついに首を垂れた。「......そうよ、全部母さんの間違いなの。私が......私があなたを狂わせてしまった」「......はは......」大地の口から乾いた笑いが漏れ、やがて嗚咽に変わった。すべては母の計画か......琉
5日間も降り続いた雨は、まだ止む気配がなかった。美優はふらつきながらも必死に廃屋から飛び出し、外に待機していた警察たちに向かって手を振り、大声で自分の名前を叫んだ。だが、そのうちの一人が突如として銃を抜き、彼女の背後に狙いを定めて叫んだ。「動くな!」驚いた美優は反射的に振り返った。そこには、大地がロープを手に持ち、彼女を再び縛ろうとしている姿があった。大地の目は赤く潤み、哀願するように叫んだ。「戻ってこい......行かないで......」しかし、美優は二度とこのチャンスを逃す気はなかった。ためらいなく踵を返し、全力でパトカーの方へ走り出した。「美優、俺から離れるな!あああ!」大地の絶望の咆哮が雨音を切り裂いた。次の瞬間、耳をつんざく銃声が響き渡った。警官たちは銃を構えながら一斉に大地を取り囲んだ。大地の目に映るのは、美優の遠ざかる後ろ姿だけだった。「美優!」何度もその名を呼んだが、彼女は一度も振り返らなかった。そこへ晋平と光太郎が駆けつけた。晋平は車から飛び降り、美優の名前を呼んだ。「美優!」美優は彼を見つけた瞬間、瞳が赤く染まり、泣き笑いのような表情で駆け寄った。晋平がしっかりと抱きしめると、美優はその胸に顔を埋めた。その光景を目の当たりにした大地は、完全に狂気に呑まれた。彼は、他の男が美優を抱くことを絶対に許せない。必死に警察の拘束を振りほどこうと暴れたが、数人の警官に押さえつけられ、地面にねじ伏せられた。「離せ!俺は美優を迎えに行くんだ!邪魔をするな!あああ!」だが、彼の叫びもむなしく、美優は晋平の車に乗り込んだ。大地の脳裏を、二人で過ごした10年の記憶がフラッシュバックのように駆け抜ける。その全てが今まさに崩れ去ろうとしている。そして、美優の隣にいるのは、もう自分ではなく別の男だ。その事実が、大地の心を切り裂いた。彼は半狂乱で立ち上がり、警察を突き飛ばしながら美優を追おうとした。手を伸ばし、遠ざかる彼女の姿を必死で掴もうとした。パン!パン!再び銃声が轟いた。車内にいた美優は、その音に息を呑んだ。本能的に後ろを振り返りかけるが、晋平が彼女の目を覆った。「美優、もう安全だ。......後ろを見ないで」美優の心臓
大地に監禁されている数日間、美優は何度も絶食や断水で抵抗したが、何をしても彼が放してくれる気配はなかった。彼女は仕方なく従順を装い、「せめて会社に電話させて。私がこんなに長く姿を消したら、社員が心配するでしょう?」と懇願した。だが、大地は薄く笑って首を振った。「俺を騙そうとしても無駄だ。君はずっと、俺から逃げることばかり考えてる。もう同じ手は食わない」一方そのころ、晋平は美優を必死に探し続けて5日が経っていた。会社は行方不明者の情報を出し、メディアやネットを使って美優の行方を追い、ついには警察にも通報した。だが、依然として手掛かりはなかった。晋平は気が狂いそうなほど焦り、光太郎も妹の安否を案じていた。彼は「犯人は川村大地に違いない」と確信し、川村家に直接警告した。「今すぐ大地を探し出して美優を返させなければ、長谷川家はこの件を大きく公にする。川村家が世間から非難されるのは避けられないぞ!」雅彦と真由美は夜を徹してM国に飛んできた。だが彼らは、大地が美優を連れ去ったことを認めるどころか、逆に長谷川家を責め立てた。「大地がここに来たのは美優を探すためだ。それが行方不明になったのよ。そっちのせいじゃないのか!」と真由美は怒りを露わにし、「もし大地に何かあれば、川村家は長谷川家と絶対に和解しない!」と声を張り上げた。その場にいた長谷川夫妻も負けじと反論した。特に真由美は、きっぱりと事実を突きつける。「大地が最初に裏切ったんでしょう!川村家が我が家の財産目当てで、美優に言い寄ったのは周知のこと。今さら娘の行方をくらまして、長谷川家の財産を奪おうとしているのね!」両家の口論が激化する中、晋平のスマホに突然、見知らぬ送信者からのメッセージが届いた。彼が開いてみると、それは座標情報だった。「C市の廃墟?」晋平はハッと目を見開き、光太郎に向かって言った。「これは美優が送ったに違いない!」光太郎も一瞬で理解し、二人は急いで車に飛び乗った。途中でC市の警察に連絡し、位置情報を伝えると、晋平はアクセルを踏み込みながら祈るように呟いた。「美優、無事でいてくれ......」その頃、美優は窓の外にいる少年にスマホを返していた。少年は近くの農場に住んでおり、サッカーボールを追いかけて偶然この廃墟に迷
再び目を開けたとき、美優は自分が見知らぬ部屋にいることに気づいた。両手と両足は固く縛られ、体はベッドの上に固定されていた。必死に身体をよじっても、まったくほどける気配がなかった。そのとき、低い声が耳元に落ちた。「やっと目を覚ましたんだな、美優。君はもう3日も眠ってたよ」美優はその声の方向へ素早く視線を向けた。そこには大地が椅子に座っていた。彼の顔はひどくやつれ、目の下に深い影が刻まれ、長い間眠っていないことが一目でわかった。「大地、ここはどこ?どうして私をここに連れてきたの?一体、何を考えてるの!」美優は怒りを込めて叫んだ。「ただ、君と一緒にいたいだけだ」大地は美優をじっと見つめた。「安心しろ、誰もここを見つけられない。この家は俺が買ったんだ。M国の中心から遠く離れた場所で、ここには俺たち二人だけ。誰も邪魔できない」美優の目が恐怖に見開かれた。大地は、彼女を監禁しているのだ。それは冗談でも脅しでもない。大地の真剣な表情と執念に満ちた瞳が、美優の背筋を凍らせた。彼を刺激すれば何をしでかすかわからないと感じて、美優は言葉を飲み込んだ。大地は小さく首をかしげ、困惑したように言った。「美優......君は俺を怖がっているのか?どうしてそんな目で俺を見るんだ?」美優の心臓は激しく鼓動していた。部屋の重いカーテン、床に散らばるミネラルウォーターのボトルから見ると、この3日間、大地は片時も彼女のそばを離れなかったのだろう。まるで、彼女が瞬きをするだけで消えてしまうとでも思っているかのように。その狂気じみた執着が、美優の恐怖をさらに煽った。大地がベッドのそばに腰掛け、彼女の頬に手を伸ばすと、美優は嫌悪感に震えた。だが、逆らえば彼を怒らせるかもしれない。美優は仕方なく、ぎゅっと目を閉じて歯を食いしばった。大地はそっと彼女の頬を撫でた。その指先は微かに震え、声は絶望を帯びていた。「君はもう俺を嫌っているんだろう?俺を見るのも嫌なんだな......でも、それでいい。もう飛行機のチケットは取ってある。一週間後には君を連れてここを出る。そして、島で結婚しよう。誰も俺たちの過去を知らない場所で、一生幸せに暮らすんだ」美優はついに堪えきれず、怒声を上げた。「お前は狂っているの!」彼女の言葉を聞いて
翌日、競売会場にはすでに大勢の人々が押し寄せてきていた。大地が会場に足を踏み入れたとき、美優はすでに最前列の特等席に座っていた。その隣には晋平が、今にも彼女の肩に寄りかかりそうな距離で座っていた。大地は怒りに燃え、迷わず競売札をつかんだ。ワインが紹介されると同時に、解説を待たずして高らかに札を上げた。「一億円!」いきなりの高額入札に会場がどよめいた。最前列の美優も思わず振り返り、その顔が大地であるとわかるや否や、眉間にしわを寄せた。彼女は晋平に耳打ちし、晋平もすぐさま応札した。「一億二千万!」「一億四千万!」大地はすかさず競り返した。金額は次々と吊り上がり、ほかの参加者の入り込む余地がなくなった。晋平が「二億円!」と声を張り上げたとき、会場は大きなざわめきに包まれた。だが、大地は表情ひとつ変えずに札を高く掲げた。「六億円!」会場は騒然となり、ざわめきが爆発音のように広がった。美優は両手をぎゅっと握り締めた。これ以上、誰も競り上げることは不可能だとわかっていた。彼女が逡巡するその間に、晋平は美優の顔色を気にしすぎて落札のタイミングを逃してしまった。司会者の槌が三度鳴った。「六億円で落札!こちらの方が、今夜、長谷川社長とディナーの権利を獲得されました!」大地は待ちきれない様子で立ち上がり、スーツの裾を整えて礼儀係に案内され、特別室で美優を待った。二人きりになれるかと思うと、大地の心は激しく震え、落ち着かなかった。やがて、美優が部屋に入ってきた瞬間、大地は即座に自分のジャケットを脱ぎ、彼女の肩に掛けた。「エアコンが効いて寒いから、これを羽織って」大地は優しく声をかけた。だが、美優はその外套を無造作に椅子へ置き、無言でテーブルに座ると、一枚の契約書を差し出した。「この売買契約書にサインして。ワインの登録権は君のもの、六億円は私のものよ」大地は中身も見ずに署名した。美優は薄い笑みを浮かべ、契約書を回収し、赤ワインを注いで彼に手渡した。二人でグラスを合わせ、一口で飲み干した。「これでディナーは済んだわ。私はこの後、別の予定があるから」美優は席を立とうとした。大地は慌てて彼女の前に立ちはだかり、懇願した。「美優!一度だけ俺の話を聞いてくれ!琉那との関係はもう切った。
光太郎は、煙草を指でつまみながら前に出てきた。彼は美優の前に立ちはだかり、晋平に会議室へ向かうよう合図を送ると、大地を上から下まで冷ややかに見据え、嘲るように笑った。「国内じゃもう結婚まで済ませたんだってな。よくも俺の妹にまだしつこく絡めるもんだな?」「光太郎、それは誤解なんだ。頼む、昔みたいに美優に俺のことを少しだけでもいいように話してくれ。あの時君が俺を許してくれたから、美優と一緒にいられたんだ!」光太郎の表情が一気に険しくなり、低く言い放った。「俺の人生での一番の過ちは、あの時お前と美優をくっつけたことだ!もしお前がこんなクソ男だと分かっていたら、妹の10年も無駄にさせるなんて絶対許さなかった!」大地は恥ずかしそうに顔をそらした。光太郎は冷笑した。「お前のことは、美優から全部聞いた。これ以上付きまとうなら、お前を社会的に抹殺してやる」そう言いながらスタッフたちに視線を送り、彼らは無言のまま、大地に退室を促すようなジェスチャーをした。大地は拳を固く握り締めたまま、どうしようもなく会社を後にした。だが立ち去る直前、こっそり小型カメラを会社の入口カウンターに仕掛けていった。彼女の顔を一目見られるなら、監視という手段でも構わない。美優が会議を終え、ロビーのソファに腰を下ろして一息ついていると、晋平がコーヒーを差し出しながら、そっと彼女の肩を優しく揉んだ。大地はモニター越しにその光景を見つめ、嫉妬と怒りに歯を食いしばった。「社長、今夜は僕がマンションまで送りますよ。あの元カレにまだ絡まれたら危ないですから」晋平がそう言うと、美優は苦笑しながら首を振った。「晋平、結構だわ」だが晋平は彼女の手を取り、真剣な目を向けた。「社長、僕の気持ちはまだお伝えできていないのでしょうか。岡本家の力があれば、M国で会社を立ち上げることなど容易いことです。ですが、僕は何年もお待ちしておりました。大地と別れるその日を、ずっと。社長のそばで、ただの秘書であっても構いません。これからもずっと、社長を支え、そしてお守りしたいのです」美優は手を振り解こうとはせず、俯きながら静かに言った。「......もう少しだけ時間をくれる?まだ心を整理しきれてないの」晋平は言葉を続けた。「僕はすべて見てきました。大地は社長を
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