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第3話

作者: チンモク
従姉はその日のうちに隣町から駆けつけてくれて、私の顔を見るなり、呆れたように言った。

「涼子、あなた本気でこんな男と結婚するつもり?」

とっさに言い返そうとしたが、彼をかばう理由なんて一つも思い浮かばなかった。

その夜、ようやく悠人が病院にやってきた。

だが彼は病室へ向かうこともなく、病院の外から私を呼び出し、疲れ切った声でこう言った。

「ちょっと下まで来てくれないか?お前の親戚に囲まれて、あれこれ聞かれたくないんだ」

外に出ると、彼は1枚のキャッシュカードを差し出す。

「暗証番号はお前の誕生日だ。もうこの話は終わりにしよう。知紗のことはちゃんと説明するから」

言い返す間もなく、スマホに通知が届いた。知紗の投稿だ。

点滴室で撮った彼女の写真だった。

手には点滴の針が刺さっていて、今にも倒れそうなほど弱々しく見える。

【どうして誰かが怒るたびに、全部私のせいになるんだろう】

その投稿を見て、悠人が病室へ向かおうとしなかった理由を悟った。

親戚に責められるのが嫌だったわけじゃない。

父の前で、今日どこへ行って何をしていたのか、私に問いただされるのが怖かったのだ。

それでも私は彼を病室へ連れて行った。

父が目を覚ました時、真っ先に聞いた言葉は、「悠人は……来たのか?」だった。

病室での悠人は完璧に振る舞っていた。

父の布団を整え、東都の専門医にも相談して、転院させると約束した。

結婚式も予定通りに行うと言って、父を安心させた。

濁っていた父の目に、ようやく光が灯った。

父は震える手で、私の手を悠人の手に託した。

「涼子は……昔から我慢ばかりする子なんだ。つらいことがあっても、何も言わずに抱え込む。

悠人、この子を幸せにしてやってくれ」

その瞬間、胸の奥が熱くなり、涙がこぼれそうだった。

悠人は父の前で私の手を強く握り、大きく頷いた。

だが、病室を出た瞬間、その手はあっさり離された。

彼は眉をひそめ、冷たい声で言う。

「これで満足か?わざわざお父さんの前で、こんな芝居までさせて」

その一言が胸を深く抉った。

さっきまで抱いていたわずかな希望も、一瞬で砕け散る。

ちょうどその時、知紗から電話がかかってきた。

悠人が出るなり、向こうから途切れ途切れ、泣き声が聞こえてくる。

「悠人……解熱剤が合わなかったみたいで……すごく苦しい……周りに誰もいなくて怖いよ……」

悠人の表情が一変した。

彼は迷うことなく踵を返す。

私は必死で彼の袖を掴み、声を絞り出した。

「待って、お父さんの容態が悪いの。今夜が峠だって、さっき医者に言われたばかりよ!」

だが、悠人は私の手を振り払った。

あまりの力に壁へ叩きつけられ、私は床に倒れ込んだ。

「医者は安定してると言ってたろ!涼子、知紗の方は本当に一大事なんだ!」

慌てて追いかけたが、いつの間にか激しい雨が降り注いでいた。

悠人が車に乗る前、一度だけ振り返った。

雨に濡れた髪の隙間から見えた瞳には、疲れと苛立ちしかなかった。

「いい加減にしろ、もうお父さんのことを理由に俺を試すのはやめてくれ。うんざりだ」

そう言い残し、車は雨の中へ走り去り、赤いテールランプが闇に消えていく。

その時、私のスマホが鳴る。

主治医からの電話だった。

「酒井さん!急いで病室に戻って来てください!お父様が……」

父が息を引き取ったのは夜中1時3分。

父は最後まで入り口を見つめ、戻ってくると約束した未来の婿を待っているようだった。

冷たくなっていく父の手を握りしめ、「私はここにいるよ」と何度も声をかけた。

でも、もう声は届かない。

夜が明ける頃、悠人からメッセージが届いた。

【知紗は落ち着いた。ずっと付き添っていたんだ。お父さんの様子はどうだ?】

私はその文字を、ただ呆然と見つめ続けた。

そして静かに婚約指輪を外し、父のベッド脇の引き出しへそっと置いた。

その時、看護師が入ってきて、父が生前残したという古びた封筒を渡してくれた。

「お父様から、涼子さんが一人になった時に渡してほしいと言われていました」

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