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第 3 話

Author: 燈ちゃん
真也は目を開けることもなく、指先で眉間を押さえながら、淡々と答えた。「そこに置いておいてくれ」

哲也は頷き、封筒を机の端へ置く。そのまま退出しようとしたところで、背後から声が飛んだ。

「待ってくれ」

真也はゆっくりと瞼を持ち上げた。徹夜の疲れで、声がわずかに掠れている。

「凛に電話して、いつもの弁当を作るよう頼んでくれ」

そして、何かを思い出したように続けた。「それから病院にも伝えておけ。加藤教授が西京市へ戻り次第、凛の父を診察してもらって、できるだけ早く手術に進めるように」

そう口にした瞬間、昨夜、凛が冷たく告げた一言が脳裏をよぎった。

――「手術はもう必要ない」と。

真也はわずかに眉を寄せる。

ここ数日は仕事に追われ、凛のことを後回しにしたのは事実だ。

そう考え、さらに付け加えた。「それと、最近出た新作ジュエリーでも選んでおいてくれ。凛へのプレゼントに今夜持って帰る」

最近、会社はこれ以上ないほど忙しく、問題も次々と起きていた。だからこそ、凛には大人しくしていて欲しかった。

哲也は指示を聞きながら、思わず困惑した表情を浮かべる。

診察?手術?凛の父は、もう亡くなったはずではないのか?

「社長……奥様のお父様ですが、すでに……」

そこまで言いかけた瞬間、机の上のスマホが鳴った。海外からの着信だ。

真也はすぐに表情を引き締め、立ち尽くしていた哲也へ軽く手を振る。そのまま立ち上がると、窓際へ歩み寄り、流暢な英語で相手と通話を始めた。

哲也は静かに社長室を出る。扉を閉めながら、先ほどのやり取りを思い返し、小さく息を吐いた。「社長、この数日は本当に忙しすぎて、混乱してるかもな……」

そう呟きながら、頼まれた通り凛へ電話をかける。しかし、数回の呼び出し音のあと、通話は切れた。

もう一度かけても繋がらない。

仕方なく、今度は桐生家の邸宅へ連絡を入れる。電話に出た清掃スタッフは、淡々と答えた。「奥様でしたら、出張に行かれましたよ」

哲也は納得したように頷いた。仕事で電話に出られないのだろう。そう考えたところで、ふと真也がまだ食事を取っていないことを思い出す。

空腹のままでは社長の機嫌が危うい。

哲也は急いで栄華亭へ電話し、弁当を注文した。

……

真也が家に戻った時、時計はすでに夜の9時を回っていた。

玄関の扉を開けても、出迎える明かりはどこにもなく、広い邸宅は深い闇に沈んでいる。

歩きながらネクタイを緩め、腕にかけていたジャケットを玄関脇の棚へ置く。

灯りのない室内に響くのは、自分の足音だけだった。

真也は眉をひそめ、壁のスイッチへ手を伸ばす。明かりが灯った瞬間、妙なほど広く感じる静けさに、胸の奥がわずかにざわついた。

こんな感覚は、久しぶりだった。

たとえ出張で家を空ける時でも、凛は必ず部屋のどこかに小さな灯りを残していた。

真也が暗闇を嫌うことを、彼女は知っていたからだ。

視線を巡らせる。

いつもならフルーツが綺麗に並んでいるはずのアイランドキッチンには何もなく、冷蔵庫を開けても、作り置きの料理ひとつ入っていなかった。

その違和感を打ち消すように、真也はスマホを取り出す。連絡先の中から凛の名前を探した。アイコンの横には、「通知オフ」の表示が付いている。

トーク画面を開くと、最後のやり取りは3日前だった。

そこには、取り消された無数の発信履歴――

【どうして電話に出ないの?】

【今すぐ帰ってこられない?】

【父の手術、どうしてまだ手配してくれないの?】

そんな言葉ばかりが残っていた。

あの時、伊織の父親の容体が危険な状態で、真也には凛の感情的な訴えに構っている余裕などなかった。

それに、凛の父親の状態については確認していた。今すぐ対応しなければならない状況ではないと判断した。

さらにチャット履歴を遡る。

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