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第 4 話

Author: 燈ちゃん
そこに並んでいたのは、ほとんど凛からの一方的なメッセージだった。

仕事の取材がうまくいったという報告。病院の庭に咲いた薔薇の写真。「どんなフルーツが好き?」という何気ない質問。出張先では身体を冷やさないようにという気遣い。「胃薬はスーツケースの内ポケットに入れておいたから」という、いつもの世話焼きな言葉。

それに対して、真也が短い「分かった」の一言だけを返すか、それすらしない。

毎日顔を合わせるのだから、わざわざ返信するほどのことではない。そんなふうに思っていた。

スマホを見つめながら、真也は小さく息を吐く。そして、玄関に置いたままだった紙袋を持ち上げ、リビングのテーブルへ置いた。

暖かい紅茶を入れ、少し迷ったあと、メッセージを打ち込む。

【仕事は順調か?いつ頃終わりそう?帰ってきたら、お前の好きなレストランに行こう】

送信前に画面を見つめる。

何か違う気がした。こんな言い方は、自分らしくない。

一度削除し、改めて入力する。

【出張は何日くらいになりそう?いつ帰ってくるんだ?】

それも消す。

結局、残したのは短い一文だけだった。

【いつ帰ってくる?】

それを送信。

紅茶がすっかり冷めた頃になっても、返信は届かなかった。

胸の奥に、初めて小さな違和感が生まれる。耐えきれず、真也は凛に電話をかけた。

呼び出し音が3回鳴ったところで、通話は切れた。

もう一度かける。しかし、何度かけても、結果は同じだった。

真也は立ち上がり、2階へ向かう。

ウォークインクローゼットに入ると、凛の服もバッグもアクセサリーも、以前と変わらず整然と並んでいた。

洗面台に置かれたスキンケア用品も、そのままだ。

目立つほど何かがなくなっているわけではない。数点の小物が見当たらない程度だった。

その光景を見て、真也は少しほっとした。そして哲也に電話をかける。

「凛がどこへ行ったのか調べてくれ」

電話には出ない。メッセージにも返事をしない。いつから、凛はここまでわがままになっていたのだろうか。

電話の向こうで、哲也が一瞬言葉を失う。「……奥様なら、出張に行かれたのでは?」

「行き先を調べろと言ってるんだ!」真也の声は冷たく、明らかな苛立ちが滲んでいた。

すぐに調査結果が返ってくる。

「会社側に確認しましたが、最近、奥様に出張の予定はありません。交通機関の利用履歴も確認しましたが、予約記録はありませんでした」

哲也は少し言葉を選んでから続ける。

「もしかすると……お父様の件で、気持ちを整理するために、友人のところへ行かれたのかもしれません」

凛は細かいことで感情をぶつけるような人間ではない。けれど、今回の件ばかりは違う。

家族の命に関わることだった。真也の軽率な判断に腹が立ったなら当たり前。なんなら、離婚を切り出しても不思議ではなかった。

こんなことはもちろん、真也本人に言えるはずがない。

しばらく沈黙が続いたため、哲也は恐る恐る口を開く。「少し時間を置かれてはいかがでしょうか。奥様のお気持ちが落ち着いてから、社長から謝られたほうが――」

真也は低く笑った。「よく言ったな。お前、今月のボーナスはなしだ」

哲也は言葉を失う。

電話を切った真也の表情は険しいものになっていた。

謝る?自分が?

凛はただ拗ねているだけかもしれないのに、謝罪しろというのか?

無理に決まっている。

そう思いながら、返信のないトーク画面を見つめる。

自分を無視するなど、いい度胸だ。

真也は片手を腰に当て、もう片方の手でスマホを強く握りしめる。指先は迷いなく文字を打ち込む。

【自分が何をしたのか、ちゃんと分かってから連絡してこい】

そして画面を消すと、スマホをベッドへ放り投げ、そのまま浴室へ向かった。

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