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19:小さな違和感

last update Huling Na-update: 2025-09-29 06:34:34

 照明についてプレゼンした日から、少しの時間が流れた。

 事務所に大きな荷物が届く。送り主は、小樽に工房を構えるガラス職人の高村氏。

 中身は言うまでもなく、あの『光の心臓』の試作品だった。

「ついに来たわね!」

「わー、すごい! 本物だ!」

 所長や同僚たちが、固唾をのんで箱の開封を見守っている。

 最後の一枚の緩衝材が取り払われると、美しい品物が姿を見せた。

 そこに現れたのは、まるで一つの生命体だった。

 朝露が今まさにこぼれれ落ちんとする瞬間を切り取ったような、滑らかでどこか不均衡な曲線。その不均衡さが有機的な印象を与えて、温かみを加えている。

 3層に重なったガラスはすりガラスのような柔らかな質感なのに、その奥に真珠のような複雑な光沢を秘めている。

 指示した通りに練り込まれた金粉が、部屋の照明を受けて乳白色のガラスの中で淡く、静かにまたたいていた。

 それ自体が穏やかな呼吸を繰り返しているような、温かく心が安らぐかたち。

(きれい……)

 私のデザイン画から抜け出してきた、いや、それ以上の存在感。

 まずは成功だ。心の底から安堵のため息が漏れた。

 問題はここからだった。

 事務所の一角に設けたテストルームで、天井から照明を吊るして電気を繋ぐ。

 部屋を暗くして、私がスイッチを入れた瞬間。

「おお……!」

「なんてきれいなの……」

 同僚たちから感嘆の声が漏れた。

 それは単なる光ではなかった。

 溶かした蜂蜜を空間にそっと流し込んだような、とろりとした密度の高い光。

 その金色の光は部屋の隅々まで行き渡り、壁紙の織り目や床の木目を、一つ一つ優しく浮かび上がらせていく。

 鋭い影はどこにもなく、すべての輪郭がふわりと柔らかくにじんでいた。

 そこにいるだけで全身が温かいものに包まれるような、不思議な安心感。

 誰もが見惚れるほど美しく、完璧な光に見えた。

 ……そう、見えたのだ。他の誰の目にも。

(違う……)

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