運命のような恋だった

運命のような恋だった

last updateLast Updated : 2025-08-27
By:  桃口 優Updated just now
Language: Japanese
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 安藤 茉白は、小学生の頃に佐々木 シオンに恋をする。  でも、思いを伝えることはできなかった。  伝えられなかったことが、今後の彼女の人生に大きな影響をもたらすことになり⋯⋯。

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Chapter 1

一章 「想いのはじまり」

 始まりとは、いつも些細なことだ。

 佐々木 シオンくんを気になるようになったのは、小学校五年生の時だ。

 彼は私と同級生だ。

 今でもその日のことは鮮明に覚えている。

 その日は新学期が始まる日で、体育館で校長先生が全校生徒に向けて話をしていた。

 私は背の順で一番前だから、校長先生の話を聞かず後ろの子とお話をすることができず残念に思っていた。

 お話を聞かなきゃダメなこともわかっているし、お話を聞くのが嫌というわけでない。ただつい誰かとわいわいお話をしたくなる。

 そんなことを思いながら、自分のクラスの隣りの男子をちらっと見た。 

 空の色に似た目の彼は、校長先生の方をまっすぐ向きじっと話を聞いていた。

 彼は私の視線に気づいたのか、私の方を見た。

 その瞬間時間が、そして世界が止まった。

 今見えるものは彼だけになる。

 視線がゆっくり重なり合っていった。

 そして、私の心は大きく揺れたのだった。

 それから彼と特別親しくなる出来事もなく、私から声をかける勇気も出ないまま、私たちは中学生になった。

 中学は学区制だから、私と彼は自動的に同じ中学校に進学した。

 この頃の私は、彼のことを知りたいという気持ちがどんどん湧き上がってきていた。

 彼は勉強することが好きということを、最近友だちから聞いた。

 友だち伝いで得られる情報は決して多いとは言えないけど、私が行動できていないから仕方ないと思っている。

 でも、〝行動〟って何をどうすればいいのだろう?

 恋って何をすればいいの?

 胸のゆらぎに戸惑いなから、また彼のことを考えていた。

 勉強ができる人はいるけど、勉強自体を好きな人はなかなかいないと思う。

 そう思える彼を尊敬する気持ちが、心の中で大きく膨らんでいった。

 同じ年の子を尊敬するなんて今までになかった。

 中学校一年の今も彼と同じクラスだ。今思えば、彼のことが気になり始めた小学校五年の時だけでなく、六年生の時も同じクラスだった。

 クラス替えがあるのに、彼とは別のクラスになったことが今までない。

 ただの偶然なんだろうけど、そのことを思い出すとなんだか嬉しい気持ちになる。

 前向きな感情は、時に自分の背中を優しく押してくれる時がある。

 担任の先生が教室に入ってきて、朝のホームルームの時間が始まった。

 ホームルームの時間は、堅苦しすぎて私はあまり好きではない。

 もっとライトな雰囲気でしたらいいのにといつも思っている。

 そんな私の気持ちは当たり前だけど先生に伝わることはなく、いつもと同じように先生は黒板に文字を書き始めた。

 カツカツというチョークの音がより重い空気を作り出す。

 窓の向こう側には、桜がきれいに舞っている。

 それから先生の言葉が次々と宙に浮いていく。

 断片しか拾っていないけど、今日のホームルームではクラスのまとめ役を決めるらしい。

 今は四月だからしばらく学校行事はない。でも、次の行事である校外学習にむけてクラスをまとめる人を二名決めるようだ。

「まとめ役をやってみたい人はいますか?」

 先生の少し高い声が、教室に響く。

 私ははっとして、意識を教室に戻した。

 こんな時はいつも静けさがやってくる。

 でも、今日は違った。

 彼が手を挙げていたからだ。

 彼の手は、きれいに真上に上がっていた。

 そんな細かなところまでつい見てしまう私がいた。

 まとめ役の一人目は、彼に決まった。

 彼が単にまとめ役をやりたいのかもしれない。

 でも、私にはどうしてもそれだけだとは思えなかった。

 きっと彼は、クラスの人を思いやる気持ちから手を挙げた。

 教室の雰囲気が悪くならないようにしてくれた。

 自分を犠牲にして、他人を気遣うことはなかなかできることではない。

 「彼って本当に素敵!」という心の声がつい外に出そうなったので、慌てて口に手を当てた。

 私の黒髪が風で少し揺れた気がした。

 私の心に、彼への思いがどんどん増えていく。その量は心の中にもう収まりきらないほどになってきている。

 そして、外にあふれ出した。

 私は恐る恐る手を挙げた。

 基本積極的で話すのは好きな私だけど、話などをまとめるのはあまり得意ではない。

 でも彼ともっと仲良くなりたいという思いが、私の背中を押した。

 こんな邪な理由でまとめ役になっていいのだろうかと少し先生に申し訳なくなった。

 そのまま他にしたい人は出てこず、私と彼は校外学習のまとめ役になった。

 胸の中は、緊張とワクワクの二つのドキドキが入り混じっていた。

 こうして校外学習の準備で、放課後二人で残る日がたまにあるようになった。

 それほど大変なことをするわけではないし、大して長く作業するわけでもなかった。 

 それでも彼は毎回丁寧に取り組んでいた。

「校外学習楽しみだね」

 私は彼の作業の邪魔にならないように、小さな声で彼に話しかけた。

「そうだね。安藤さんは歴史好き?」

 校外学習の行き先が古墳などを見に行くというものだったので、彼は聞いてきたのだと思う。

「うん。私は歴史はかなり好きだよ」

 たまたまだけど、私は教科の中では一番社会が好きだった。

 彼と話す話題になるなら、そんなたまたまは何回あってもいいと思うようになった。

「そうなんだね。僕は実を言うとあまり好きじゃないのだよね」

「えっ、そうなの? それなのに今回の校外学習のまとめ役をしようと思ったの?」

 一般的に興味がないことのまとめ役をしたいとはなかなか思わないことだ。

 彼はどんな思いで、まとめ役になろうと思ったのだろう。

「うん。手を挙げる人もいなさそうだったし、苦手なこともできるだけ逃げずに挑戦したいから」

 私は勝手に彼には苦手なことなんてないと思っていた。

 どこか完璧さがあったから。

 嫌なことから逃げることはそんなに悪いことではないだろうし、正直私も私の友だちもよくしている。

 でも、逃げずに挑戦するところがかっこいいと思った。

 彼の意外な一面を知り、私は前よりも彼のことが気になるようになった。

 でも、この頃の私は〝運命〟に幸せなもの以外にもあると、知らなかったのだった。

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