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last update تاريخ النشر: 2025-11-07 11:33:17

 守ってあげたい。彼女を傷つける全てのものから。

 元夫の男はケリをつけた。もうつきまといの心配はない。

 だが今は、仕事上のトラブルが彼女を痛めつけている。

 グラン・レジスの佐藤は、いずれ徹底的に追い落とす必要があるだろう。夏帆さんに恨みを残したまま、野放しにするのは危険だ。

 でも、今は――。

 わずらわしい全てを忘れて、僕と2人きりで過ごしてほしかった。

 柔らかい笑みを見せる彼女に、僕の心は明るくなった。まるでたくさんの花が咲いたようだ。

 近くに彼女がいて、とうとう我慢できずに触れてしまった。

 抱きしめ返してもらった時は、どれほど嬉しかったことか。

 あの夜以来の体温に、つい気が逸った。

 もう一度彼女を感じたくて、キスをしようとして。

 拒まれてしまった。

 ショックでなかったと言えば嘘になる。

 でもそれ以上に、彼女の心がまだ傷ついているのだと実感した。

 彼女が欲しい。心から求めている。

 だ
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  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   201:約束の帰路

     旅の最後の一日は、船の上でゆっくりと過ぎていった。  午前中は、キッズルームで最後の時間を楽しむ帆波に付き添う。午後は、三人でプールサイドのデッキチェアに座って、ジェラートを食べた。帆波はアテネで買ってもらった、女神の絵が描かれた小さなブレスレットを、何度も得意げに私に見せてくれた。 その夜私たちは、船で最も格式の高いメインダイニングで、ドレスアップして最後の夕食を楽しんだ。「今回の旅で、一番美味しかったものは、何だったかな」 湊さんが尋ねると、帆波は元気いっぱいに手を挙げる。「いちごの、じぇらーと!」 ローマで食べたジェラートのことだろう。私たちは顔を見合わせて、笑った。「楽しかった旅に、乾杯」「かんぱーい!」 旅の思い出を語り合いながら、湊さんと私はワインで乾杯する。帆波も子供用のドレスを着て、少しだけお姉さんになった気分で、ジュースの入ったグラスを得意げに掲げていた。 ◇  翌日。ローマの港に帰港して、私たちは船を降りた。「おふね、ばいばーい」 帆波が名残惜しそうに、巨大な船に何度も手を振っている。  空港へ移動し、日本への帰国便に搭乗する。帆波は離陸するとすぐに、自分の小さなベッドですーすーと深い寝息を立て始めた。遊び疲れていたのだろう。  湊さんは娘の寝顔を、愛おしそうに見つめている。 機内が暗くなり、静かな時間が流れる。私は湊さんのタブレットを借りて、この旅のたくさんの写真を見返していた。  シチリアの砂浜で、帆波と手をつないで波を追いかける私。バルセロナの公園で、チュロスを頬張りながら笑う湊さん。アテネの丘で、眠る娘を抱く夫の隣で夕日を見つめる私。 写真の中にいる私は、どれも屈託もない笑顔を浮かべていた。過去の傷や不安の影は、どこにもない。  この旅が私の中に残っていた最後の小さな氷を、完全に溶かしてくれたのだ。 ◇  日本に到着し、懐かしい我が家に戻る。リビングのソファに座れば、旅の疲

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   200

    「人間の目の錯覚を、全て計算し尽くしているの。どこから見ても完璧な調和と、安定した美しさが感じられるように。何千年も前にこれだけの数学と美に対する執念が、ここに存在していたなんて」 ただの美しい遺跡ではない。神々に捧げるために、当時の人々が持てる技術と知恵の全てを注ぎ込んで作り上げた、美の結晶なのだ。 時を超えたデザイナーたちの魂の叫びのようなものが、私の胸に響いていた。「おしろ、きいろいねぇ!」 湊さんの肩車の上で、帆波が楽しそうな声を上げる。湊さんは娘の小さな足を支えながら、私に微笑みかけた。「そうだね、帆波ちゃん。お日様の光で、金色に光ってるんだ」 空はオレンジから赤へ、そして深い紫へと、刻一刻とその色を変えていく。 この神殿は遺跡になる前から、そして現代のこの姿になっても、ずっと変わらず日差しを浴び続けてきたのだろう。 私たちは悠久の時を刻む神殿と、沈みゆく夕日が織りなす美しい光景を見つめていた。◇ 最後の茜色が西の空から完全に消え去ると、辺りはは深い藍色に包まれた。眼下に広がるアテネの街に、ぽつりぽつりと温かい光が灯り始める。 周囲で聞こえていた様々な国の言葉のざわめきが、いつの間にか遠のいていく。昼間の喧騒が嘘のように、丘の上には静かな夜の空気が満ちていた。 静寂の訪れを合図にしたように、目の前のパルテノン神殿が、ふわりと柔らかな光に照らし出された。「……あ」 黄金色ではなく、月光のような穏やかで荘厳な光。ライトアップの光は、大理石の柱の風雪に削られた傷の一つひとつを、優しく浮かび上がらせている。 湊さんは眠ってしまった帆波を、起こさないように慎重に自分の胸に抱き直した。空いた方の腕で私の肩を抱き寄せる。 私は彼の胸に頭を預けた。規則正しい心臓の音が耳元で聞こえる。「最高の旅だったね」 湊さんがささやいた。私は微笑む。「ええ、本当に。ありがとう、湊さん。私と帆波に、こんなに素敵な世界を見せてくれて」

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   199:アテネの夕暮れ

     旅の最後の寄港地は、ギリシャのアテネだった。  朝、私が目を覚ますと、船はすでにアテネの外港であるピレウス港に停泊していた。 バルコニーに出る。これまでの西ヨーロッパの港とは違う、少し乾いた歴史の匂いがする空気が肌を撫でた。眼下には白い建物が並ぶ、広大な港湾都市の姿が広がっていた。「ママ、みて! やまのうえに、おしろ!」 帆波が遠くの丘の上に見える、小さな白い点を指差した。アクロポリスの神殿だ。「本当だ。きれいね」 バルコニーですでにコーヒーを飲んでいた湊さんが、私の肩を抱き寄せる。「いよいよ、最後の寄港地だね。今日は、この旅の締めくくりに、一番美しいものを見に行こう」 彼は帆波に向かって微笑んだ。「そうだよ、帆波ちゃん。あれは大昔の、神様たちのお城なんだ」 ◇  その日の午後、市内観光を終えて。日が傾き始めた頃、私たちはアクロポリスの麓にいた。  オリーブの木々が生える、乾いた岩肌の坂道。帆波は、最初こそ元気いっぱいにその坂を駆け上がろうとしていたが、すぐに疲れてしまったらしい。「パパ、だっこ!」 湊さんに向かって、小さな両手を広げる。「はいはい、お姫様」 湊さんは慣れた様子で、娘を軽々と肩車した。急に視界が高くなった帆波は、ご機嫌な声を上げる。  私は夫と娘の微笑ましいやり取りを、少し後ろから見守りる。数千年の歴史が刻まれた、神聖な丘をゆっくりと登っていった。◇  最後の坂道を登り切り、視界が開けた瞬間。私は思わず息をのんだ。  眼下に広がる白壁のアテネの街並み。その向こうに沈んでいく、巨大な夕日。  その最後の光を一身に浴びて、パルテノン神殿が丘の頂上に佇んでいた。  何千年もの風雪に耐えてきた、巨大な大理石の柱。その一本一本が夕日を受けて、燃えるような黄金色に輝いている。「……すごい」 私の口から感嘆のため息が漏れる。  

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   198

    「帆波!」「帆波ちゃん!」 私と湊さんの叫び声が路地に響く。心臓が凍ってしまったように、一瞬止まった。  すぐに角を曲がるが、その先の路地にはもう娘の姿はない。そして道はさらに二手に分かれている。どこへ行ったのか、全く分からない。 私は湊さんの顔を見た。彼の顔は蒼白で、瞳には一瞬、あの山荘での理性を失った時の光がよぎったように見えた。だが彼は固く拳を握りしめると、その感情を必死に抑え込んだ。「落ち着いて、夏帆さん」 彼の声はわずかに震えていたが、冷静だった。「あの子の足では、遠くへは行けないはずだ。僕は左を、君は右を探そう。名前を呼びながら」 私が右の路地へ駆けだそうとした時。  どこからか美しいバイオリンの音色が、壁に反響しながら聞こえてきた。「あれは……?」 私と湊さんは顔を見合わる。その音のする方へと向かった。路地を抜けると、そこは陽光が降り注ぐごく小さな広場だった。  広場の真ん中で、若い大道芸人がバイオリンを弾いている。彼の目の前で、帆波がぽつんと一人、立っていた。彼女は蝶のことなどすっかり忘れて、夢中になってバイオリンの美しい音色に聴き入っていたのだ。 全身から力が抜けていく。  湊さんが娘のそばへ歩み寄り、小さな体を力いっぱい抱きしめた。「パパ?」 帆波は急に現れた父親を不思議そうに見ている。  湊さんはしばらくの間、娘の髪に顔をうずめていた。やがて顔を上げた彼の目には、涙が浮かんでいた。 バイオリン弾きがイタリア語で何事か言った。  湊さんは頷いて、「グラッツェ」と返す。お礼の言葉だ。「彼、なんて言ったの?」「小さな子が一人で歩いていたから、音楽を聞かせて引き止めていたそうだ。親が迎えに来るはずだからと」「そうだったの……」 私たちはバイオリン弾きに心からの礼を言うと、その広場を後にした。湊さんはもう、帆波を腕から降ろそうとはしない。 その日の昼食は、ジェノバの郷土料理であるトロフィエ・アル

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   197:ジェノバの迷路

     翌朝、私が目を覚ますと、これまでとは違う船の静かな振動と、港の喧騒が混じり合った独特のざわめきが聞こえてきた。船はすでにジェノバの港に停泊していた。「ママ、パパ! みて!」 バルコニーから、帆波の興奮した声が聞こえる。私と湊さんが向かうと、彼女はガラスの手すりに小さな手をかけて、夢中で外の景色を指差していた。  眼下に広がるのは、これまで見てきたリゾート地の港とは全く違う風景。巨大なクレーンやコンテナが並ぶ、活気に満ちた働く港の姿だった。 港のすぐ背後には、急な丘の斜面が迫っていた。  その斜面には、オレンジや黄土色の背の高い建物が、隙間なくびっしりと立ち並んでいる。  それらは折り重なって、一つの巨大な壁を形成しているようにも見えた。 建物の隙間からは、迷路のような暗い路地が見える。路地は毛細血管のように、街の奥へと続いていた。  シチリアの陽気さともマルタの荘厳さとも違う。荒々しく力強い、海洋国家の歴史を感じさせる圧巻の光景だった。「すごいわね。なんだか、建物がお互いに寄りかかり合っているみたい」 私が言うと、隣で景色を眺めていた湊さんが教えてくれた。「ジェノバは、かつてヴェネツィアと覇を競った、偉大な海洋共和国だったんだ。あの丘の中腹に見える、密集したエリアが旧市街だよ。『カルッジ』と呼ばれる、迷路のような細い路地で有名なんだ」「歩いてみたいわ」 私のデザイナーとしての好奇心がうずいた。「ベビーカーは難しいかもしれないけど、帆波ちゃんが疲れたら、僕が抱っこすればいい。行ってみようか」 彼はすぐに賛成してくれた。 ◇ 私たちは迷路のような路地へと、足を踏み入れた。  道幅は二メートルもないかもしれない。両側から色褪せた壁の高い建物が、空を覆い隠すように迫ってくる。頭上には住人たちのものだろうか、洗濯物が万国旗のようにはためいていた。「帆波、パパとママの手をしっかり握っていてね」「はーい」 帆波は、私と湊さんの間に挟まれ、二人としっか

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   196

     一人になった私は、部屋のプライベートバルコニーのデッキチェアに座る。スケッチブックを広げた。  目の前に広がる、雄大な海の景色。水平線の彼方まで続く深い青。  仕事のデザイン画ではない。この幸福な一瞬を記録するために、自由に線を引いた。 しばらくして、帆波を預けてきた湊さんが戻ってきた。手には白ワインの瓶を持っている。グラスを二つ取り出し、ワインを注いで私の隣に座った。  私はワイングラスを手に取る。午前中からお酒だなんて、とっても優雅。「キッズクラブはどうだった?」「すごく楽しそうだったよ。最初は少しだけ、人見知りしていたけどね。すぐに他の国の子たちと、言葉も通じないのにぬいぐるみで遊び始めた。子供はすごいね」「そっか。よかったわ」 私は白ワインのグラスを片手に、昨日の感動を湊さんに語った。「昨日のサグラダ・ファミリア、本当にすごかったわね……。特に、あの光の入り方。まるで森の中にいるみたいだった。石であんな有機的な空間が作れるなんて、今でも信じられない」「君があんなに夢中になっている顔を、初めて見たかもしれない。君のデザインにも、何か新しいインスピレーションを与えたんじゃないかい?」 湊さんは私の仕事の話を、心から楽しそうに聞いてくれる。「ええ、たくさん。……そういえば、今朝、帆波が面白いことを言うのよ」 私はくすくすと笑った。「『とかげしゃん、またあいたい!』って。グエル公園のトカゲが、すっかりお気に入りみたい」「トカゲのぬいぐるみも、とても気に入っていたよね。じゃあ次の寄港地でも、トカゲを探さないといけないな。……いや、いないか」 湊さんが本気で困ったような顔をするので、私たちは二人で声を上げて笑った。  仕事の話も子供の話も、こんなふうに笑いながら話せる。それがどれだけ幸せなことか。私はグラスを傾けながら、満ち足りた時間を味わっていた。 ◇  ふと沈黙が落ちる。潮騒が静かに響く中、私は湊さんの肩に頭を預けた。「こんな日が来るな

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   139

     時折、私は見えない壁の厚さを試すことがあった。 その日、私は庭に面したサンルームの椅子に座っていた。近くでは中年の使用人の女性が、丁寧な手つきでバラの手入れをしている。私は自然体を装って、彼女に話しかけた。「いいお天気ですね。……ところで、今日は、何月何日だったかしら」 使用人は、にこやかに顔を上げた。「はい、奥様。空気が澄んでいて、遠くの山までよく見えますね」 彼女は私の質問の後半部分だけを、器用に切り落として答えた。私はもう一度、今度ははっきりと尋ねる。「ええ

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   136

    「さあ、食事を済ませてしまいましょう。食べられるだけで大丈夫ですよ。少しずつ食べて、体に力をつけないと」 お腹の子のためでもあるしね。  子供のことは、どうも彼女は気づいていないようだ。であれば、伝えるのはもう少し落ち着いてからにしよう。 僕は食事のトレイをベッドのサイドボードに置いて、おかゆのお椀とスプーンを持ち上げた。「はい、あーんして?」「え、あの。自分で食べられます」 夏帆さんが戸惑っている。「あなたは重傷ですから。起きているのも辛いでしょう? 今は甘えて、怪我を良くするこ

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   135

     その日の午後、僕は離れの書斎で、どうしても外せない海外の役員とのビデオ会議に臨んでいた。画面の向こうで交わされる無機質な数字のやり取りに意識を集中させながらも、僕の神経の半分は、夏帆さんが眠る母屋の寝室へと向いていた。 その時。手元の端末が着信を告げた。看護師長からの短いメッセージ。『相沢様、お目覚めです』。(良かった……!) その文字列を見た瞬間、僕の心臓が大きく跳ねた。安堵と喜びが一気に胸に広がる。 目の前のくだらない会議を放り出して駆けつけたかったが、思い直す。彼女は責任感の強い人だ。僕が仕事を放置したと知れば、軽蔑

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   134

    「シェフ。食事は、胎児の成長段階に合わせた、完全オーガニックのメニューを。塩分は0.1グラム単位で管理し、全ての食材の産地証明を提出すること」「かしこまりました」 シェフが頭を下げる。「それから、看護師と使用人。彼女を刺激するような外部の情報は、一切遮断するように。テレビも新聞も、インターネットも。彼女の質問には、当たり障りなく答えるだけでいい。ただし彼女の表情や言葉の変化は、些細なことでも全て記録し、僕に報告してくれ」「はい、黒瀬様」 ここにいる人間は、全員が昔から黒瀬家に仕えてくれている者ばかりだ。

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