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last update Last Updated: 2025-11-07 11:33:17

 守ってあげたい。彼女を傷つける全てのものから。

 元夫の男はケリをつけた。もうつきまといの心配はない。

 だが今は、仕事上のトラブルが彼女を痛めつけている。

 グラン・レジスの佐藤は、いずれ徹底的に追い落とす必要があるだろう。夏帆さんに恨みを残したまま、野放しにするのは危険だ。

 でも、今は――。

 わずらわしい全てを忘れて、僕と2人きりで過ごしてほしかった。

 柔らかい笑みを見せる彼女に、僕の心は明るくなった。まるでたくさんの花が咲いたようだ。

 近くに彼女がいて、とうとう我慢できずに触れてしまった。

 抱きしめ返してもらった時は、どれほど嬉しかったことか。

 あの夜以来の体温に、つい気が逸った。

 もう一度彼女を感じたくて、キスをしようとして。

 拒まれてしまった。

 ショックでなかったと言えば嘘になる。

 でもそれ以上に、彼女の心がまだ傷ついているのだと実感した。

 彼女が欲しい。心から求めている。

 だが、傷つけるのはだめだ。

 もっと慎重に、彼女の気持ちが癒えるのを待ちながら、その時には決して逃げられないように。外堀を埋めて、逃げ道を塞いで、罠を張り巡らせておこう。

 そうして最後には必ず、彼女の全てを手に入れる。

「夏帆さん。待っていてくださいね。僕は必ず、あなたを振り向かせてみせる」

 僕と彼女を隔てる一枚のドアが、今は恨めしい。

 でも焦りは禁物だ。

 じっくりと囲い込んでいこう。

 テーブルに置いたままになっていた、ワイングラスを傾ける。

 暖炉の明かりを眺めながら、僕は彼女の心を手に入れるための計画を練っていた。

【夏帆視点】

 3日間の夢のような休日が終わった。

 東京へと向かう帰りの車の中、私は窓の外を流れる景色を、ただ黙って見つめていた。

 別荘を出て海沿いの道を離れると、景色は少しずつ見慣れた無機質なものへと変わっていく。

 増えていく車の数、高速道路の標識、灰色のアスフ
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  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   188:シチリアの砂、マルタの蜜

     翌朝、私が目を覚ましたのは、ごくわずかな、ゆりかごのような揺れのせいだった。 一瞬、まだ夢の中にいるのかと思う。だが穏やかでどこまでも続くリズムは、紛れもない現実のもの。都会の喧騒も、車の音も聞こえない。静かな波の音と、船が水を切る微かな音だけが部屋を満たしていた。(そうだった。昨日から、クルーズ船に乗っているんだった) 私はベッドから身を起こして、厚手のカーテンへと歩み寄った。一気に引き開ける。 目に飛び込んできたのは、昨日までのローマとは全く違う鮮やかな光景だった。 突き抜けるような青空。目の前に広がる、深い深い紺碧の海。その海の向こうには、緑豊かな丘の斜面にテラコッタや黄色、白といったカラフルな家々が、まるで宝石箱をひっくり返したように密集して立ち並んでいた。シチリア島、メッシーナの港だ。 眠っている間に私たちは海を渡ったのだ。昨夜見たローマの夜景が、もう遠い昔のことのように思える。全く違う港町で、こうして新しい朝を迎える。船旅ならではの魔法のような体験だった。「ママ、パパ、うみー!」 帆波も目を覚まして、パジャマのままバルコニーへと駆け出していく。「帆波ちゃん、夏帆さん。おはよう」 湊さんはそんな娘を優しく抱き上げると、その小さな頬に朝のキスをした。◇ メッシーナの港に入った日の午前中。湊さんが手配してくれた専用車は、メッシーナの市街地を抜けて海岸沿いの道を走っていた。車窓からはレモンやオリーブの木が茂る丘と、キラキラと輝くイオニア海が見える。 私たちは観光客の喧騒から離れた、小さな入り江に面した砂浜にたどり着いた。 どこまでも続く青い空と、エメラルドグリーンから深い藍色へとグラデーションを描く透き通った海。寄せては返すさざ波の音だけが、静かに響いている。「わあ……! きれいな海」 湊さんと私は靴を脱いで、きめ細かい砂の感触を楽しんだ。秋とはいえ、南国シチリアの気温は高い。砂は温かく、海の水も心地よい。 だが帆波は違った。「ママ。おすな

  • 王子様系御曹司の独占欲に火をつけてしまったようです   187

     その様子を見て、湊さんがくすくすと笑い声を漏らす。「帆波ちゃん、お口の周りが、大変なことになってるよ」 彼は帆波の前に膝をつく。きれいにアイロンのかかったハンカチで、小さな口元を拭ってやる。 私はそんな微笑ましい父と娘の姿から、目が離せなかった。 ローマの強い日差しの下、娘を見下ろす彼の眼差し。父親の顔をした、私の愛する人。 そして私たちの娘である、誰よりも大事な帆波。 私はその一瞬を永遠に残しておきたくて、スマートフォンのカメラを向けて夢中でシャッターを切った。◇ ローマから車で移動し、チビタベッキアの港が近づく。港の建物の向こうに、信じられないほど巨大な真っ白な壁が見え始めた。 それは壁ではなかった。何層にも、何十層にも重なった客室のバルコニー。空へと伸びる巨大な船体。停泊しているというのに、今にも動き出しそうな流線形の美しい船首。 車が港の埠頭に完全に着いた時、私たちはその船のあまりにも巨大な真下にいた。「ママ? おっきい、おうち……」 隣では帆波が、口をぽかんと開けたままその光景に釘付けになっている。「そうね、すごく大きいわね……」 私も頷くしかなかった。ビルというよりは、一つの街がそのまま海に浮かんでいるような印象を受ける。圧倒的なスケールと機能美の集合体である姿に、私はデザイナーとしてではなく、ただ純粋に心を奪われていた。 ここでも湊さんが手配してくれた優先乗船で、私たちは長い列に並ぶことなくスムーズに船内へと進む。専属のバトラーだという品の良い初老の男性が、恭しく私たちを出迎えてくれた。 案内されたのは、最上階にある、特等客室。ドアが開いた瞬間、私は息をのんだ。 広々としたリビングと、独立したベッドルーム。さらには夕日に染まる地中海を見渡せる、プライベートバルコニー。洗練された空間は、まるで海に浮かぶスイートルームそのもの。 リビングのテーブルには、ウェルカムシャンパンと帆波のためのおもちゃが用意されている。バルコ

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