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14品目:魔ココジュース

last update Dernière mise à jour: 2025-04-18 11:00:33

「おいおいエリィ、もう少しそっちへ寄らせてくれよ」

「うるさい。肘から先を失いたくなければ気をつけの姿勢で黙っていろ」

「酷いぜまったく。なあ、新人監督官殿?」

「ううっ、苦しい……」

 ぎゅうぎゅう詰めの檻の中で、エルドリスはできる限りネイヴァンから距離を取ろうとしていた。しかし、狭い空間では限界がある。逆にネイヴァンはこれ幸いとばかりにエルドリスに密着しようとし、そのたびに肘打ちや足蹴りを食らっていた。その流れ弾が僕にも当たる。

 通常、この転送用の檻は、死刑囚一人を島へ送るためのものだ。ゆえに狭い。極端に狭い。なのに今、この中には僕、エルドリス、ネイヴァンの三人が詰め込まれている。身動きはほとんど取れない。僕はエルドリスの肩に頭を押し付けられ、ネイヴァンの膝に挟まれたまま、完全に潰されそうになっていた。三人の中で一番背が低い僕にとって、この圧迫は地獄そのものだ。

「うっ……死んじゃう……」

「ネイヴァン・ルーガス。私に膝を当てるな、気色悪い。脚まで切り落とされたいか」

「エェェリィィ……俺は今、最高に傷ついてるぜぇ?」

 こんな状態で、本当に転移できるのだろうか。

「準備はいいか」

 檻の前に立った上官の声が響く。いいわけがない。

「転送開始!」

 合図とともに、檻の周囲に魔法陣が展開し、光が視界を満たした。

 次の瞬間、僕たちは檻ごと別の場所へと投げ出された。

 転移の衝撃で、体がぐちゃっと潰されそうになる。視界がぐるぐる回り、気づけば僕は檻から転がり出て、黒い砂の広がる砂浜に転がっていた。

「うっ……」

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     撮影が終わると、ネイヴァンは転移魔法で帝都へと帰っていった。 午前十一時。十二時のランチタイム開始まで、あと一時間。「イオルク、冷凍室から牛のヒレ肉を取ってきてくれないか」 食材の準備をしていたエルドリスに頼まれる。僕は別に『エルネット』の調理助手《アシスタント》ではないのだが、土曜日で時間もあるし、断る理由もないので手伝うことにする。 キッチンの隅には、鈍い光沢を放つ金属製のドアがある。以前にネイヴァンとこの店に不法侵入したときには、施錠されていて開かなかった。それをこじ開けようとするネイヴァンを慌てて止めたのも、今ではいい思い出だ。エルドリスには言えないが。 今は開錠されているドアを開けて、地下へと続く階段を下りていく。あの不気味な館と同じで、このレストランも魔導冷凍庫とは別に、長期保存用の冷凍室を地下に持っているという。 最下部へたどり着くと、また金属製のドアがある。それを開けた途端、氷点下の冷気が一気に流れ出てくる。 僕はヒレ肉を探して棚の間を歩いた。 あっ、と思った時にはもう、床に流れ出た水が凍っているのを踏んでいた。つるりと滑って近くの棚にぶち当たる。 ガタンッ、ガタタ「あいっ……たた」 ドサッ 棚の最上部から革袋が落ちてきた。重い音がしたが、中身は何だろうか。 卵や瓶など、割れモノだったら大変だ。 中身の無事を確かめるべく、僕は革袋を覗く。 言葉を失った。 それは――若い男の生首だった。苦悶の表情を浮かべたままカチカチに凍っている。「何をしている」 

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