黒薔薇の魔女~さよなら皆さん。今宵、私はここを出て行きます

黒薔薇の魔女~さよなら皆さん。今宵、私はここを出て行きます

last updateLast Updated : 2025-12-08
By:  結城 芙由奈Updated just now
Language: Japanese
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かつてアドラー城に住んでいた伯爵令嬢フィーネは、裏切りと陰謀によって魔女へと堕ちた。 愛する者に刺され、家族を奪われた彼女は、狼と骸骨を従えて復讐の宴を始める。 しかし、復讐の果てに待っていたのは、愛と贖罪、そして塵となって消える運命だった――

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Chapter 1

プロローグ 

かつてこの地には、魔女の炎に焼き尽くされた城があった。

その名はアドラー城。伯爵令嬢フィーネ・アドラーは、裏切りと陰謀によって魔女へと堕ち、復讐の宴を始めた――

****

 ここは私の部屋。

そして今日も私は叔母と1つ年下の従妹のヘルマに大切な物を奪われる……。

「やめて下さいっ! それは私のお母様の形見のネックレスなんです! どうかお願いです! 返して下さい!」

私は必死になって叔母であるバルバラ夫人に懇願した。

「あらまぁ……何て素敵なネックレスなのかしら」

バルバラ夫人はお母様の形見のネックレスを手に取り、うっとりした眼つきで眺めている。

「あら、このドレス素敵じゃない。私に似合いそうだわ」

一方、従妹であるヘルマは私のクローゼットから勝手にドレスを持ちだして、自分の身体にあてている。そのドレスは生前お父様が最後に買ってくれたお気に入りの青いドレスだった。

「あっ! それはお父様が買って下さった最後のドレスなんです! お願い! 返して下さい!」

必死になってヘルマに縋りつく。

「うるさいわね!」

ヘルマは乱暴に私を突き飛ばし、衝撃で床の上に倒れてしまった。

ドサッ!

激しく床に叩きつけられ、一瞬呼吸が止まるのではないかと思う位の激痛が身体を走る。

「ゴホッ!! ゴホッ!!」

激しく咳き込むと、ヘルマが肩をすくめた。

「本当に嫌味な人ねぇ……大げさに痛がったりして」

「ええ、全くだわ。大体そんなに痩せっぽっちでガリガリだから簡単に倒れたりするのよ」

バルバラ夫人が冷たい視線で私を見る。

「お、お願いです……どうかドレスとネックレスを……か、返して下さい……」

痛む身体を無理やり起こし、私は床に頭をこすりつけて懇願した。

「そんなことされてもねぇ……大体貴女はまだ17歳。こんなネックレスを持つのはまだ早すぎるわ。だからこれは貴女が成人年齢に達するまで預かっといてあげるわ」

バルバラ夫人はネックレスを首から下げるとうっとりした眼つきになる。

「それにこのドレスだってフィーネには少しも似合わないわ。大体貴女の両親は2人共金髪碧眼だったのに、貴女はなあに? 黒髪じゃない。似ているのは碧眼なところだけよ。おばさまが浮気して出来た娘じゃないかしら?」

ヘルマは私を軽蔑の目で見た。

「! な、なんて酷いことを言うの? 私は……まぎれもなくお父様とお母様の娘よ」

「どこにそんな証拠があるって言うの? もう貴女の両親は死んでしまったのよ? 調べようがないでしょう?」

バルバラ夫人の言葉に私は顔を上げた。

「ほら、私を見て御覧なさい? おじさまとおばさまと同じ金髪碧眼でしょう? 私の様な人間にこの青いドレスは似合うのよ。貴女みたいにカラスの様な黒髪にはせいぜい地味なドレスがお似合いよ。そうね……。例えば鼠色とか茶色のドレスなんかお似合いじゃないの?」

ヘルマの言葉にバルバラ夫人が笑う。

「オホホホ……確かにそうね。ヘルマ。お前中々良いことを言うじゃないの」

その時。

「失礼いたします。ジークハルト様がお見えになっております」

1人のメイドが部屋を尋ねて来た。

「まぁ! ジークハルト様が!?」

ヘルマの頬が赤く染まる。

「早く、お待たせしてはいけないわ!」

バルバラおばさまがヘルマを急かす。

「待って下さい! ジークハルト様は私の婚約者ですよ!? 何故お2人が彼の元へ行くのですか!?」

私は慌てておばさまのドレスの裾を掴んだ。

「おだまりっ!」

私の言葉にバルバラおばさまが一喝した――

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プロローグ 
かつてこの地には、魔女の炎に焼き尽くされた城があった。その名はアドラー城。伯爵令嬢フィーネ・アドラーは、裏切りと陰謀によって魔女へと堕ち、復讐の宴を始めた――**** ここは私の部屋。そして今日も私は叔母と1つ年下の従妹のヘルマに大切な物を奪われる……。「やめて下さいっ! それは私のお母様の形見のネックレスなんです! どうかお願いです! 返して下さい!」私は必死になって叔母であるバルバラ夫人に懇願した。「あらまぁ……何て素敵なネックレスなのかしら」バルバラ夫人はお母様の形見のネックレスを手に取り、うっとりした眼つきで眺めている。「あら、このドレス素敵じゃない。私に似合いそうだわ」一方、従妹であるヘルマは私のクローゼットから勝手にドレスを持ちだして、自分の身体にあてている。そのドレスは生前お父様が最後に買ってくれたお気に入りの青いドレスだった。「あっ! それはお父様が買って下さった最後のドレスなんです! お願い! 返して下さい!」必死になってヘルマに縋りつく。「うるさいわね!」ヘルマは乱暴に私を突き飛ばし、衝撃で床の上に倒れてしまった。ドサッ!激しく床に叩きつけられ、一瞬呼吸が止まるのではないかと思う位の激痛が身体を走る。「ゴホッ!! ゴホッ!!」激しく咳き込むと、ヘルマが肩をすくめた。「本当に嫌味な人ねぇ……大げさに痛がったりして」「ええ、全くだわ。大体そんなに痩せっぽっちでガリガリだから簡単に倒れたりするのよ」バルバラ夫人が冷たい視線で私を見る。「お、お願いです……どうかドレスとネックレスを……か、返して下さい……」痛む身体を無理やり起こし、私は床に頭をこすりつけて懇願した。「そんなことされてもねぇ……大体貴女はまだ17歳。こんなネックレスを持つのはまだ早すぎるわ。だからこれは貴女が成人年齢に達するまで預かっといてあげるわ」バルバラ夫人はネックレスを首から下げるとうっとりした眼つきになる。「それにこのドレスだってフィーネには少しも似合わないわ。大体貴女の両親は2人共金髪碧眼だったのに、貴女はなあに? 黒髪じゃない。似ているのは碧眼なところだけよ。おばさまが浮気して出来た娘じゃないかしら?」ヘルマは私を軽蔑の目で見た。「! な、なんて酷いことを言うの? 私は……まぎれもなくお父様とお母様の娘よ」「どこにそん
last updateLast Updated : 2025-10-24
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1 奪われる日々
「その手をお離し!」バルバラ夫人はまるで汚いものにでも触れられたかのように私の手を払いのけた。「いい? 私たちは両親を馬車の事故で亡くし、身寄りを失ってしまった貴女の面倒を見る為にこの城に住んであげているのよ? 面倒を見て貰っている身分でつけあがるものではありません! それにジークハルト様は貴女の両親が生前に決めた婚約者。けれど今はその約束は反故されたも同然なのよ! 何しろもう亡くなってしまったのだからね?」「そうよ、ジークハルト様とは家同士の政略結婚の相手なのでしょう? 私の両親は貴女の後見人であり、同じアドラー家を名乗る者同士なのよ? だったらジークハルト様の婚約相手は貴女じゃ無くたって構わないわけじゃないの!」ヘルマはとんでもないことを言ってきた。「そ、そんな……私とジークハルト様は愛し合って……」「何が愛し合ってよ。ジークハルト様は私に言ったわ。フィーネの様な黒髪女は見ていると気がめいって来る。やっぱり私の様な金髪の女性がいいっておっしゃってたわ」「う、嘘よ……そんな話……」声を震わせながらヘルマを見上げた。しかし、もうバルバラ夫人もヘルマも私を相手にもしない。「ヘルマ。ほら、こんなところで余計な時間を使っている場合じゃないわよ」「ええ、そうね。お母さま。ジークハルト様をお待たせしてはいけないわ」そして2人は足早に私の部屋を去っていく。お母さまの形見のネックレスとお父様からの最後のプレゼントの青いドレスを奪って……。「待って下さい! 返して!」後を追おうと慌てて立ち上がった時、右足に激痛が走る。「うっ!」あまりの痛みに立つことが出来ない。そっと足首の様子を見ると赤く腫れている。「突き飛ばされた時……怪我をしてしまったのだわ……」ぽつりと呟き、今度は涙がハラハラと流れ落ちてくる。お父様……お母様……どうして私を置いて死んでしまったの? こんなことなら私もあの日、馬車に乗っていれば良かった。そうすれば家族3人で一緒に死ぬことが出来たのに。今の生活は私にとって、はっきり言って地獄だ。持っている物を全て奪われ、私に親切にしてくれた使用人たちは全て辞めさせられた。今は叔父夫婦と従妹のヘルマの言う事を聞く使用人しか残されていない。そして私と同い年の婚約者であるジークハルト・ローゼンミュラー。その彼すら、私は奪われようとしている
last updateLast Updated : 2025-10-24
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2 親切なフットマンとの出会い
「お嬢様……大丈夫ですか……?」その時、1人の若者の声が聞こえて顔を上げた。見るとそこには私と左程年齢が変わらないフットマンが立っている。シルバーの髪の毛が特徴的な若者だった。その顔はフットマンにしておくには勿体ない程の美しい顔だちをしている。彼はいきなり私の前にひざまずいてきた。「お怪我……されたのですか?」「え、ええ。貴方は……?」今まで一度も見たことのないフットマンだった。「はい、最近この城にフットマンとして雇われたユリアンと申します」「そう……ユリアンと言うの? 随分みっともないところを見られてしまったわね」ゴシゴシと涙を手の甲で拭った。「いえ。そんなことはありません。バルバラ様とヘルマ様は余りに酷すぎます」その言葉にドキリとした。「ユリアン……ひょっとして……見ていたの?」するとユリアンは顔を赤らめる。「も、申し訳ございません。盗み見するつもりはありませんでした。フィーネ様のお部屋の前を通りかかった時に騒ぎが聞こえたものですから……」「そう……恥ずかしい姿を見せてしまったようね」自嘲気味にフッと笑うと、突然ユリアンが床に頭をすりつけて謝ってきた。「申し訳ございません!」「え? 何を謝るの? 顔を上げて」「いいえ、出来ません。私はフィーネ様がバルバラ様とヘルマ様に大切にしていた思い出の品を奪われるのを黙って見ていることしか出来ませんでした! お止めすることが出来ず……本当に申し訳ございません!」「いいのよ、止められないのは当然よ。だって貴方はこの城に雇われている使用人なのだから。仕方ないことよ」「ですが……」「その言葉だけで十分よ。それよりもあまり私に関わらない方がいいわ。私に親切にするとあの人たちに目を付けられて早々にクビにされてしまうかもしれないから」しかし、ユリアンは首を振った。「いいえ、そんなことは出来ません。第一フィーネ様はか弱い女性ではありませんか。それで……申し訳ございません。恥ずかしいかも知れませんが……右足を見せていただけますか? お怪我をされたのですよね?」「え、ええ……。それじゃ一つお願いしてもいいかしら? 救急箱を医務室から持ってきてくれる? 自分で手当てするから」「いいえ、その必要はございません。フィーネ様。少しだけ……失礼いたしますね」ユリアンは私の右足にそっと触れてきた。「
last updateLast Updated : 2025-10-24
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3 見下す使用人
 ユリアンに怪我を治して貰ったお陰で歩けるようになった私は急いでジークハルトの所へ向かった。彼は私の婚約者。10年前に婚約した時からずっと愛してきた男性。その人まで奪われるわけにはいかない。サロンを目指して長い廊下を走る私に軽蔑の目を向ける使用人達。彼らは全て叔父様がじかに雇った使用人達で、採用される際に私のことは最低限の世話だけするように署名させられた上で雇われている。だから彼らは私の世話など殆どしない。するのは掃除と洗濯程度であった。「見ろ、またフィーネ様が廊下を走っているぞ」「伯爵令嬢ともあろう方がするようなことじゃないわね」「あの黒髪……まるで魔女の様だな」「本当、ヘルマ様とは大違い」彼等が私をあざ笑る姿などもう見飽きた。けれど次に飛び込んできた台詞だけは聞き捨てならなかった。「やはり婚外子という噂は本当だったのだな」「!」私は足を止めて声が聞こえた方向を見た。するとそこにはこちらを見てニヤニヤ笑っている赤毛のフットマンが立っている。「ちょっと、こっち見てるわよ。謝ったほうがいいんじゃないの?」隣に立つメイドが赤毛のフットマンに声をかけているが、その内容でさえ筒抜けだ。「放っておけばいいさ。どうせ何も力が無い人間なんだから」明らかに見下したその態度。「そこの赤毛の人、名前は何と言うの?」足を止めて、赤毛の男を見た。「……」声をかけるも、男は完全に私を無視している。「聞こえなかったの? 名を名乗りなさい」「あ~うるさい人だ。お~い、仕事に戻ろうぜ」赤毛男は背中を向けると他の使用人達を連れて立ち去っていく。「……」そんな彼らが立ち去っていく様を黙って見ているしかなかったが……すぐに我に返った。「いけない! 急がなくちゃ!」ジークハルト様の元へ行かなければ!そして私は再び走り始めた――**** 明るい日差しが差し込む大きなテラスが付いている広い部屋。窓から見えるのは美しい庭園と揺れる木々。そこがアドラー家のサロンだった。「や、やっと着いたわ……」ハアハアと息を切らしながら私はサロンの前に立った。私の部屋は叔父家族がやってきてからは離れに無理やり移されてしまった。その為本館とはかなりかけ離れた場所にある為、ここへ来るまでに5分以上かかってしまった。ドアノブに手を掛けようとすると、部屋の中から楽し気
last updateLast Updated : 2025-10-24
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4 サロンでの会話
「ジークハルト様!」「フィーネ!?」驚いてこちらを振り向くジークハルト。「あ、貴女! 何ですか!? ノックもせずに部屋に入ってくるなんて……! 失礼だと思わないのですか!?」バルバラ夫人は私を見て真っ赤な顔をして震えている。一方のヘルマは流石にまずいことを言ってしまったのかと思ったのか、俯いている。「叔母様、ヘルマ。私は元気ですし、ジークハルト様に会いたくない等一度も思ったことはありません」部屋に入り、ジークハルトの元へ行くとドレスの裾をつまんで挨拶をした。「お待たせしてごめんなさい。ジークハルト様」するとジークハルトは笑顔で私を見た。「ああ……良かった。最近会えない日々が続いていたから心配していたんだ。何回か君に会いに来たことがあったのだけど、今日は出掛けているとか、家庭教師が来ている日だからと言われてタイミングが合わなかったから、代わりに夫人とヘルマ嬢が僕の相手をしてくれていたんだよ。だけど……今日は会えたね」「……え?」その言葉に私は耳を疑った。ジークハルトが私に会いに来ていた? それなのに私の元には知らされていない。まさか……!2人を振り返るも、視線を合わせようとはしない。やはりそうだったんだ……!握りしめる手に力がこもる。叔父家族は私を離れに追いやることで、ジークハルトと私が会うのを遮断しようとしていたのだ。その代わりにヘルマを……!悔しさで俯くと、ジークハルトが心配そうに尋ねてきた。「どうしたんだい? フィーネ。やはり具合が悪いのかい?」「え、ええ! そうよ! ほ、ほら。ジークハルト様もこのように仰って下さっているのですから、貴女はもう部屋に下がった方がよいわよ?」バルバラ夫人が慌てた様に声をかけてくる。「そ、そうよ。ジークハルト様のもてなしなら私達で出来るから!」図々しいヘルマの言葉など耳に入れたくも無かった。「……部屋に下がる? どの部屋に下がれと言うのですか? 離れに追いやられた私の部屋のことですか? それとも以前使用していた自分の部屋に戻してくれるのですか?」顔を上げるとバルバラ夫人を見つめた。「なっ……!」夫人の顔が青ざめる。「え? どういうことなんだい? フィーネ、君は今離れの部屋に住んでいるのかい?」ジークハルトは驚いた様子で私を見た。「はい、そうです。それだけではありません。他にも
last updateLast Updated : 2025-10-25
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5 私と婚約者
「お、覚えてなさい! フィーネッ!」「落ち着きなさい! ジークハルト様がいらしているでしょう!?」背後で私の名を憎々し気に叫ぶヘルマとそれを宥めるバルバラ夫人の声を聞きながら私とジークハルトはサロンを出た。「それじゃ、ガゼボにでも行って話をしないかい?」ジークハルトの提案に私も乗った。「ええ、それがいいわ。あそこなら多分誰にも邪魔されないと思うから」「……? そうかい? なら行こうか」そ私とジークハルトは2人で並んで庭園へ向かった――**** 空は雲一つない青空が広がり、初夏の心地よい風が木々を揺らしている。ジークハルトは庭園にでるとすぐに私に質問してきた。「フィーネ。廊下を歩いている時に気付いたのだけど、何だか使用人たちの君に対する態度が妙に感じたんだ」ガゼボに向かって歩きながらジークハルトは私を見た。「そう……やっぱり分った? 半年前に両親が馬車の事故で亡くなって、叔父家族がこの城に住み始めてからは今までここで勤めていた使用人たちの総入れ替えが行われたのよ」「何だって? どうしてそんなことを……?」「それは叔父家族が私をこの屋敷から孤立させる為よ。私から味方を全員奪いたかったのでしょうね……」「でも確かに言われてみれば使用人の顔ぶれ……1人も見たことが無かったな……」「それに使用人の半分は叔父家族の屋敷で働いていた使用人達なのよ。だからもとより彼らは全員叔父家族の味方なのよ」「それにしても酷い話じゃないか? この屋敷の正当な後継者はフィーネ、君なのに……離れで暮らしているなんて。それじゃ以前本館で使っていた君の部屋は今どうなってるんだい?」その時、丁度ガゼボに到着した。「まずは座ってから説明するわ」「そうだね」2人でガゼボに入り、隣同士に座ると話の続きをすることにした。「私の部屋は今、ヘルマが使っているのよ。それにお父様の執務室は叔父に、お母様の部屋は叔母に占拠されてしまったわ……。もう私は自由に出入りすることが出来なくなってしまったのよ……」「フィーネ……。可哀相に……」ジークハルトがそっと私の肩を抱き寄せた。「それだけじゃないわ。私には面倒を見てくれる専属メイドが1人もいなくなってしまったの。洗濯と掃除はかろうじて面倒見て貰っているけれども、着替えや、お茶の支度は一切見て貰えないから自分で洗濯室へ行って洗
last updateLast Updated : 2025-10-26
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6 私に対する仕打ち
「話は良く分かったよ。それじゃそろそろ僕は帰るよ」ジークハルトは立ち上がった。「え? もう帰ってしまうの?」「うん。実はこれから父と一緒に領地に視察に行かなければならない用事が入っていたんだよ」「え? そうだったの?」そんな忙しい時間を割いて来てくれたなんて……。「最近フィーネと会えない日が続いていたから心配で来てみたんだ。でも良かったよ。こうしてフィーネに会えたし、あの人達からどんな仕打ちを受けているか分かったからね」「ジークハルト様……」「もう時間も無いから今日はこのまま帰るよ。愛しているよ、フィーネ。だから……もう少し辛抱してくれるね?」「ジークハルト様……」そして私達はガゼボの中でキスを交わした――**** 城の外までジークハルトを見送り、離れの塔にある自分の部屋に戻ろうと足を向けた時――「フィーネッ!」背後から鋭い声を投げかけられた。振り向くとそこに立っていたのはヘルマだった。彼女は3人の忠実なメイドを引き連れている。「何?」「貴女……私達のことをジークハルト様に訴えたでしょう!?」「まさか……盗み見していたの?」なんて嫌な女なのだろう。「盗み見? 人聞きの人聞きの悪いこと言わないでよ! 後をつけただけよ! そうしたら2人がガゼボで話している声が聞こえたのよ。フィーネ……あんた散々好き勝手なこと言ってくれていたわね? そもそも私達は両親を亡くした可愛そうなあんたの為にこの城にやってきてあげたのよ!? それをまるで盗人呼ばわりして! なんていやな女なの! しかも男を誘惑して……このアバズレ女!」ヘルマは自分が盗み聞きしたことを棚に上げて勝手な言い分で私を罵倒してきた。「事実を言っただけでしょう!? それに私とジークハルト様は子供の頃からの婚約者で、お互いに愛し合っているのよ! アバズレなんて言われる筋合いは……!」そこまで言いかけた時……。パーンッ!!乾いた音が響き渡り、気づけば私の左頬がジンジンと熱い痛みを伴っていた。そして眼前には右手を振り上げ、睨みつけているヘルマの姿。自分が叩かれたことに気付くのに数秒かかった。「な、何するの!? 人の頬を叩くなんて……キャアッ! やめて!」いきなりメイドが2人がかりで私の左右の腕を掴んできたのだ。そして残りの1人が私の両足をつかみ、持ち上げた。「やめて! 離して
last updateLast Updated : 2025-10-27
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7 閉じ込められた私
 どの位意識を失っていたのだろうか――「う……」ゆっくり目を開けると冷たい床の上に倒れていた。頭を押さえながら身体を起こし、周囲を見渡した。そこは薄暗い部屋で天井が見上げる程に高かった。無機質な石の壁は亀裂が所々に走り、年代の古さを感じさせる。部屋の空気はじっとりしており、少しかび臭い匂いが部屋中を満たしている。室内にはマットレスや梯子、埃をかぶったテーブルや椅子等、どう見ても不用品と思えるガラクタばかりが乱雑に置かれている。「かび臭い……それに肌寒いわ……」自分の両肩を抱きしめながらぽつりとつぶやき、外の様子が気になった。「窓の外の景色が見えればいいのに……」窓は私の背丈よりも高い位置にあり、とてもではないが手が届かない。そしてその窓からはオレンジ色の明かりが差し込んでいる。その時になってここがどこなのか記憶が蘇ってきた。「こ、ここは……不気味な倉庫だわ!」恐怖で身体を震わせた。そもそも何故この倉庫が恐れられているかというと、倉庫の建てられた場所が不気味な林の近くだと言うだけが理由では無かった。実はこの倉庫にはその昔、ここで首つり自殺をした貴族の亡者が怨霊となって出没するとの噂まで囁かれていたのだ。それ故、人々は誰もがこの場所に来ることを嫌がっていた。「早く……ここから出なくちゃ!」扉に駆け寄り、冷たいドアノブに触れてガチャガチャ回すが、全く開く気配が無い。「開かない……」恐らく外側から鍵を掛けられたのだ。鍵を掛けた人物達は言うまでもない。あの3人のメイド達に違いない。「今外は夕方……と言うことは恐らくもうすぐ夜になるわ……。そ、そんな……!」夜になると亡者たちが活動すると言われている。私の目に恐怖で涙が滲む。ドンッ!ドンッ!私は必死でドアを叩いた。「お願い! 誰か来て! 助けて! ここを開けてよ!」しかし、ここは誰もが恐れている倉庫。そのうえ、もうすぐ夜になるのだ。助けが来るはずもない。おまけに私は叔父家族だけでなく使用人達からもつまはじきにされている。私のことを気に掛ける人物は誰もいないし、探そうと思う者すらいないだろう。ましてやヘルマやメイド達が私の行方について誰かに口を割ることすら無いだろう。「そ、そんな…!」私は絶望した。きっとこのままではずっとこの倉庫に閉じ込められたままになってしまう。それどころ
last updateLast Updated : 2025-10-28
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8 助けに現れたのは
ホーッ……ホーッ……すぐそばでフクロウの無く声が聞こえてくる。すっかり外は夜になり、窓からは青白い月明かりがぼんやりと倉庫の中を照らしている。「……」疲労と絶望でもう何もする気力が無くなり、扉に寄りかかり床に座り込んでいた。「あれから……どれくらい時間が経過したのかしら……」内心、私はかすかな希望を抱いていた。ひょっとするとヘルマが私の所にやって来るのではないかと。意地悪な笑みを浮かべながら『どう? これで少しは懲りたかしら?』とでも言って扉を開けてくれるのではないかと思ったのに……。どうやら今回私がジークハルトに訴えていたことで相当腹を立てたのかもしれない。そしてきっと叔父夫婦にも私を閉じ込めたと伝えたはずだ。それでもここから出してくれないのは……きっと全員グルなのだろう。「怖い……誰か……ジークハルト様……」再び私の目に恐怖で涙が滲んでくる。それと同時に叔父家族に対して憎しみが湧いてくる。でも駄目……憎しみを抱いては……。私はまだ自分がうんと小さい頃に誰かにずっとそう言い聞かされてきた気がする。誰かに対して強い恨みや憎しみを抱いては駄目なのだと。例えどんな理由があったとしても、決してそのような感情を抱いてはいけない。さもなければとんでもないことになってしまうだろうと……。「だけど……こんな目に遭わされても……私は恨んではいけないの……?」その時。アアアア……まるで地の底から聞こえてくるような苦し気な声がどこからか聞こえてきた。「!!」恐怖で全身に鳥肌が立つ。恐る恐る声が聞こえた方角を振り返った時、私は叫びそうになってしまった。黒い人の形をしたモヤが恐ろしいうめき声を上げながら、こちらへ向かってゆっくりと近付いてきていたのだ。間違いない……! 怨霊だ……!「いやぁ……や、やめて……来ないで…」いっそのこと恐怖で気を失えればいいのに、人という者は真の恐怖を感じると気を失う事が出来ないのかもしれない。アアアア……モヤは段々私の方へ近づき、手を伸ばせば今にも触れそうな距離にまで近付いて来た。「キャアアアアアアアアーッ!」絶叫した時――「フィーネ様!」突然扉が開け放たれ、ユリアンが現れた。「ユリアン!」泣きぬれた顔で彼の名を叫んだ。「フィーネ様! 大丈夫ですか!?」ユリアンは私に駆け寄り、迫ってくる黒
last updateLast Updated : 2025-10-29
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9 おやすみなさい
 離れが見えてくるとユリアンに声をかけた。「ユリアン……降ろして。もう1人で歩けるから」「はい、分かりました」ユリアンは背をかがめて私を背中から降ろした。「もう行って。1人で部屋に戻れるから」「本当に大丈夫ですか?」ユリアンが心配そうに私を見つめる。「え……? 何故そう思うの?」「それは……フィーネ様が震えているからです」「え?」言われてみて今更気がついた。自分の身体が小刻みに震えている。「あ……さ、さっき倉庫で怨霊に襲われかけたから……で、でも貴方が現れてくれて……た、助かった…わ…。ありがとう……」自分の身体を抱きしめ、声を震わせながら何とかお礼を述べた。「いえ……でも怖かったですよね?」ユリアンが気遣うように尋ね、黙ってコクンと頷く。「やはりお部屋まで……」「いいの私に関わった使用人は見つかればクビにされてしまうわ……。だから私に構わないで?」「ですが……!」ユリアンは拳を握りしめた。「身勝手な話かもしれないけれど……私、ユリアンにはここを去って欲しくは無いの。もし私に親切にしている姿を叔父家族に見つかってユリアンがクビにされるのはいやだから……」「フィーネ様……」「大丈夫よ。ほら、話している内に震えも止まったし、離れはすぐそこだから1人で帰れるわ。それで……最後に一つ聞かせてくれる?」「はい、何でしょうか?」「どうして私があそこに捕らえられていると分かったの?」「それはヘルマお嬢様の側使いの3人のメイドに尋ねたからです。するとフィーネ様を倉庫に閉じ込めたことを話したので、急いで助けに参りました」「まぁ、そうだったの。それにしてもよくあの3人が話してくれたわね?」するとユリアンは少しだけ目を伏せると言った。「ええ……。実は白状させるのに少々乱暴な手を使ってしまったものですから」「え!? そんなことをしたの!? それじゃ、叔父家族にユリアンが私に親切にしていることがバレてしまったんじゃないの!?」しかし私の言葉にユリアンは笑みを浮かべる。「大丈夫です。ご心配には及びません」「だけど……」「私の身を案じてくださってありがとうございます。大丈夫です。決してフィーネ様が心配される事態にはなりませんから」ユリアンは妙な自信を持っている。「そう? なら信じるけど……でも、本当にここまでで大丈夫よ?」「
last updateLast Updated : 2025-10-30
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