ログイン「これ、お金、だよね」「人としてアムリアに行くには必要でしょう?」 シャーナはにっこり笑顔。「今の世界で硬貨がどれほど通用するかは分かりません。パンや干し肉の方が有効な場合も多いでしょう。が、ないよりはいいと思います」「ていうか、大丈夫なの、お金を俺に渡して」「はい。原初の神殿に送られたお金です。原初の神殿はシンゴのものなのですから、神殿に捧げられたお金ももちろんシンゴのもの。必要なだけお使いください」 そう言う理屈になるわけか。「分かった。ありがとう」「ブランは連れて行って大丈夫か」 不安そうに鼻を鳴らしていたブランの顔を撫でて、ヤガリが聞いてきた。「大丈夫だと思うが」 レーヴェはチラリとブランに視線を走らせる。「特殊なロバだ、と思わせておいた方がいいだろうな。神が直々に創った神獣だと分かれば、欲しがる者も出る。盗みになる可能性だってある。ブランを盗み出せる者などいないとは思うが、余計な怪我人は増やさない方がいいと思う」 ブランはぶふん、と鼻を鳴らして頷いた。「確かに。ブランは戦闘力も高い。盗み出せる者がいたら聞いて見たいが、土しか食わず荷も運べて強いとなれば、欲しがる人間もいるか」「なるほど、ドワーフのために創られた神獣かね」 サーラはじっくりとブランを見ていた。そして頷く。「しかし、神の力を顕現させたような神威を持つ存在ではない。頑丈なロバで話はつくだろうし、欲しがる者もいるだろうが、命懸けで奪いに来ようとする者はいないな」「ブラン、大丈夫。でもお前は大人しくしてなきゃいけないぞ」 俺がブランの鼻面を撫でてやると、ブランはふしゅう、と鳴いた。 そこで、シャーナがヤガリを誘って立ち上がった。「どうしたの?」「少々お待ちください」 少々待つと、シャーナとヤガリが大荷物……とまでは行かないけど、そこそこの荷物を持って戻ってきた。「これは?」「これまでこの神殿に訪れた方々が残して行ったものです」 トーチ、ランタン、ほくち箱、背負い袋、水袋、毛布、手斧、ナイフ、と言った旅道具だ。 残して行ったわりにはきれいだな、と思って、そう言えばこの神殿丸ごと【再生】したんだった、と思い直す。「これも神殿への捧げ物?」「いや、違うな」 サーラが口を挟んできた。「これはここに辿り着いて生涯を終えた者たちのものだ。そうだな、
「さて、まずどの辺りから行こうか」 神殿にあった古い地図とM端末の自動マッピングを見る。 無窮山脈と言う世界の北の果てのような所まで行ったと思ったけど、まだその北にも何かあるらしく、そこは黒く塗りつぶされている。 まだ世界……中央大陸と呼ばれるらしい……の半分も行ってないので、地図も部分部分しか出ていない。「やっぱり、人の多そうなところから回るのが一番かな」「なれば、アムリア国に向かうのがよろしいかと」 シャーナが提案してきた。「アムリア?」「西にあったヒューマンの王国です。泉の森エルフや無窮山脈のドワーフとも交易を広げて大勢の人間が暮らしていたと父が言っていました」「知ってる?」「ああ」「もちろん」 レーヴェとヤガリが同時に頷いた。「木々や薬で大きな取引があった。当時の王はなかなかのやり手で、エルフとドワーフ両方の交易をしながらどちらにも敵対も味方もしなかった。エルフとドワーフが一触即発にならなかったのも王の力あってのことだ」「おれの生まれる前だからよくは分からないが、いい取引先だったと両親が言っていたのを覚えている。あと、エルフとドワーフが同じ国の中に住んでいるのは奇跡だとも言われていたな」 なるほど、すごい国だったらしい。「今は?」「分からん」 レーヴェの答えは相変わらず素っ気ない。「ドワーフも鉱脈が枯れてからは取引が出来なくなった。だから連絡は取れていない」「人はたくさん住んでたんだね?」「ああ。大陸最大の国と呼ばれていた」「じゃあ、まずはそちらから行こうか」 俺は古い地図を確認した。 原初の神殿の東側に「アムリア」と書かれていて、神殿を挟んでエルフの聖域と無窮山脈とも同じくらいの距離を保っている。つまり、行きやすい国と言うことだ。「街道とかなんかはあった?」「昔……五十年くらい前のことになるが、当然取引がある種族や国々との街道は繋がっていた。ただ、今はどうなっているか分からない。魔物や魔獣があちこちに出てきていると聞く。安全とは思えない」 自在雲は神具だ。俺が新たに自在雲を作らない限りその数は増えない。しかも、生神か神子がいないと使えないのであれば、使えるのはこちらの正体をばらしても仕方がない時だけ。 歩いていくしかない。 魔物や魔獣が出ると言うけど……多分、このメンバーなら大丈夫だろう。「シン
「おれたちの思いも名の呼び方で変わるわけではない。おれたちはシンゴを信頼している。モーメントのために何かをしてくれようとしているシンゴの思いに甘えてはいけないとも思っている。神子の役目は、シンゴのやろうとしていることに手を貸し力を貸して、シンゴの思いに応えることだと思っている」「……ありがとう、ヤガリくん」 ニッとヤガリくんは笑った。 珍しいな、ヤガリくんの笑顔。いつもむすっとしているから。ドワーフは陽気で明るい一族だってイメージがあるのに、ヤガリくんはどちらかと言うと思慮深いと言うか……。「ところで、何故シンゴはヤガリのことをくん付で呼ぶのだ?」 サーラは薄く笑みを浮かべて言った。「え? そりゃあ友達だし……」「そうか、友か」「ああ、友だ。友の契りを交わした親友だ」 ヤガリくんがきっぱり言い切った。「だが、シャーナやレーヴェのことは呼び捨てるではないか。不公平であろ? 同じ神子でおなごであれば」「へ?」「ん?」 俺は妙な声を上げてしまった。 ヤガリくんの方は何をいまさら、と言う感じで。「え。えーと……」 俺は少し考えた。「ヤガリくん、じゃなくて、ヤガリ、さん?」「なんだ、おれを男だと思っていたのか?」 え……え……。 ええーーーーーーーーっ?!「ヤガリくん、女? 女性? ウーマン? フィーメイル?」「そんなに女を連呼するな」 ヤガリく……さんは面倒くさそうに言った。「ご、ごごご、ごめん……」「何がだ?」「いや、女の人だって思ってなくって……」「無理もない」 ヤガリさんは首を竦めた。「おれたちドワーフは傍から見て男女の区別がつかんらしい。第一おれは鉱山の人間で、鉱山に男も女もない。どれだけ働けるかだ」「いや、それでも……」「女だったら友人ではないと?」「い、いやいやいや、そうじゃないけど、男扱いされて嫌じゃなかった?」「むしろ信頼してくれている証だと思っていたが……」 ヤガリさんの声がワントーン下がった。「男ではないおれは、お前の友とはなりえないか?」「それはない」 それだけはきっぱりと言い切れた。「友達に男女の別はない。ただ……俺が今まで男と思い込んでいたから申し訳ないなって思って」「おれは別にそれでも構わなかったぞ? それでお前が相手をしやすいのであれば」「ヤガリくん、て呼んじゃま
俺たちは【転移】ポイントでもある祭壇の間に移動した。 そこで初めてステンドグラスに気付いた。 空に向かい祈る民。そこに降臨する神。 てことはあれか? あれ俺か? 随分イメージ違うぞ? 何かステンドグラスの神様はスタンディングポーズで両手を広げて「待たせた」風になってるけど、実際は空に放り出されて頭から祭壇の間に突っ込んだんだからな?「古い伝承ですわ」 シャーナが苦笑した。もちろん屋根は壊さないまでも突っ込んできた俺を覚えてるんだろう。「この画が示す通り」 サーラはステンドグラスを指した。「生神は人間と世界にとって最後の希望。全てを遍く救う者。故に、尊く厳格でなければならない」「……うん」「で、なんですの? わざわざ神殿まで戻って来てまで、話さなければならないこととは」 祭壇の間に置かれた祈り用の椅子に腰かけ、みんなにも座るように促す。「この先……」 コトラが俺の膝に乗ってきて、その頭を撫でながら、俺は言った。「生神であることを隠して【再生】をしていこうと思う」 俺は無窮山脈の地下神殿でサーラに問われたことを言った。「……確かに」 レーヴェが声を低くした。「エルフはこう思っている。生神はエルフを最初に救ったから、エルフの味方と」「ドワーフもだ。アシヌスを創ってくれた神だと。これからも救いを与えてくれると……だからシンゴがしばらく来ないと言ったら、あそこまで落ち込んだんだ」「ビガスの人々はどうでした?」「……感謝はしていたが、ゴブリン・リーダーを一刀で倒したのを間近で見て、怯えていた」「神を崇めると言う心は人間から失われたのでしょうか……」「それは違うぞ、リザー」 サーラは足を組んで微笑んだ。「生神と人間との距離が近過ぎたんだ。神は離れた場所から自分たちのために力を使ってくれてこそ崇め奉る存在なのだから」「ですが、生神は人の内に在って世界を再生する者と」「神であると名乗って人の内に入り、力を揮えば、話は別だ。命を救われれば感謝もするが、神が傍で自分を気遣っていると何か特をすると思う者もいるし、その力が自分に揮われることを恐れる者もいる」「俺は自分の力で助けられる誰かがいたら助けたい。元の世界でもそう思っていたし、この世界に来た時シャーナに頼まれたから世界を救おうと思った。だけど、それは誰かを特別扱いしたり畏れ
「生神様!」 ドワーフがそこに駆け寄ってきた。「炎水をありがとう! これで無窮山脈も生き返った!」「そう言ってくれると嬉しいよ」「アシヌスと炎水があればドワーフが生きる道は完璧に取り戻された! 感謝する生神様、ドワーフ族はこの恩を永遠に忘れんぞ!」「うん……ああ」 純粋に向けられた感謝の念。 だけど。「しばらく俺、ここに来れないと思う。自分たちだけでやってけるな?」「生神様?」「世界を【再生】しなければならないから」 ドワーフたちは一瞬不安そうな顔をした。だけど。「そ、うだよな、生神様はドワーフ族の為だけにいるんじゃないものな。それに再生したのは森エルフの泉と無窮山脈とビガス……か、それだけでは世界を再生したとか言えないものな」 ドワーフ族は残念そうな顔をして、少し落ち込んだようにも見えたけど、すぐに笑顔に戻った。「生神様が人々を救えば、俺たちの金属を必要とする人間が増える。俺たちもどんどん必要とされるもんな。頑張ってくれ生神様、俺たちも頑張るよ!」「うん。頼む」 そして俺はレーヴェとヤガリくんとコトラとサーラを呼んだ。「一度、原初の神殿に戻る。これから先のことを相談したい」「え?」「あ。ああ」 【帰還】で、俺たちは原初の神殿へと戻った。 きゃあきゃあとはしゃぐ声が聞こえる。 三人の子供が小型のアシヌスに乗って神殿の周りを走り回っているんだ。 その後を灰色猫が追いかけて、アシヌスと猫の大競争。「シンゴ様!」 その様子を見守っていたシャーナが、俺に気付いて振り向く。「随分お早いお帰りですのね。何処か別の場所の再生をすると思っていたのですが」「その前に相談したいことがあって……あ、シャーナ、この人サーラ。……サーラとシャーナって似てるな……まあもうどうしようもないか……とにかく神子のサーラ。サーラ、彼女が」「原初の神官にして神子のリザーだろう。話は聞いている」「え」 警戒心むき出しだったシャーナが目を丸くした。「生神を迎えるリザー一族が原初の神殿を守ると言っていたが、世界の破滅の時まで生き残っているか心配だった。しかしリザーの末はちゃんと生き残っていた。よいことだ……素晴らしいことだ」「シンゴ様、この御方は……」 シャーナをリザーの神官で、リザーを昔から知っていたような発言に、シャーナは一歩下がって俺に
人前で力は使うまい、と思っていたけど、ここのドワーフは例外と、サーラを連れて【転移】で無窮山脈に帰る。 そして神鉱炉へ戻ると、穴を見つめていたドワーフがこっちを向いて目をまん丸にしていた。「……ああ、そうか。転移で直接帰って来たんだな」「確かに、そちらの方が安全だが……その方は」 ヤガリくんが訝し気に問うのに、サーラは微笑んだ。「我は生神の神子の新入り、サーラだ。よろしく頼むよ」「? ああ、よろしく」 ヤガリくんは差し出された手を受け取って握手した。 ……ヤガリくん、すげぇ。俺なんか触れも出来ねえよ……。「サーラ、貴方は何処でシンゴ様と会ったのだ?」 レーヴェの言葉にサーラは意味ありげに微笑むと、神鉱炉へ向かった。「下がっていろ」 穴を覗き込んでいたドワーフたちにそういうと、サーラは手を下から上へと招くように動かした。 次の瞬間。 真っ赤な溶岩が、炎水路から溢れ出てきた!「炎水だ!」「間違いない、炎水だ!」「これで、神聖銀も加工できる!」 ドワーフたちが喜ぶのに、サーラは満足げに頷く。「……もしかして、彼女は」 ヤガリくんが小声で聞いた。「おとぎ話にあった、『炎の守護獣』なのか?」 ヤガリくん勘ぱねぇ。「ああ。本当の姿……大きな蜥蜴か小さな竜かって姿を俺は見てる。彼女の正体は火蜥蜴だ」「なるほど……炎水の守り手に相応しい」 それぞれ美しい顔立ちをしているエルフの一人であるレーヴェも、サーラに目を奪われていた。「無限の力と美しさを誇る炎の守護獣。紛れもなく彼女はこの無窮山脈の支配者だ」「……神子にすれば無窮山脈は助かるって言うから神子にしたけど、絶対彼女、目立つよな」「それはそうだ。神がかった美しさ……いや、神の力の具現と言っても過言ではないのだから」 レーヴェは胸の前で何か指を走らせていた。「何それ」「あ……ああ、まじないだ。騎士たる者が動揺した時に冷静さを取り戻すと言われている……」「ほう、騎士が我に動揺したか?」 かつ、かつと足音高らかにサーラがやってきた。「当然だろう? ……シンゴ様に会うまで……神の実在すら信じていなかったが、エルフの騎士は神に仕えると言われてきた。だが、世界が滅ぶこの時に生神と出会い、更に炎の守護獣の具現体に出会うなど、昔の私が聞いたらまず自分の気が触れたと思うだろう」







