Chapter: 第327話・そして捨てた道「やっぱり|獣使師《ビースト・テイマー》になってたのか! しかも話を聞いたところじゃお前も神子なんだろ?! 一体どんな……」「シンゴ、ヴェデーレが帰っているのだろう」 ノックして入ってきたレーヴェが声をかけた。「何で分かった?」「オルニスが飛んでくる気配がするから」 あちゃあ、とヴェデーレは顔を覆った。「無窮山脈から出てくるなってあれだけ言ったのに」 くおお、と外から音が響いて、ヴェデーレが窓から外を見る。 神殿の前、一番広い所で、|巨鳥《ルフ》が羽根を休めていた。「オルニス! 簡単にこんな所まで来るんじゃないよ!」「|巨鳥《ルフ》……?」 トーノが呆然と声をあげる。「嘘だろ、おい……?」「ついでだから一旦帰省すれば?」 俺が提案した。「オルニスで行けばすぐだろ」「オルニスを乗合馬車代わりに使うな」「魔獣ならいいのか?」「よくない。やっということを聞いてくれるようになったのに……」「魔獣が、言うことを聞く?」「うん、多分世界で唯一の|魔獣使師《モンスター・テイマー》でもあるから」「シンゴ、言うなよ……」 トーノはもう口をパクパクさせているだけだ。「悪かったな、魔獣が人を襲わないようにしつけてもらってたんで、なかなか帰れなかったんだ。休暇、かな? あげるから、しばらく休んでくれ」「相変わらずお人好しだね、シンゴってば」 それまで足をブラブラさせて聞いていたミクンが呆れた。「でも魔獣のしつけはヴェデーレにしかできないからって押し付けてたから、そろそろ休んでもらわなきゃって思ってたし」「ま、それもそうだよね。神子の中で一番忙しかったのヴェデーレだし、オルニスもグライフもヴェデーレに会えなくて欲求不満気味だったし? 悪友さんたちと世界を周るってのもいいんじゃない?」 ヴェデーレとトーノ、ミクンが出て行ってから、俺は思い出す。 魔神を倒した直後、死物たちは四散した。 支配者がいなくなったのを知って、喜んで消えた者、恐ろしくて消えた者、たくさんだ。 ヴェデーレには俺を信仰する魔獣が、人間を襲わないようにとしつけることを頼んだ。 レーヴェ、ヤガリ、ミクンにはそれぞれの種族のまとめを。ベガのおかげである程度ケンタウロスの中の位置を勝ち取っていたスシオもケンタウロス族をまとめてもらった。 サーラとベガには種族間交渉の
Last Updated: 2026-05-06
Chapter: 第326話・新しい道 鳥の鳴き声に、俺は目を覚ます。 寝る必要はないんだけど、やっぱり精神が眠りを求めるものなんで。 ここは、原初の神殿。 大陸中央にあるこの神殿から、俺の力は秩序となって流れていく。 世界は、滅亡寸前から、俺の知らない繁栄していたころに戻りつつあるとサーラは言った。 大樹海、無窮山脈、奈落断崖、ビガスの要所を結ぶ運輸は、魔獣が出なくなったとはいえ、盗賊なんかが出たりもするので、フェザーマンの輸送隊は重宝されている。それまでフェザーマンが他人種に対して何らかの役割を果たすことができなかったので、フェザーマンたちは役割を与えられたことを喜んでいるようだった。 街も人が戻り始め、ハーフリングも草原から出て来るようになった。 エルフやドワーフもいらない対抗意識を燃やすこともなくなった。 プセマのようなノームも、淘汰されていった。俺の正義……あるいは自己満足に見合った人間だけが生き残っているようだった。 これは、俺のせいなんだろうか。 サーラやベガが言うには、俺の正義は範囲が広いから、これまでの生神と魔神の戦いの内では滅んでいく人は少ないのではないかと言うことだった。 つまり、俺が助けたいと思うだろう人は自然に助かっていくってことだ。 おじさんの望んだような一つの正義以外が淘汰される完璧な世界じゃない。 でも、ちょっといい奴が、他のいい奴に触れて、もっといい奴になっていく世界なら、それでいいんじゃないかな、と。 おじさんから見たらもどかしい世界かも知れないけどな。「シンゴ様?」 シャーナが神殿の最奥にある俺の部屋をノックした。「シャーナ? どうした?」「お忘れですか? ミクン様が、ハーフノームの訴えを聞いてあげて欲しいと……」「あ、言ってた。悪い、顔洗ってすぐ行くから」 服を変え、顔を洗い、面談室に行く。 ミクンが憤慨しているハーフノームをまあまあ、と抑えていた。 ん? あのハーフノーム、見た覚えが……。「ミクン」「ああシン……」「シンゴ?!」 ヴェデーレの悪友。トーノ。「シンゴが何故ここに? ……あ、そうか、お前、ミクン様みたく神子なのか? ならグリフィンに乗ってエンドを目指したのも納得……」「ごめん、トーノ」 俺は頭を下げた。「俺が生神なんだ」 ぶぅっとトーノが噴き出す。「グルートンは元気か?」「ああ元気…
Last Updated: 2026-05-06
Chapter: 第325話・決別 ミクンの俺を見る目が痛い。「この人たちの話をまとめるとぉ……シンゴは無抵抗で魔神の攻撃を受けて、一度死んだ、ってそういうことなのかしら?」「……はい、そうです」「はいそうですじゃない!」 レーヴェに一喝された。「尊敬する人物が魔神だというショックは分かる! だからと言って、死を選ぶんじゃない! この世界は、お前がいないとダメなんだぞ!」「そうだよ、シンゴ……シンゴは生きてなきゃダメなんだよ……」 アウルムが泣きそうな顔で言い、コトラが俺の足にごっちんしてブランも頭を押し付けてきた。「心配……かけちゃってたなあ」「当たり前だ馬鹿野郎!」「オレ、兄ちゃんが死んだらどうしようかって……!」 うん、俺が悪い。全般的に。「ゴメン……二度としないよ」「当然!」 ごん、とミクンに殴られた。 その時。「…………」 小さな、呻き声とも言えない声。「……戻って来たか」「戻って?」 ベガが不思議そうに聞いて、そして気付いて慌ててそちらを見た。 魔神の右手が上がっている。 ゆっくりと降りて行って、自分の頭に掌を乗せている。 青白い光が宿って、しばらく。「シンゴ!」「大丈夫」 俺は同じくらいの身長のヴェデーレに肩を借り、ゆっくりと魔神に近付いていく。 魔神はしばらく掌で顔を覆っていたが、ゆっくりと手が離れていく。 額についた傷跡は消えなかったけど、おじさんは虚ろな目を虚空に向けて、それから、俺の方を見た。「……お帰り、おじさん」「…………」 おじさんは何も言わない。 多分、貴船さんに会って来たんだ。俺の時と同じように。「生き帰ることを選んだんだね……じゃあ、どうする? 魔神として俺と戦う? それとも……」 おじさんは……立ち上がった。 皆が身構えるのを片手で押さえて、俺とおじさんは視線を合わせた。「二度と、会わないだろう」「……そっちに、決めたんだね」 貴船さんのように、このモーメントから生神や魔神に相応しい人間を探す役目を請け負ったんだろう。「……ああ。私はこの世界のどこかで、お前の世界再生を見ている。もしそれが誤っていると思ったら、私はこの世界に再び魔神をもたらす」「そうならないよう努力するよ」 おじさんの額の傷跡に俺の目は釘付けになった。 かつてワー・ベアが言っていた、魔神に隠された第三の目。その目
Last Updated: 2026-05-05
Chapter: 第324話・謝罪 魔神が仰向けに倒れたのを見届けて、俺はその場に座り込んだ。「っで~……」 魔神の強烈な一撃を受け止め続けた水鏡の盾を持つ左手には感覚がない。 天剣を持つ右手は固く強張っていて剣を手離せない。 信仰力はたくさんあったとしても、血は失われているから、興奮状態から解放された今は貧血がひどい。「シンゴ!」 魔神が倒れたのを見届けたみんなが、オルニスの背から飛び降りて駆け寄ってくる。「シンゴ、済まない……」 サーラが俺の強張る右手の指を、一本一本、|解《ほぐ》しながら、頭を下げた。「まさか我々が囚われるなど夢にも思っていなかった……守護獣の思い上がりだ……。ベガに聞いた。苦労したのだろう……済まない」「謝らなくていいって」 俺は、何とか《《怖くない笑顔》》を作った。「魔神は……死んだのか?」 感覚のない左手からそっと水鏡の盾を受け取って、レーヴェが聞いた。「多分、まだ、決まってない」「多分? まだ?」「多分、生神や魔神の寿命は、周りが決めるんじゃなくて本人が決めるんだ。あっちへ行って、聞かれて……」 ぽかぽかっ。 後頭部をそれ程力はないにせよ二度叩かれて、俺は振り返った。「なーにが、あっちだ」「ヴェデーレ……」「ヴェデーレ兄ちゃんの言う通りだ! シンゴ兄ちゃん、さっき、死ぬ気だったじゃないか……って言うか死んだじゃんか! 服とか床に血の跡残ってないからってごまかされると思うな! あの時、何も抵抗しないで殺された時、オレらどう思ったか……!」「悪い、スシオ、ごまかす気も隠す気もないけど悪かった」「死んだって……」「死んだんだよ! 胸やられて、ひどい血を流して!」「落ち着け、スシオ」 ベガがスシオを軽く小突き、ヴェデーレの背中を撫でて落ち着かせてくれる。「人生の師とも仰いでいた相手が魔神だったのだから、死にたくなるのも仕方はない」「人生の師……シンゴの叔父上か……?」 俺のおじさんの話を聞いていたサーラが思い出してくれた。「そうか、叔父上が魔神だったか……」「ああ、気にしないで。決着はついたから」「気にするわ!」 怒鳴るヴェデーレ。「胸打ちぬかれてぶっ倒れた時、俺たちがどんな気持ちだったか……!」 そうだそうだ、の意識はオルニスからも来た。「シンゴはおれたちがいない間に何かやらかしたのか?」 ヤガリの
Last Updated: 2026-05-05
Chapter: 第323話・守るために ……お前の友達は私にとっても友達なのだから、いつでも呼んできなさい。 そんなおじさんだったから――最終的には俺に甘いおじさんだったから、俺が神子にした仲間……友達を、殺さなかったんだ。 俺を殺そうとした人間をそんな風に信じるなんて馬鹿げてる、と言う人もいるだろう。 でも、身内だから、育てられたから、分かることだってある。 エンドでサーラたちに出会った時、魔神の力なら殺すことだってできたんだ。それをしなかったのは、多分、魔神として生神である俺を殺すことになったとしても、俺の大事な友達は守らなければならないと思ったから。 魔神として俺と戦うことになるかもしれない。その結果、俺を殺してしまうこともあるかもしれない。 それでも、俺が手に入れた大事なもの……友達だけは、守らなければならないと。 例え、その結果、俺を殺し、彼らに殺されることになったとしても。 ああ、笑えるな。 笑えるくらいに矛盾してるな。「全てを破壊する魔神が、生神の神子を守るってどんだけだよ」「そう言う貴様は、生神の力を使い、死物を苦しめただろう」「そうだよ」「全てを救う生神が?」「俺は、全てを救うなんて言ってない」 ゆっくりと、天剣を構える。「手の届く範囲、助けられる人を助ける。全ての人間を救えるなんて思い上がってないからね」 だから、魔獣は助けたけど、他の死物は許せなかった。 俺の手の届く、俺が助けたい人たちを傷つけていたから。 魔獣は、助けてくれと言っていたから、そして俺の手が届いたから助けた。「結局、一人ですべてを救うなんて無理なんだよ。滅ぼすのも」「なら……何のための生神だ……何のための魔神だ……!」「貴船さんなら知っているかもね」「貴船……?」 仮面の下、おじさんの目が丸くなっていることは簡単に想像がついた。「お前、貴船を知っているのか!」「知ってるも何も、さっき会ってきた」 そうして、天剣を構える。「会いたかったら、一度死んでくれるか?」「冗談を」 おじさんはひび割れた仮面をむしり取って床に叩きつけた。 |儚《はかな》い音がして、仮面が粉々に砕け散る。 額から血が流れ続け、止まることがない。鮮血を帯びたおじさんの顔は、これまでにない程激怒していた。「お前が……お前が私を殺すことは出来ないのだ……私がお前を殺せても」「殺さ
Last Updated: 2026-05-04
Chapter: 第322話・ずっと友達で 解放されたサーラの混乱する意識が伝わってくる。サーラだけでなく、全員が混乱している。 そりゃそうだろ、最果ての地でいきなり争いに巻き込まれて封じられて、目が覚めたら水墨画の世界だったら誰だって混乱するよ。「私……は、魔神に……」「サーラ! レーヴェ! ヤガリ! コトラ! ミクン! アウルム! ブランも! よかった、全員無事だったか!」「シンゴ?! ここは一体……」「それは我が説明する! シンゴは魔神に集中しろ!」 ベガの絶叫が耳と頭脳の両方に届いた。 それもそうだ、相手は魔神、力の源を叩き割ったくらいでぶっ倒れる相手じゃない。 俺はすぐに魔神に目を戻す。 魔神の仮面は、善悪を見抜くという第三の目を|印《しる》すルビーが砕け、その欠片がまるで血しぶきのように散っていた。「ぐう……う」 魔神は膝をついて、仮面の砕けた額を抑えて震えている。「馬鹿な……馬鹿なっ」「皆を封じることで、防御の力が失われていたんだ」 俺はゆっくりと、ゆっくりと間合いを詰める。「封印なんて真似をしなければ、第三の目が失われることもなかったのに」 魔神が気付いた時には、俺はもう、天剣の間合いに入っていた。「なあ……おじさん?」 よろけながら立ち上がる魔神に、俺は《《そう》》呼び掛けた。「なんで、神子を、滅ぼさなかった? 全てを滅ぼす魔神が、生神の神子を」「……気紛れだ」「本当に?」「…………」 聞かなくても、分かってた。 魔神が……おじさんが、神子を殺すのではなく、第三の目が弱体化するリスクを冒してまで封印した理由。 ……俺の、仲間だったから。 俺はおじさんの世話になっていた身なので、小学校の時から滅多に友達を家に連れて行くなんてことはしなかった。子供心に迷惑をかけると思っていたから。 でも、俺が風邪を引いて学校を休んだ時、プリントと皆からの「元気出して」レターを持ってきた友達二人に、おじさんは「風邪がうつるから」と俺と会わせなかったけど、お菓子やジュースでもてなしてくれて、「ずっと真悟と友達でいてくれ」と言った。トイレに降りてきて、俺以外の子供の声に気付いて応接間を覗いたのが、その場面だった。二人の手を握って、頭を下げていた。 ……小学生相手に、大の大人が。 友達を連れてきてもいいんだぞ――それが、おじさんの|口癖《くちぐせ》だった。
Last Updated: 2026-05-04
Chapter: 第185話・すべては終わり 十年後。 瑞希と一緒に、バスを降り、少し歩く。 辿り着いたのは、十年前から更地になったままの場所。「おう、来たか」 壮は僕と瑞希の姿を見つけて、軽く手を挙げた。「お前らも毎年律儀だな。こんな跡地に来るなんて」「それを言うなら壮だって」 あの時、学園長と地下研究施設全てを失った弧亜学園は、秘密の研究で全人類のコアを消したのではないかとの疑いをかけられ、国連に全ての研究データなどを没収された。 しかし、肝心なことは、羽根さんは自分の命と一緒に持ち去ってくれたので、残っていたのは動かすコアのないコアコンピュータだけだった。 学校が廃校になって、十年。 更地にされた学園に、僕たちは、一年に一回やってくる。「人のうわさも七十五日」 瑞希が呟いた。「弧亜学園が叩かれて、コアがなくなって。人類どうなるかと思ったけど、案外コアがなくても生きていけるものなのね」 跡地に花を置いて、瑞希は呟いた。「なんだか、あの時のことが、夢みたい……」「でも、覚えてるだろ?」 こうやって、人類が滅亡を免れた日に、花を手向けにやってくる。 羽根さん。長田先生。学園長。地下にいたコア生物や新人類、そして、ココ、ナナ。「僕たちが墓場まで持って行けば、それでこの一件は水の泡。もう誰も、コアがあったことなんか思い出さなくなる」「そうね……」 しばらく僕たちは合掌した。「飲みにでも行くか?」「まだ日中だよ?!」「いいだろが、今日は記念日だ。飲んでいいんだ、俺的に」「相変わらずね、壮君は」「はん、そう簡単に変わってたまるかよ」 僕たちは、歩き出した。 だから、気付かなかった。 木陰に、緋色の光を放つ何かが、落ちていたことに……。 完
Last Updated: 2025-12-03
Chapter: 第184話・コアを染めて『私の間違いは正されたのですね』 突然、合成音が聞こえた。「何、この声」「羽根さん」「羽根?!」 まだ人間の姿を取り戻せていない長田先生があちこちを見る。『ありがとう、丸岡くん』「羽根さん……これで、終わったんですね?」『まだ、終わりじゃないわ』 合成音は静かに告げる。『新しい人類の道をやり直さなければ、同じことはまた起こる』「どうすれば……?」『全てのコアを、ナナに命じて、貴方のコアの望みのままに、透明に、そして、無に』「……って、それって、地球からコアが消えるってことか?」 彼方くんの問いに、羽根さんは、是、と答えた。『このままコアを残しておけば、人類が成長する限りいずれは誰かが私と同じ結論に辿り着き、同じ結果を導き出す。そして、その時に貴方が、そして透明なコアがあるとは限らない』「無茶だろそれ。今の人類の研究や実験は、ほぼすべてコアか、対コアとして進んでる。コアが突然なくなれば、インフラにも影響がデカい」『そこは、人間の可能性に賭けるしかないわね』「無責任だな」『私のいない未来だもの』「なら生き延びて新しい道を示せよ」『私と言う存在がある限り、人類はコアを諦めない。人造コアの研究すら始まろうとしているのに、唯一残ったコアの繋がったスーパーコンピュータなんて、戦争を起こしてでも勝ち取りたいものよ』「長田先生は……それでいいですか」「私は長生きをし過ぎました」 人間の姿も取れない、黒茶の平面の生き物は、そう言った。「コアがなければ生きていけない身体……見ての通り、もはや人類ですらない。私たちこそ旧人類。コアなき世は、君たちが創るべきです」「丸岡くん……」 渡良瀬さんが、泣きそうな顔で言った。「それって、先生も、先生の妹さんも、死んじゃうってことよね……? やだよ、そんなの……」「死ぬんじゃありません」 平面の黒茶の一部がむくりと伸びあがり、渡良瀬さんの頭を軽く叩いた。「元に、あるべき姿に戻るだけです。私たちは死にませんよ。本当のことを誰も知る必要はない、ここにいる三人だけが知っていればいい」「カピパラ……いや、長田」 彼方くんは、ちょっと唇をかんでから、言った。「散々悪口言って、悪かったな」「気になさらず。君こそ変わりました。君と丸岡くんを教えられたことは、私の誇りです。渡良瀬さんが死んでほし
Last Updated: 2025-12-03
Chapter: 第183話・透明に「まだ覚えていてくれたんですかー」 学園長の一部、金色の光の中から、その声は聞こえた。「色々あり過ぎてー、新しい相棒も手に入れたみたいだからー。私のことなんて、忘れちゃったかと思ってましたー」「忘れるわけないさ」 あの日。弧亜合格を教えてくれたのは、ココだった。 お節介で図太くて図々しくて気紛れで……でも。「君は、僕の、コア監視員だよね」「何を……」 学園長が何か言おうとしたけど、金色の光が強くなってそれを止めた。「それは、今でも有効?」「そりゃーそうですよー。私を仕込んだのは|救世主《メシア》ですけどー、私と言う存在を形作ったのは丸岡さんですものー。私はー、意識ある限りー、丸岡さんをー、監視しますー」「じゃあ、今僕の考えていることは分かるよね」「丸岡君?!」 長田先生の不安に歪む声に笑いかけて、そして僕は恐らくココがいるだろう場所を見た。「協力してくれるかい?」「難しいですねー」 当然、上手く行くとは思ってなかった。ココは学園長が生み出したコア生物だから。「でもー」 いつもの調子で、ココは言った。「丸岡さんがー、私のことを一生覚えていてくれるって約束してるならー。それならー、協力するかもしれませんねー」「!!」 学園長は目を丸くする。 僕が乗っている長田先生も、一瞬震えた。「バカなこと言うなよ、ココ」 僕は笑った。「確かに僕らの繋がりは半年もなかった。だけど、一緒にいた、一番気にかけてくれた相手を、僕が忘れるわけないじゃないか」「そうですかー」 ココの声は楽し気に聞こえた。 そして、金色の光がぞわぞわとまだらに光る色を押しのけていく。 学園長の胸部の、ちょうど真ん中。「絶対の絶対ー、死ぬまでー、忘れないでー、下さいねー?」「忘れないよ。忘れられるものか」 僕は透明のコアを、光の渦の中心に向かって突っ込んだ。「だって、僕らは、相棒だったんだから」「ぅあっ!」 もう一度、悲鳴。 透明のコアを、学園長の胸部に直接押し付ける。「染まりたいんだろ? 染めてやるよ……透明に!」「やめっ、やめてっ、いやっ」 コアの触れた胸から、学園長の肉体が透明になっていく。「やっと手に入れた肉体なのに……やっと手にした結果なのに! こんな所で! 旧人類に!」「君たちが新人類となる夢は破れた」 僕は透明に染め
Last Updated: 2025-12-03
Chapter: 第182話・ラスボス最終形態 次の瞬間、パッと暗闇が消え、あの時と変わらない距離で、全身に無数の色をまとわせた学園長がいた。「随分前衛的になっちまったな」「まだらですね」「もう……私は、間違いを犯さない」 学園長……無数の色の集まりは、明らかに僕たち四人を狙っていた。「私が……最終存在となる」「その色で妹を語らないでほしいですね!」「行くぞ渡良瀬っ」「分かってる!」 渡良瀬さんは、限界ギリギリまで、他者鎮静化の光をたくさんたくさん生み出した。 危機において、精神や肉体は時に実力以上の結果をもたらす。それはどんな生き物でも同じこと。 渡良瀬さんの力を、彼方くんは|空気弾《エア・バレット》の先端につけて、様々に軌道を変えて打ち出した。「ゥア……ア……」 明らかに、まだらに染まった光が色を失っていく。 他者鎮静化とは、僕の透明コアに近い能力だった。色を一時的に奪うことで相手の力を弱める。そんな彼女と僕が、そしてそれを弾丸の先に乗せて撃ちだせる彼方くんとが、受験で出会ったのは偶然か? あるいは学園長が何か企んだのかもしれないけど、助かった。 これで、随分色を削れる。 僕は長田先生の背中らしき所に捕まって、光の弾丸を受けて悶える学園長のすぐ近くまで進攻していた。「ナナ!」(はい!) 今の僕には分かる。透明なコアが、全てを透明にしたいという欲望を持っていること。 上手く手綱を取って長田先生にその力を向けないようにしながら、僕は右手を伸ばす。 透明なコアが見える。 学園長を取り巻く《《色》》は、それが必要なものだと判断して手を伸ばしてくる。 でも、触れる度、色が怯えて遠ざかっていく。「いいのかしらねぇっ?!」 学園長の狂喜に満ちた笑みが、そのまだらの顔に妙に映えた。「この光は貴方達と同じ人間、光が消えればその人間も死んだことになる! ふふ、まあ同士討ちが当たり前の最低種族だから、脅しにもならないかもだけどっ!」 言いながら、学園長は手を伸ばす。僕の透明コアを手に入れるために。「あなたの中にいる全員が、あなたに従っているとは思えない」 そして、僕は呼んだ。「ココ」
Last Updated: 2025-12-02
Chapter: 第181話・ラスボス戦 長田先生の静かな声にも、焦りがにじんでいた。「世界中の人類についているコアを呼び集め、新たな人類の一部として目覚めさせようとしているんでしょう」「新たな人類の、《《一部》》?」「なるほどね」 僕はすぐに納得がいった。「学園長がなろうとしているのは、間違いを犯さないために無数の判断装置がついた究極の精神体。世界中の人類の意識を奪えば、そしてその意識を支配下に置けば、間違いを犯さない永遠の支配者と成り得る」「全人類を支配下に置いたところで間違わないとは思えないけどな」 彼方くんの言葉に僕は頷いた。「そこまで追い詰められたってことだけど……」「だけど、世界中のコアを集めるってことはさ、ゲームで言えばラスボスが、残り一桁のヒットポイントを全回復したってことじゃない?」 暗い中、僕のコアが放つ光に浮かび上がった渡良瀬さんの顔は、見るまでもなく真っ青。「全回復どころか攻撃力に防御力もアップさせただろうね。だけど」 僕は渡良瀬さんに向かって笑いかけた。「負ける気は、ない」 それより、と僕は黒い壁を見る。「長田先生、先生は大丈夫なんですか?」「私はコア肉体を私の支配下に置いた存在」 長田先生は少し苦し気で、でも正確に答えてくれた。「あの《《妹もどき》》がどれだけコアを呼び集めようと、僕の心臓や脳とも同化しているコアは、僕から離れれば死ぬ時だと分かっているから、離れません。結果、こうして君たちをあいつの影響から庇えますが……あいつが完全体になって襲い掛かってきた時、君たちを守ることができるか自信はありませんね」「それなら大丈夫です」 渡良瀬さんと彼方くんの顔がこちらを向く。長田先生の意識もこちらを向いていることが分かった。「今のはラスボスの第一段階、第二段階だった。そして今、最終段階になろうとしている」「なんか手があるんだな」「あるよ。君たちが無事でよかった。長田先生がいてくれてよかった。僕一人じゃ相当てこずった」 そして、僕は作戦をみんなに伝える。「なるほどな」「……頑張る」「その役目は引き受けました」 その時、地面が揺れた。「地震?」「いいや、足踏み」 僕が呟く。「先生、地球中の人類の意識を、あいつは取り込んだんでしょう」「はい」 ああ、久しぶりに長田先生の「はい」が聞けたな。最初に聞いた時はバカにされてるん
Last Updated: 2025-12-02
Chapter: 第180話・追い詰められて 僕は、金色の鞭を掴んで全力で引っ張った。 学園長は慌てて鞭を放す。色なき浸食からギリギリで逃れながら、僕を見ていた。 |創造主《クリエイター》を名乗り、|救世主《メシア》を名乗ったあの余裕の笑みは何処にもない。 ただ、自分を裏切った者たちに対する恨みがあるだけ。「くっ、このっ!」 学園長の行動は読めた。彼方くんの|空気弾《エア・バレット》のように攻撃を仕掛けながら、隙をついて僕からコアを奪い取る。 だけど、そううまくはいかせない。 僕は、僕の内から溢れ出す透明コアの力を、空気のように操った。 学園長が生み出した以上の透明の弾丸を用意して。「死になさいっ」「そっちの方だ!」 同時に金と透明の弾丸の嵐が互いに襲い掛かった。 透明の弾丸をすり抜けて僕を狙ってきた金色の弾丸は、僕の右肩口や足にぶつかり、血を噴き出させる。「……痛いね」 笑って、呟いた。「でも、分かったから、いいか」「何が……やられておいて、何が分かったのかしら?」 もちろん学園長に教える義理はない。ただ、透明に侵食させて力を失う能力は、どうやら無意識の内には出せないらしい。あくまで僕が意識してでないと無理なのか。 だけど、僕が受けたのは数発。しかもまだ透明コアを狙っている学園長は僕を本気で殺そうとはしていないから絶妙に急所を外してきている。 アドレナリンが噴出しているのか、痛くも痒くもなく、僕は笑う。「次の攻撃と行こうか」 僕は左足を引きずって前に出た。 学園長を覆う金色の光が、随分と弱くなっている。「負けない……私たちの力を借りなければ、歴史すら刻めなかったような生き物に、私は負けない……!」「僕も負けない」 笑って、言う。「全人類を背負う気はないけど、何人かの大切な人を助ける為なら、全人類だって救って見せる」「その全人類が消えたらどうなるでしょうねえっ!」「丸岡君! こっちに!」 ケガをしていない左肩を掴んで引っ張ったのは、長田先生だった。「丸岡っ」「丸岡くんっ」「三人とも、動かないで!」 長田先生は自分の身体を丸めるようになりながら巨大化し、すっぽりと僕らを覆った。 外で何が起きているのか。「先生……学園長は今、何を」「旧人類のコアを集めようとしているんです」
Last Updated: 2025-12-02
Chapter: 第88話・懐かせる期間 三日は傍に居てやってください、とパサレは言った。 伝令鳥や宣伝鳥は、まず自分が帰ってこなければならない場所を覚えなければならない。不特定多数に送る宣伝鳥や町で買う伝令鳥は場所を覚えてそこから行き来するけれど、ぼくのみたいに完全に個人的なやり取りをするなら、自分の飼い主を完璧に覚えてもらわないといけない。何処から何処に送ってもぼくの所に戻ってくるように。 高価でスキルレベルの高い伝令鳥は、例えば他人に貸しても、飼い主の意を酌んで他人の手紙を知らない人間の所にも届けたりできる。けど、元の住処あるいは飼い主を完全に認めていない鳥は元の住処に帰ってきてしまったりする。 エキャルは高価でスキルレベルの高い伝令鳥だけど、それでもぼくの気配を覚えるには三日はかかる、んだそうで。 基本的に鳥かごの中に入れておくものだけど、鳥かごに入れると文句言って暴れる。言い聞かせると分かってはくれるんだけど、あの黒い目でじっとぼくを見上げてくる。出してくれーって言ってるの分かるんだよ、これが。逃げないからここから出してーって言ってるのが。 鳥かごに入れておかなくても、ここまで気に入った飼い主の元から逃げ出すことは滅多にないとパサレも言ってたし、ぼくがエキャルの傍に居るよりエキャルがぼくの傍に居るのが色々無理がなくていいかと自由にさせた途端、右肩に飛び乗った。 鳥だからそんなめちゃくちゃ重いってわけじゃないんだけど、それでも右肩に重みはかかる。「……肩が重いんで別の場所に行ってもらっていいでしょうか」 バサバサッと飛んで頭の上。「何で頭の上がいいの?」 長い首を下ろして頭のてっぺん辺りに自分の頭を擦り付ける。「分かった分かった。そこがお前の定位置なんだな?」 だったら仕方がない、ちょっと間の抜けた姿になるけれど、エキャルを頭に乗せて、毎日恒例の町の巡回に出かける。 と言っても町のあちこちを散歩がてらほっつき歩くだけなんだけど。 拉致監禁された直後によく護衛もなくほっつき歩けますね、と元ファヤンス住民に言われたけど、実際の所グランディールより安全な場所はない。 宙に浮いているグランディールに侵入しようとすれば、まずスキルか騎獣で飛ぶしかない。で、上空から入り込もうとすると、水路が邪魔をする。水路はどうやら雨除け風除け寒さ対策もされているらしく、水路を突き抜けて通ろう
Last Updated: 2026-07-26
Chapter: 第87話・名前を付けて「お待たせいたしました。書類を……あら」 頭の上の伝令鳥を見てパサレが笑う。「お前、本当にこの方のことを気に入ったのね」「これが?」「頭に乗るのは信頼しているからですよ」「そうなの?」 頭の上に手を伸ばすと、掌に頭をぐりぐりしてくる感触。「では、ここにお名前と印を」「大人しくしててね」 ゆらゆら揺れている伝令鳥にそういうと、ぴたりと動きを止める。「この気難しい子がこんなに好くなんて、本当に運命の相手に巡り合えたのね」 書類を渡された。「この鳥の名前をこの欄に書いてください」「名前?」「ええ。名前を与えて、主従の契約を結ぶ。そういうものでしょう?」「名前……」 まさか入手したその場で名前を付けなきゃいけないとは……。「前の持ち主はどんな名前を付けてたんですか?」「同じ名前を付けることはお勧めしません」 何で? というぼくの顔に気付いたんだろう。パサレは真剣な目でこっちを見た。「名前を与える、ということは、この子に対する全権を名付け親が得る、ということに他なりません。前の飼い主と同じ名でこの子を呼ぶと、この子は果たして自分がどちらに仕えてどちらを愛しているか混乱するでしょう。名前、とは、その相手に責任を持つという一番分かりやすい例なのです」「ちなみに前の飼い主はどのような方でしたか?」「かなり強引な方でしたね。明らかにこの子が嫌がっているのに自分にこそこの子が相応しい、とお金を置いて強引に連れ帰ってしまいました。その後、この子が逃げ帰ってきた時連れ戻せ、でなければ弁償しろと言われましたが、ええ、伝令鳥をただの持ち主のステータスと見做している方にはお譲りできませんとお金と弁償金を叩き返しましたよ」 ……何か、その元の飼い主って、ぼくの知っているヤツのような気がする。 そいつのおさがりと思うと嫌だけど、無理やり連れていかれたのを嫌がって戻ってきたと言われたら、放っておくわけにはいかない。 じゃあ、名前つけないと……。 う~ん……。名前って……言われても……。 緋色か……緋色……緋色……。「エキャルラット」「古語、かな」アパルの言葉に頷き返す。「通称はエキャルかな?」 頭の上でエキャルと名付けた伝令鳥が揺れている。「踊ってる?」「踊ってるねえ」 踊るの?!「ではここにもう一度お名前と印、そしてここに伝令
Last Updated: 2026-07-25
Chapter: 第86話・相性のいい鳥「鳥との相性、ねえ」 パサレは笑顔で奥に引っ込むと、何羽かの伝令鳥を連れてきた。 伝令鳥は赤い羽根と黒い目の鳥だと何となく認識していたけど、こうやって並べられると、違いがあるのがわかる。 炎のような赤さの鳥。柔らかそうな羽毛を持つ鳥。黒い瞳が潤んで見える鳥。本当に千差万別、一羽ずつ個性がある。 赤が強ければいいのかな、と思っていたけど、これは確かに違うわ。赤と言ってもマゼンダ色に近いものもあれば、血のように赤いのもいるし、朱色もいる。赤って色々あるんだなあ。(町長、町長) 肩を小突かれて、口が開いたままなのに気付いた。慌てて閉じて鳥を見る。「鳥との相性って、どうやってみるんです?」「フィーリング。感性ですね。ああ、この子だという確信です。個人的な伝達をするのであれば、余計お客様のために頑張るという子を選ぶべきですね」「そっか……鳥だって生き物だもんな、気に入った人に為に頑張ろうって思うんだろうなあ……」「そうです。この子たちにも好き嫌いや相性がありますからね。長く付き合うならば、鳥にとっても人にとっても幸せでなければ」 うん、そうだよな。町だって同じだ。元からいた人も新しく来た人も幸せでないといけないよな。とりあえずは元ファヤンス組とそれ以前の人たちが上手く混ざり合うか。それだな。 おっと、これはとりあえず心の中に納めておこう。今は伝令鳥だった。「どの子がいいのかな……」 じっと目を覗き込む。 黒い目がくりっくりっと動きながら見返す。 あ、かわいい。 アナイナ、好きそうだなあ。 い、いやいや、今回はアナイナのプレゼントを選んでるわけじゃなくて、自分が使う伝令鳥を買うんだった。 十四年間わがまま放題なあいつの兄をやっていた癖がまだまだ抜けない。「乗せてみます?」「? 乗せ?」「はい」 パサレはぼくの見ていた一羽をすくう様に持ち上げて、ぼくの肩に乗せた。 あ、結構重い。 羽根の感触が頬に当たってくすぐったい。「ちょっと違うみたいですね」 ひょいっと肩からすくいあげられる。 次に隣の伝令鳥を乗せる。 と、明後日の方向からバサバサバサッと羽音がした。 止まり木に停まっている一羽が、バサバサと羽根を広げている。「あら。乗りたいの?」 バサバサバサバサ。 自己主張が激しいな。「乗せてみます?」「あ、お願いし
Last Updated: 2026-07-24
Chapter: 第85話・伝令鳥を買おう ピーラーとデスポタの拉致監禁事件がすべて解決してから数日が経って。 ぼくはアパルとリューとアレを連れて、スピティを訪れていた。 言っとくけど、別にピーラーとデスポタが気になったわけじゃない。あいつらはもう関わりたくない。放浪者となったデスポタがどこで野垂れ死んでも関係ないし、ピーラーがメァーナスでどういう扱いを受けているかも興味はない。 目的は二つ。 一つはピーラーが取り下げた注文の代わりに、今度トラトーレ商会で受ける注文を聞きに来た。 トラトーレはソファに座るぼくたちに向かって立ったまま頭をペコペコ下げまくっていた。「本当に申し訳ない……。そして本当に感謝します。私の仲介した相手があのような事件を起こしたというのに……まだ我々トラトーレ商会と取引をしてくれるとは……」「私の頭を殴ったのはピーラーであってトラトーレ商会長ではありませんから」 ぼくはにこやかに言った。「そしてまだ注文が来ているというのにトラトーレ商会と縁を切るようなことは出来ませんよ」「まこと……まっこと感謝しかありません……! これから先は客も選ばせてもらいます! 決してグランディールに損をさせるような真似は致しませんので!」「心配はしていませんよ、トラトーレ商会長。我々はトラトーレ商会を信じていますので」 トラトーレ商会長は泣きそうな顔で頭をもう一度深々と下げる。「で、次の注文があるならば」「は、はい、ピーラーの注文取消しで、注文が殺到しておりまして」 その中からトラトーレが依頼してきたのは、SSランクの町の町長夫人の飾りタンス。服道楽の奥方らしく、今まで集めてきた衣装を丁寧に片付けられる物が欲しいそうだ。 ちょっと難しい注文だけどピーラーのそれに比べりゃ簡単だ。 契約書を交わして、そして聞いてみる。「いい伝令鳥が欲しいのですが、お勧めはありますか?」「伝令鳥ですか。フォーゲルに行かれては?」 トラトーレがにこりと笑う。「フォーゲルは鳥の町。食用鶏から伝令鳥まで、いいものを取り扱っております。我々の伝令鳥もフォーゲルに注文して手に入れました」「ほう、鳥の町」「一般認知度は低いですが、高レベルの町の上層部にはよく知られておりますよ。いい伝令鳥や宣伝鳥を繁殖させ、売っております。宣伝鳥も購入するといいでしょうな。グランディールが取り込んだ陶器を売るため
Last Updated: 2026-07-23
Chapter: 第84話・謝ってほしいわけじゃない まったくサージュの言う通り。「……ごめん」 それしか、言葉は出なかった。「謝ってほしいわけじゃない。理由が聞きたいんだ。町の場所をピーラーやデスポタのような連中に勘付かれたかも、という状況で、私たちを呼ばなかった理由を」「そっ、それは町長は悪くないっす!」「そうだ、町長が一緒に来なければ、オレたちだけで行ってしまって、捕まえられたことすら勘付かれない可能性があった!」 アレ……? リュー……? なんで、ぼくを庇って……?「……アレ、リュー、気持ちは分かるが、ここは町長に分かってもらわなければならない」 サージュは二人の方を見て、ぼくに向き直る。「町長、何故貴方は、危険がある可能性が高い下に、明らかに少ない人数で降りたんだ? それは、町長として、明らかに不用意な行動だ」「……悪いと、思ったんだ」「悪い?」「サージュもアパルもスピティとかで疲れ切っているのに、確実に危険がある訳でもないことに付き合ってもらうのは……申し訳ないって」「|町長《クレー》」 サージュの目が、灰褐色の瞳が、ぼくを真剣に覗き込んできた。「貴方は、町の長というだけではない。グランディールと言う生き物の、頭なのだと自覚してほしい」「サージュ……?」「町というのは生き物だ。町は手や足を失っても生きていられる。再生すらできる。しかし、頭だけはそうはいかない。頭なしでは何もできない。別の頭を持ってきても上手くつながるとも限らないし、つながったとしても頭の命令を手足が聞くようになるまでには時間がかかる。その間に天敵に狙われる」「…………」「貴方がグランディールの為を思って外に出るのなら、俺かアパルを同行させるべきだった。手足が動くことを、頭が申し訳なく思う必要はないんだ。むしろ手足が動かず頭が潰される方が痛い」 何も言えない。何も言い返せない。 ぼくはサージュかアパルを連れていくべきだった。いや、そうしなければならなかったんだ。 ぼくは町長。そしてスキルでこの町を造った。 ぼくがいなくなったら、スキルがどんな風になるか分からない。下手すれば百人強がまとめて路頭に迷うかもしれなかったんだ。ぼくの無茶のせいで。「……分かってくれたのならそれでいい。アナイナの連絡、リューとアレの行動もあって、こちらは対応も対策も立てられた。だけど二度、三度と同じ幸運があるとは限
Last Updated: 2026-07-22
Chapter: 第83話・条件、飲むか飲まないか「私を副町長にしないか?」 あ。予想通り。「む、無論、君の方針に従う。私の町長経歴は長い。若い君の役に立てる!」「貴様! 俺様を差し置いて……!」「ど、どうだね? 私を活かしてみる気は……」「ありませんね」 ぼくは起き上がらず答える。「さすがに若くて経験の浅い私でもわかりますよ。副町長という立場から少しずつ切り崩して行って町を乗っ取ろうって考えでしょう? グランディールには優秀で私の考えを実行して行ってくれる|頭脳《ブレイン》が複数人いますのでね、わざわざ他所から元町長を引っ張ってこなくても十分です」「クレー町長!」 デスポタの声はひっくり返っていた。 ぼくが断るとは思ってなかったのか? グランディールで町長の座に返り咲き、Aランク以上の町長になろうと思ってたんだろうけど、アパルやサージュじゃなくても気付くよその猿芝居。「ああ、優秀な|頭脳《ブレイン》がいるからこそ私をここで言いくるめて無理矢理にでも副町長の座を得ようと思っていたんですかね? 生憎、私も、彼らも、そこまで馬鹿じゃありませんよ。町民をごっそり引き抜いた町の元町長なんて危険分子を副町長に就けるなんてありえませんよ」 ましてや人を拉致監禁しといてその被害者に採用を望むなんて、どうかしている。「わ、私の知識は役に……」「あなたが町の役に立つというなら、食堂の下働きをしてください。一生下働きで。それならばグランディールに入れましょう」 黙り込んでしまったデスポタに代わって、今度はピーラーが叫んでくる。「デザイナーを! デザイナーを譲ってくれれば何でもやる! 金でも、名誉でも、俺様に与えられるものならば、何でもだ! グランディールにとっても悪い話じゃないだろう! 芸術の町メァーナス一番の俳優の勧める町という!」「何でもやるんですか?」「ああ!」「ならば、これからメァーナスの町へ行き、自分は新しい町のデザイナーが欲しかったので、その町長の頭を殴って拉致監禁し脅しましたと触れて回ってください」「…………!」 ピーラーの顔色は赤かな、青かな、紫かな、それとも白かな。 ピーラーはスキル「演技」を持っていると聞いた。それを使えばまた話は違っただろうに、ぼくみたいな小僧に「演技」しても無意味だと思ったんだろうなあ。残念だけど、例えあんたが「演技」してきても、町長の仮面は見抜け
Last Updated: 2026-07-21