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第十九章:名を与えるという祈り

Author: fuu
last update Last Updated: 2025-06-30 12:00:08

防衛戦の余波が過ぎた翌日。

煙の抜けた空の下、火の神殿跡地で一行は集まっていた。

その中で、ハンマー――元裁判官の魂が、ぽつりと口を開いた。

「……覚醒ってのがあるんだよ。神の武器にはな。」

その言葉に、皆が振り向いた。

「覚醒……?」

「そう。神を“降ろす”んだ。……使い手が、神格化することでな。」

ハンマーの声は珍しく低かった。

軽口ではなく、真実を語る裁判官の声だった。

「そのとき、武器と使い手は一体化する。意識も、感情も、力も全部が融合して、“神の座”に近づく。」

「でもそれって……すごく危険じゃないの?」

アマネが鋭く問いかける。

「危険どころか、ほとんど“壊れる”んだよ。普通は。」

静寂が落ちる。

「……魂の強さ。意思の硬さ。それがなけりゃ、神になろうとした使い手はただ壊れるだけだ。……神格化は、力を得る行為じゃなく、“神に近づく試練”なんだ。」

誰も、すぐには言葉を返せなかった。

その夜、リィナは焚き火の前に一人、銃を抱えていた。

「……僕には、何もない。」

銃が呟いた。

「アベルには過去がある。ショウには願いがある。アマネには記憶がある。……でも僕は、名前すらない。」

彼の声は静かだったが、深い諦めの気配があった。

リィナは、しばらく黙っていた。

やがて、彼女はそっと銃を胸に抱き、言った。

「じゃあ、私がつけてあげる。」

「え?」

「名前。“君”が、君であるために。」

火の灯りの中、リィナの瞳はまっすぐだった。

「――《ナギ》。何も持たない、でも優しい風のような、君のための名前。」

一瞬、銃の心が震えた。

「ナギ……僕が、ナギ……。」

それは、確かに銃ではなく“誰か”として生きるための第一歩だった。

そしてその名は、確かに彼の中に根付き始めていた。

静かな風のように。

嵐の前の、安らぎのように――

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