Partager

第17話 守ると決めたから、強くなる

Auteur: 東雲明
last update Date de publication: 2026-07-13 13:41:46
「……うっ、ぐ……」

 喉の奥から、潰れた声が漏れた。

 暗い。

 目を開けているはずなのに、何も見えない。

 湿った土の匂いが鼻を刺し、遠くで金属がぶつかり合う音が響いている。剣と剣がぶつかる甲高い音。その合間を縫うように、誰かの悲鳴が夜の空気を震わせていた。

 ここは宿屋の部屋じゃない。

 頭ではそう分かっているのに、足の裏には冷たい大地の感触があった。

 黒い雲に覆われた空。

 焼け落ちた建物。

 地面には折れた槍や砕けた盾が散らばり、その隙間を赤黒い炎が這っている。煙で霞んだ景色の向こうに、大きな白い羽が見えた。

 ミユウだ。

 今より少しだけ髪が長く、見たことのない白い衣を身にまとっている。細い腕には血が滲み、片方の羽は泥と煤で汚れていた。

 それでも、ミユウは誰よりも前に立っていた。

 背後で震えている人々を守るように両手を広げ、迫り来る黒い影へ向かって、一歩も退かずに立ち続けている。

「駄目だ……」

 声を出したはずなのに、ミユウは振り返らない。

「行くな。ミユウ、戻れ!」

 足を動かそうとする。

 だが、身体が地面に縫いつけられたように動かなかった。どれだけ力を込めても
東雲明

今回は龍夜くんが試練に遭う回です。ミユウとの切ない両片思いも続きます。少しでもおもしろいと思われましたら評価、ブクマ、レビューいただけると泣いて喜びます。

| J'aime
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第34話 俺の命は、俺が決める

    「愚か者!」 冷え切った声が、玉座の間の高い天井へ突き刺さり、幾重にも反響して降ってきた。 ミユウの指が、俺の首へ容赦なく食い込んでいる。細い腕からは想像もできない力で持ち上げられ、爪先は黒い石床を離れていた。喉を塞がれた肺が空気を求めても、唇から漏れるのは掠れた吐息だけだった。 目の前には、見慣れた銀色の髪がある。 けれど、その背から広がる翼は白くない。艶のない漆黒の羽根が重なり合い、俺たちの頭上を覆っていた。わずかに翼が揺れるたび、羽根の隙間から黒い魔力が粉雪のように舞い落ち、床へ触れる前に闇へ溶けていく。 明かりを遮られた俺とミユウの影は、足元でひとつに重なっていた。向かい合う二人の影には見えない。巨大な黒い翼を持つ怪物が、人間を呑み込もうとしているようにしか見えなかった。 遥か後方では、白骨を思わせる長い階段が闇の中を延び、その頂に据えられた玉座へラフィセルが腰かけている。 床が割れようと、柱が揺れようと、すぐには届かないほど遠く、高い場所だ。 ラフィセルは頬杖をつき、薄い笑みを浮かべて俺たちを見下ろしていた。ようやく獲物が罠の中心へ踏み込んだことを確かめるような、静かで冷たい眼差しだった。「あんなちっぽけで無力なわたしはもういないわ」 ミユウが吐き捨てる。 堕天の力によって成長した姿は十六歳ほどに見えた。すらりと伸びた手足も、大人びた輪郭も、俺の知る姿とは違う。だが、何より遠く感じたのは、真っ直ぐ俺を見つめる瞳だった。 かつてそこに宿っていた柔らかな光はなく、凍りついた夜の湖のような冷たさだけがある。 首を締め上げる指へ、さらに力が込められた。 耳の奥で鼓動が鳴る。息を吸えない苦しさに重なり、胸の中心を冷たい刃で抉られるような痛みが走った。視界の端が黒く欠け、玉座の間の景色が遠ざかっていく。 それでも、俺はミユウの目を見続けた。「自分のことをそんなに否定するな」 喉を絞られた声は、ひどく掠れていた。「小さかったからって、お前が無力だったわけじゃない。お前は誰かが困っていたら、自分の危険も考えずに飛び出してただろ」 俺の声が石壁にぶつかり、弱々しく戻ってくる。 ミユウは答えなかった。 その表情にも変化はない。ただ、俺の首へ触れている指先がわずかに震えたように見えた。そう見えただけかもしれない。確かめようと目を凝らすよ

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第33話 例え全部嘘でも、俺は信じてる

    「うそ…だろ。なんで…お前…そんな」 声が震えた。 広大な玉座の間へ放たれたはずの言葉は、黒い柱と高い天井に何度も反響し、最後には冷たい石の壁へ吸い込まれていった。 返事はない。 正面に立つミユウは、俺が知る白い翼の少女ではなかった。 銀色の髪は変わらない。細い頬も、透き通るような瞳も、何度も俺へ笑いかけてくれた顔も同じだ。 けれど、その背中から広がっている翼だけが、夜よりも深い黒に染まっていた。 一枚一枚の羽根から闇色の魔力がこぼれ落ち、床を這う霧となって彼女の足元へ絡みついている。青白い燭台の炎が黒い翼に遮られ、ミユウの顔には凍りついたような影が差していた。 違う。 姿だけじゃない。 俺を見る目に、あのあたたかさがない。「ミユウ……」 名前を呼び、一歩踏み出した瞬間、胸の奥で冷たい輪が縮んだ。「ぐっ……!」 心臓を内側から握り潰されるような衝撃に、身体が前へ折れる。 俺は胸を押さえた。螺旋階段を駆け上がっていたときから続いている異変が、玉座の間へ入ってから急激に強まっている。 乱れた呼吸が、やけに大きく響いた。 床へ膝が落ちそうになる。 それでも、つま先に力を込めた。 ここまで来たのは、倒れるためじゃない。 あいつを連れて帰るためだ。 俺が顔を上げると、ミユウは黒い翼の向こうから俺を見下ろしていた。澄んだ瞳には、心配も迷いも浮かんでいない。 やがて、薄い唇が冷たく動いた。「無様な姿ね」 聞き慣れた声だった。 だからこそ、その言葉は刃より深く胸へ突き刺さった。 ミユウは具合が悪そうな誰かを見つければ、考えるより先に駆け寄るようなやつだった。苦しむ相手を見下ろして笑うなんて、俺の知るミユウなら絶対にしない。「そんな顔で、そんなこと言うなよ……」 絞り出した声に、ミユウは答えなかった。 黒い翼をゆっくりと畳み、俺へ背を向ける。 そして玉座へ向かって歩き出した。 一歩ごとに鳴る靴音が、冷たい空間を重く打つ。 俺から離れ、あいつへ近づいていく。 玉座の間の最奥には、黒銀の装飾に囲まれた巨大な玉座がそびえていた。その上に腰かけるラフィセルは、頬杖をついたまま俺たちを見下ろしている。 怒りも警戒もない。 俺がここへ来ることも、ミユウが俺の前に立つことも、最初から知っていたような顔だった。 玉座へ続く床には

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第32話 黒く染まった翼との再会

     靴底が石段を打つたび、乾いた足音が螺旋階段の奥へ吸い込まれていった。 ひび割れた石壁は肩が触れそうなほど近く、壁に掛けられた古いランタンだけが、狭い足元を頼りなく照らしている。炎は風もないのに揺れ、俺の金色の髪と、ねじれながら伸びていく影を何度も闇へ沈めた。 右へ、さらに右へ。 いくら登っても同じ景色が続き、中央の吹き抜けは底のない穴のように口を開けている。錆びた手すりの向こうを覗いても、下層の明かりさえ見えない。踏み外した石片が暗闇へ落ちていったが、いつまで待っても音は返ってこなかった。 胸の奥で、鼓動がひとつ大きく跳ねた。 続くはずの次の鼓動が来ない。 心臓だけが取り残されたような空白のあと、遅れを取り戻そうとする激しい脈動が胸を内側から叩いた。冷たい輪で締めつけられる感覚が強まり、吸い込んだ息が喉の途中で止まる。「っ……まだだ」 俺は胸元を押さえていた手を離した。 痛みがあることはわかっている。体が普段どおりではないことも、無視できるほど鈍くはない。 それでも、止まる理由にはならなかった。 この階段の先にミユウがいる。それなら今の俺に必要なのは、痛みの正体を考えることではなく、一段でも多く登ることだ。 視界を遮る曲がり角へ踏み込んだ瞬間、頭上の闇が膨らんだ。 俺は反射的に右手を伸ばした。「アストラルフレイム!」 金色の光が指先へ集まり、剣の形を結ぶ。 直後、上段から振り下ろされた巨大な爪が刃へ激突した。 耳を刺す金属音とともに、狭い階段の空気が爆ぜる。両腕へ押し潰すような重圧がかかり、足元の石段から何本もの亀裂が伸びた。俺は奥歯を噛みしめ、沈みそうになった腰を支える。 敵は上にいる。 ただでさえ狭い場所で、体重まで乗せた一撃を受け続ければ押し切られる。 俺は刃をわずかに傾け、爪の力を外壁側へ逃がした。黒い爪がアストラルフレイムの表面を滑り、石壁へ深く突き刺さる。 石の破片が頬をかすめた。 敵の腕の下を潜り、二段上へ踏み込む。懐へ入れば巨体の力は使えない。そう判断して剣を振り上げようとしたが、切っ先が低い天井へ触れた。 ほんの一瞬、剣筋が止まる。 その隙を、敵は見逃さなかった。 横から黒い衝撃が叩き込まれた。「ぐっ!」 体が浮き、外壁へ弾き飛ばされる。 俺は激突する直前に左足を壁へ突き立てた。靴底が石を削

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第31話 例えこの胸が止まろうとも

    「ミユウ!」 閉じかけた魔界の門へ、俺は手を伸ばした。 赤黒い光の裂け目が、刃のように細くなっていく。その向こうで、ラフィセルがミユウを連れ去ろうとしていた。白い翼を押さえ込まれても、ミユウは振り返り、まっすぐに俺を見ていた。 怯えきった顔ではなかった。 俺が来ると信じている目だった。「龍夜くん!」 声が届いた直後、ラフィセルの姿が闇に溶けた。 門が閉じる。 ミユウの白い指先が見えなくなり、赤黒い光は一本の線となって消えた。俺の手は、何もない空間をつかんだ。「ミユウ!」 返事はない。 鏡の池を渡ってきた冷たい風が、金色の髪を揺らした。さっきまで門があった場所には、黒く焼けたような円形の跡だけが残っている。「ミユウ! 聞こえるか!」 俺は拳で門の跡を叩いた。 固い壁を殴ったような衝撃が腕を走る。それでも構わず、もう一度拳を振り上げた。「ミユウ!」「いつまでそうやって叫んでいるつもりですか」 背後から飛んできたルゥの声が、俺の拳を止めた。 振り返ると、ルゥは腕を組んで立っていた。いつもと変わらない、偉そうな顔だ。けれど、その視線は俺ではなく、閉じた門へ向けられている。「叫べば門が開くのですか。あなたの声が大きいことくらい、もう十分に分かりました」「分かってる。だけど……!」 言いかけた言葉をのみ込む。 このまま名前を呼び続けても、何も変わらない。 ミユウは最後まで俺を見ていた。助けを諦めた顔ではなかった。なら、俺がここで立ち止まる理由はない。 俺は目を閉じ、一度だけ深く息を吸った。 冷たい空気が胸へ入る。速くなっていた鼓動を数え、吐く息と一緒に焦りを押し出した。 今やるべきことは、嘆くことじゃない。 閉じた門を開けることだ。「ルゥ。この門は、もう開かないのか」「通常の方法では無理でしょう。向こう側から閉じられた門です。鍵穴すら残っていません」「通常の方法なら、か」 ルゥがわずかに眉を動かした。 俺は再び門の跡へ向き直り、今度は拳ではなく、開いた手のひらを押し当てた。 氷に触れたような冷たさが皮膚から染み込んでくる。 だが、その奥に別のものがあった。 小さな脈。 閉じた門の向こうで何かが鼓動しているように、かすかな振動が手のひらへ返ってくる。 意識を集中すると、俺の身体の内側にも、それに応える熱が生

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第30話 鏡の中に消えた白い翼

     ラステルへ続く街道が深い森へ差しかかる少し前、俺たちは道端で休んでいた旅商人から、不思議な池の話を聞いた。「ここから東へ半刻ほど歩いたところに、鏡みたいな池があるんだ」 旅商人は荷馬車の車輪へ新しい留め具を打ち込みながら、まるで近所の井戸について話すような気軽さで言った。「鏡みたい?」 ミユウがすぐに食いつく。「ああ。風が吹いても波一つ立たない。空も雲も、のぞき込んだ人間の顔も、何もかもそのまま映すそうだ。けど、ただ姿を映すだけじゃない。本当の姿、本当の心まで見せるんだとさ」「本当の心……」 ミユウはその言葉を確かめるように、胸の前で両手を重ねた。 穏やかな午後の日差しが、彼女の白い翼を淡く照らしている。旅商人の話を聞くまでは、道端に咲いている小さな花を楽しそうに眺めていたのに、今は池のことしか頭にないらしい。 その横顔を見た時点で、俺には次の言葉が予想できた。「行ってみたい!」「そう言うと思った」「だって、本当の心を映すのよ? すごくない?」「すごいかもしれないけど、今からラステルとは違う方向へ行くんだぞ」「半刻だけでしょう? それに、池の中で困っている人がいるかもしれないわ」「今の話のどこに、困っている人が出てきたんだよ」「詳しいことを話したがらない人がいるって言っていたでしょう? 怖い思いをしたのかもしれないわ」 ミユウは真剣な顔で旅商人を見る。「その池へ行った人は、みんな無事に戻ったんですか?」「少なくとも、俺が会った連中は生きて戻ってきたよ。ただ、池の中で何を見たのか聞いても、黙り込むばかりだったな。中には泣き出す者もいた」 俺は思わず森の方角へ目を向けた。 街道から外れた先には、日の光が届かないほど密集した木々が並んでいる。穏やかな風が吹いているのに、森の奥だけはひどく静かだった。「なるほど。本当の心を映すというより、心の奥へ直接作用する魔法かもしれませんね」 ルゥが腕を組み、考え込むように目を細めた。「珍しく慎重だな」「珍しくとは何です。私はいつでも物事を深く考えています」「じゃあ、行くのは反対か?」「誰がそのようなことを言いました?」 ルゥは少し顎を上げた。「人間の噂など、大半は尾ひれのついた作り話です。しかし、本当に精神へ作用する池ならば、魔法的な価値はあります。無知なあなたたちだけを行か

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第29話 月明かりの下、君の傷を抱いて

     宿屋の一室には、戦いの気配を忘れさせるような静けさが満ちていた。 小さな窓から差し込む月明かりが、木の床へ細長く伸びている。壁際の燭台では、短くなった蝋燭の炎が夜風にかすかに揺れ、そのたびに壁へ映る二人分の影も、寄り添ったり離れたりを繰り返していた。 遠くから聞こえてくる川のせせらぎ。屋根の上を撫でていく風の音。時折、古い建物が思い出したように軋む。 それ以外には、何も聞こえない。 ついさっきまで剣を握り、悪魔と命を懸けて戦っていたことさえ、遠い出来事のように感じられた。 俺は部屋の中央に立ち、自分の両手を見下ろした。 手のひらには、剣を強く握り続けた跡が残っている。体のあちこちには鈍い痛みがあったが、立っていられないほどじゃない。傷の手当ても受けている。 それよりも強く感じているものがあった。 俺の内側を、静かに流れている力。 目に見えなくても、今ははっきりと分かる。 それは誰かから借りたものでも、俺の手に余る得体の知れないものでもなかった。確かに俺の中で生まれ、呼吸に合わせて全身を巡っている魔力だった。 以前の力は、怒りに呼応して一気に噴き出した。 髪は荒々しく逆立ち、燃え盛るような光が視界を埋め尽くした。強大である一方、少しでも気を抜けば自分まで飲み込まれそうな激しさがあった。 だが、今は違う。 自然に流れる金色の髪を指先でかき上げながら意識を集中させると、胸の奥で魔力がわずかに動いた。静かな湖面へ波紋が広がるように、俺の意思を待っている。 俺が望めば、この力は応えてくれる。 怒りに支配されなくてもいい。誰かを守りたいという思いを、俺自身が力へ変えられる。 戦いの中でつかんだその感覚は、まだ体に残っていた。 偶然じゃない。 俺はアストラルブレイヴの力を、自分の意思で制御した。 その事実を、もう疑うつもりはなかった。「龍夜くん」 呼びかけられ、俺は顔を上げた。 ミユウが、寝台のそばに立っていた。 薄い寝間着へ着替えた彼女の銀白色の髪が、月の光を受けて淡く輝いている。いつもの明るい笑顔を浮かべようとしているのに、その青い瞳は少し潤んでいた。 ミユウは俺の姿を確かめるように、金色の髪から頬、肩、腕へ視線を動かした。 俺が本当にここにいるのか。 今にも消えてしまわないか。 そんな不安が、言葉にされなくても伝わっ

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第3話 名前を知っている理由

    「お前、なんで俺の名前知ってるんだ」 俺の声は、自分で思ったより低く響いた。 白い石で造られた広間は、天井がやたらと高い。柱には羽を広げた女神みたいな彫刻が並び、壁の奥では青白い光がゆらゆら揺れていた。 ここが天界アストリアだとか、俺が勇者として召喚されたとか、正直まだ頭が追いついていない。 それでも、一つだけ引っかかっていた。 目の前の少女――ミユウ・ネフェルト。 俺よりずっと小柄で、銀色の髪をふわりと揺らし、背中に大きな白い翼を持った少女。初対面のはずなのに、こいつは当然のように俺の名前を呼んだ。 瀬野龍夜。 俺が名乗る前に。 その事実だけは、どんな不思議な景色よりも気

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第6話 雑魚と呼ばれた少年の一閃

    「来いよ」 俺は剣を構えた。 怖くないわけじゃない。 足は重く、腕もまだ痺れている。 それでも、もう一度地面に転がされるために、ここへ立ったわけじゃない。 アストリアの神殿の裏庭。 白い石柱に囲まれた芝生の中央で、俺はルゥの召喚したスライムと向き合っていた。 青白く透き通った小さな魔物。 見た目だけなら、子どもでも倒せそうに見える。 だが、昨日の俺はこいつに振り回された。 剣は当たらない。 足は取られる。 動きは読めない。 この世界で魔力のない俺が、どれだけ無力なのか。 思い知らされるには十分すぎる相手だった。 けれど、俺は剣を下げなかった。 少し離れた場所で

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第5話 俺がいる

    「いやあぁっ!」 ミユウの悲鳴で、俺は目を覚ました。 胸に寄りかかっていた小さな身体が、びくんと跳ねる。白い翼がばさりと乱れ、俺の腕から逃げようとするみたいに暴れた。 一瞬、何が起きたのかわからなかった。 ここはアストリアの神殿にある、ミユウの部屋だ。 昨日、ルゥに連れていかれた裏庭で、俺はスライム相手に情けないほど転がされた。何度も倒れて、立ち上がって、最後は気合だけでどうにか前に出た。 そのあと、膝が笑ってまともに歩けなくなった俺を、ミユウがこの部屋まで連れてきた。「龍夜くん、少しだけ休んでいって」 そう言って、俺の手を離さなかった。 本当はすぐ自分の部屋に戻るつもりだ

  • 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します   第4話 守れぬ手

    「雑魚だろ。そんなひょろくて能力もないやつが救世主なんて信じられん」 ルゥの声が、神殿の裏庭に冷たく落ちた。 白い石畳の上で、俺は拳を握ったまま動けなかった。言い返したいのに、喉の奥が焼けつくばかりで、うまく声にならない。 天界アストリアに召喚されてから、俺は何度も自分の弱さを見せつけられている。 戦闘力はない。魔力もない。剣を握っても、手のひらに残るのは頼りない重さだけ。 それでも、ミユウを守るためにここへ来たのだと、俺は思いたかった。「ルゥ、そんな言い方しないで」 俺の隣で、ミユウがむっと頬をふくらませた。 背中の白い羽が、朝の光を受けてやわらかく揺れる。神殿の庭に咲いた

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status