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第5話

مؤلف: 藤原美咲
海の中で、奈緒は三時間も浮き沈みしていた。

傷口が海水に触れた瞬間痛みは何倍にも増したが、彼女は歯を食いしばって耐え続けた。

力尽きる直前、ようやく目指すものを見つけた。

ずぶ濡れのまま、ようやくデッキに這い上がると呼吸もままならない状態だった。

その手には、しっかりとあのネックレスを握りしめていて、たくさんの記憶を思い出していた。あのネックレスを手に入れたとき、啓太は「一生、君を大事にする」と約束してくれた。しかし今となってはすべてが笑い話にしか思えなかった。

奈緒は思わず空を仰いで笑い出した。

だが笑いながらも涙が止まらず、心が引き裂かれるように痛かった。

家に戻ると、彼女は高熱を出した。

ベッドに横たわっていても力が入らず、水を汲みに起きることすらできなかった。そんなとき啓太が戻ってきた。

彼は奈緒を無理やりベッドから引きずり起こした。

彼女は病院へ連れて行ってくれるのかと思い、大人しく車に乗った。

だが走り出してすぐに、違和感を覚えた。

「啓太……これ、病院に行く道じゃない。どこに行くつもり?」

「病院?」

彼は笑い、冷たく言い放った。「お前が引き起こした騒ぎ、まだ片付いてないのに、よく病院なんて言えるな!」

熱のせいで頭がぼんやりしていた奈緒は、彼の言葉の意味をすぐには理解できなかった。

だが、現場に着いてようやく察した。

また、安子のことだった。

ネットの炎上が止まず、安子は多くの中傷を受け、会社を辞めて、夜中に別荘を出て、かつて住んでいたアパートに戻っていた。

そして今、彼女は屋上で飛び降りようとしていた。

啓太は奈緒を無理やり屋上へ連れてきた。安子はすぐに警戒して後ずさり、「来ないで!」と叫んだ。

「安子、お願いだから、そんなことしないでくれ!」

啓太は手を震わせながら必死に呼びかけた。「彼女を連れてきたよ。奈緒は君に謝るって言ってる。ネットでもちゃんと君をかばってくれるって」

謝る?かばってくれる?

その言葉を聞いた瞬間、奈緒の意識ははっきりと覚めた。

「ありえない」苦しみながらも、彼女ははっきりと口にした。「なぜ私が彼女に謝らなきゃならないの?」

先に裏切ったのは、そっちなのに。

被害者である自分が、なぜ加害者に謝る必要がある?

その言葉を聞いて、安子は両手を握りしめた。

だが顔には、あくまで弱々しい表情を浮かべたまま。「そうですよね、石田さんに謝らせるなんて。私はみじめな女です。だからみんなに嘲笑われ、侮辱されます。もう、生きてる意味なんてありません」

啓太は驚き、慌てて叫んだ。「やめろ!!」

そして奈緒に振り返り、低く怒鳴った。「どこまでひどいんだお前は!謝るくらい一体何がそんなに嫌なんだっていうんだ!」

そう言うなり、彼は足で奈緒を蹴り飛ばした。

不意を突かれた奈緒は、その場に膝をつき、激痛が走った。

その上で、啓太はさらに脅した。「謝らないなら、お前の父の会社に手を出すしかないな」

その瞬間、奈緒の頭に、前世の出来事がよみがえった。彼女は涙をこらえ、顔を上げて言った。「啓太……私たちの何年もの関係は、安子ひとりにすら敵わないの?」

この問いは、かつての奈緒が心の中で叫んでいた言葉だった。

共に過ごした10年、苦しみも喜びも分かち合ってきたのに、最後に待っていたのは家庭の崩壊と絶望だった。

啓太は一瞬、動きを止めたが、すぐに冷たい目に戻り詰め寄った。「謝るのか、謝らないのか」

謝る以外に、選択肢なんてあった?

奈緒の目から涙がひとしずく落ちた。そして口を開いた。「ごめんなさい。今すぐ、あなたのために弁明するから」

そう言ってスマホを取り出し、その場で投稿をした。

啓太は彼女がすべてを投稿し終えるのを確認すると、すぐに安子のもとへ行き、やさしく言った。「安子、聞こえた?さあ、こっちにおいで」

そう言って彼女を抱きしめ、屋上から下ろした。

その光景を見て、奈緒の胸は張り裂けそうだった。

ようやく壁をつたって立ち上がったところに、安子が近づいてきた。

彼女は奈緒の手を握り、にこやかに言った。「石田さん、ありがとうございます」

だが、啓太に見えない角度では得意げに笑っていた。

そして、奈緒にだけ聞こえるように、こう囁いた。「同じ女として……あなた、自分がかわいそうとは思わない?」

奈緒は怒りで手を振り払おうとしたが、安子はさらに強く手を握り、そのまま奈緒を引き寄せて、二人で数歩後ろへと下がった。

気づけば、二人は屋上の縁に立っていた。

「あっ!!」

二人同時に悲鳴を上げた。

啓太はすぐさま手を伸ばしたが、掴めたのは安子の手だけだった。

奈緒はそのまま真っ逆さまに落ちていった。

落下の瞬間、彼との記憶が頭の中を駆け巡った。

彼は、やっぱり最後まで安子を選んだ。

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