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百の贅沢より、君がくれる温もりがいい
百の贅沢より、君がくれる温もりがいい
Penulis: 無名

第1話

Penulis: 無名
「北条さん、妊娠6週目です。ただ……体があまり強くないようで。お腹の子をどうするか、考えられる時間は2週間しかありません」

北条真奈美(ほうじょう まなみ)はもう付き合って五年になる恋人、植田翔太(うえだ しょうた)のことを思い浮かべ、迷わず頷く。

「2週間後、手術をお願いします」

そのあまりにも迷いのない様子に、医師は少し驚いた。

「お相手の方とご相談などは……よろしいんですか?」

真奈美は寂しそうに笑って、首を横に振る。

かつては翔太と結婚を誓い合った。しかし、今ではその男、別の女との間に生まれる子を心待ちにしているのだった。しかも、出産は3ヶ月後とのこと。

相手の女はまだ学校を出たばかりの、世間知らずな純粋な子で、翔太が経営するホテルのレストラン部門で働く研修生だった。

「あの子は卒業したての頃のお前によく似てるんだ。だから、いじめられてるのを見ると放っておけない」

翔太はそう言った。

そして自分の翼でかばうように、徹底的に守っていた。

最初、真奈美は信じてしまった。

翔太があの女にどんどん夢中になっていくのを見るまでは。

翔太はあの女の誕生日を祝った。そして、これまでの23年分のプレゼントだと言って、高級車から家まで与えられるものは全て与えた。そのせいで、真奈美との記念日はすっかり忘れられていた。

また、あの女が卒業するときには、盛大に卒業祝いをした。ドローンで夜空に甘いメッセージを浮かべた。しかし、妊活の注射が原因で高熱を出した真奈美の見舞いに、病院へ来てくれることはなかった。

さらには、あの女が仕事で客を怒らせると、彼は優しく声をかけて慰めた。そのくせ、業界で有名なスターシェフである真奈美には、客へお茶を出させて、頭を下げるように言いつけたのだ。

そして今、あの女のお腹には翔太の子が……

真奈美が家に帰ると、リビングの様子がすっかり変わっていた。いつも飾ってあった大好きなピンクのチューリップやひまわりが、真っ赤なバラに。そして、ソファには子どもっぽいぬいぐるみがたくさん置かれている。

使用人の大野翠(おおの みどり)がやって来て、「旦那様のご指示で、替えさせていただきました」と説明した。

しかし、真奈美は何も言わずに二階へと上がる。広くて明るい寝室を覗くと、翔太が使用人に指示して、壁に風景画を掛けさせているところだった。

壁から外されて隅に置かれているのは、真奈美と翔太がF国の海辺で撮ったツーショット写真。

真奈美が冷たい顔をしているのに気づくと、翔太は彼女の肩を抱き、笑顔で説明を始める。

「実は、恵の最近のつわりがひどいんだ。それで、シェアハウスでの暮らしを続けさせるのは心配だから、うちで暮らしてもらおうと思って。

でも、心配しないでくれ。子どもを産んだら、ちゃんと出て行ってもらうから」

真奈美は、何とも言えない表情で彼を見た。

「だからって、普通私たちの寝室に住まわせる?3人でひとつのベッドで寝るなんて、狭くないかしら?」

棘のある真奈美の言葉で、翔太の口元から笑みが消える。

「真奈美、俺がお前一筋だってことはお前も知ってるだろ?母さんがお前のことをよく思ってなくても、俺は他の女と結婚する気なんてさらさらなかったんだから。

それに、子どもができれば、母さんも俺たちの結婚を許してくれると思うんだ。でも、俺とお前の間には子どもが来てくれる気配がない。だから、恵の子どもが生まれたら、お前と俺の子どもだってことにするんだ。

そうすれば、お前は出産で苦しまなくてすむし、俺たちも結婚できる。な?悪い話じゃないだろ?」

真奈美は堪えきれなくなって、とうとう笑い出してしまった。

ただ、その目には涙が浮かび、笑顔はひどく苦しげだ。

なんて馬鹿げた理屈なんだろう。他人の子どもを使って、翔太と家庭を築くなんて。

部屋の隅では、写真立ての中の二人が甘く微笑んでいる。でも、いつのまにかガラスにはヒビが入っていた。まるで、今の自分たちの関係そのもの……

昔の翔太は、自分のことをとても大事にしてくれていた。

自分が気に入らないと言っただけで、何億円もかけた内装をためらわずに変えてくれたし、海外研修やコンクールにも付き添ってくれて、家族と縁を切ってまでも自分の味方でいてくれた。

それなのに今、別の女が静かに生活に入り込んできている。いくら新しいレシピを開発しても、どんなに高い評価を得ても、翔太はもう見向きもしてくれない。

二人の子どもでさえ、自分のお腹から産まれるわけじゃないらしい。

真奈美は翔太に背を向ける。

「好きにして。私はホテルに戻るから」

五つ星ホテルの厨房もまた職場だ。職場である以上、噂話をする人間がいるのは当然のことだ。

真奈美が更衣室のドアノブに手をかけると、中からひそひそ話が聞こえてきた。

「後藤さん、戻ってきたね。しばらく見なかったから、北条さんと社長がひと悶着あったかなんかで、社長が折れて後藤さんを辞めさせたんだと思ってたよ。でも、まさか妊婦健診で休んでたなんて」

「てか、後藤さんのSNS見た?もう健診の結果とかアップしてるよ。あれって、絶対北条さんに向けてだよね?」

「シェフと社長ってのも変わってると思ったけど、まさか今度はホール係と社長ってさ!」

「しかも、健診には社長のマイバッハで行ったらしいよ。社長、今回は本気みたい。たとえ、子ども目当てだったとしても、後藤さんをぞんざいには扱わないでしょ?北条さんも、これから大変だろうな」

……

そんな会話が続いていたが、真奈美がドアを開けて中に入ると、全員が蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。

彼女は手早く着替え、厨房へと向かい、料理の準備を始める。

すると、料理の途中で、マネージャーが駆け寄ってきた。

「北条さん、谷口さんがお見えになっているんですが、後藤が料理の説明をうまくできなくて。そうしたら、谷口さんが怒って彼女を帰してくれないんです。それで今、ちょっと揉めてて……」

真奈美は未来の社長夫人だ。だからか、マネージャーは社長の次に偉いのは真奈美だと思っていて、何かあれば彼女に相談するのが一番だと考えていた。

妊娠してるなら家で大人しくしていればいいのに、ホテルをうろつき回るなんて。後藤恵(ごとう めぐみ)の狙いは真奈美にはお見通しだったが、自分にはどうすることもできない。

「分かりました。私が行きます」

真奈美が出ていくと、かなり不機嫌そうな顔をしている御曹司の谷口拓海(たにぐち たくみ)が目に入った。

「お前が料理を運んできたんだろ? それなのに、この料理の説明をするのが、そんなに難しいのか?」

恵がすすり泣きながら言い返す。「お金があるからって、何をしてもいいんですか?私にだって、プライドぐらいはあります」

「なんだその態度は!それに、お前のプライドがどうした?」

拓海と一緒に食事に来ていた友人が、恵を掴もうとしたので、真奈美は慌てて止めに入ったが、パニックになった恵がテーブルのナイフを手に取り、めちゃくちゃに振り回す。その刃が、運悪く真奈美の手に当たった。「いたっ!」

血がとめどなく溢れ出す。

そこへ翔太が遅れてやってきた。拓海たちを追い払うように指示すると、気を失って倒れた恵を支え起こす。

真奈美は痛みをこらえながら、翔太の服の裾を掴んだ。

「翔太、手が……血が、たくさん」

シェフである自分にとって、手は命だ。怪我なんて許されない。

しかし、翔太は真奈美の方をちらりと見ることさえしなかった。

「恵は血が苦手なんだ。それに、お腹には子どももいる。先に彼女を病院へ連れて行くから」

翔太の去っていく背中を見ながら、真奈美は心の底から冷え切っていくのを感じた。そして、言いようのない寂しさに襲われる。

翔太が自分のお腹にいる子の存在を知らないままで、よかったのかもしれない。

あと2週間。そうすれば、何の未練もなくここを去ることができる。
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