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第56章・はだけた胸とポッドキャスト*香澄

last update Última actualización: 2025-12-07 18:41:09

【2016年1月4日(月) 深夜】

三が日も終わった午前1時過ぎ。長いことぐずっていた蓮も菖蒲も小さな寝息を立てて、ベビーベッドで眠っている。直前まで母乳を与えていた遥花もすっかり疲れ果て、服の胸の部分をはだけたまま眠っていた。

私も疲れ果ててボーッとしながらも、遥花の服を整えてあげてから、リビングの明かりをすべて落とす。そしてスマホのライトを頼りに洗面所へ向かった。

洗面所の電気を点け、冷たい洗面台に両手をついて、自分の顔を真正面から見つめる。

「……出てきてよ」

声に出して言うと、鏡の中の私が、ほんの少しだけ笑った。昨夜と同じように。

「やっと呼んでくれたね」

鏡の中の私が口を開く。声は自分なのに、どこか低くて落ち着いている。不気味な感覚だ。

これも昨日、つまり1月2日の昼間に、末継阿左美とかいうオカルト系女子大生に会って以来だ。その夜は気持ち悪くなってすぐに布団に逃げ込んでしまったが、今こそ確かめねば。

「……あなた、誰?」

「私はsophila。あなたの中の“もう一人の私”」

鏡の中の私は、ゆっくりと首を傾げた。

「ちょっと待ってよ……sophilaは、私のハッカーとしてのコードネームでしょ……どうしてそれが別の人格みたいに一人歩きし始めたの?」

「一人歩きし始めた? 違うわ。私はずっとあなたの中にいたのよ。あなたが子供のときからずっと。もちろん、その頃にはまたsophilaなんて名前はなかったけどね」

子供のときから?

「……嘘でしょ。昨日、末継阿左美とかいう女子大生に会ってからじゃないの? あの子が私に、何か変なことしたんでしょ」

信じられず否定するが、鏡の中の私は相変わらず笑っている。私自身の意思とは裏腹に。

「阿左美が何かをしたわけじゃない。彼女の霊感……いや、香澄はオカルトなんて信じないか。あなた向けの説明の仕方をすれば、彼女の影響で、ちょっとした脳波のスイッチが切り変わったとでも言った方が伝わりやすいかしら」

脳波のスイッチ?

「どういうこと……脳に、変な電気信号でも送られたの?」

「おおむね、そんな理解で構わないわ。もちろん故意か、事故か、それは私にもわからない。ともかくこうなってしまった以上、私もあなたにちゃんと状況を説明してあげなきゃと思って」

sophilaから悪意のようなものは感じない。ただ、阿左美は彼女を"悪霊”呼ばわりしていた。そ
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    松山支社の支社長室は、冷たい空気が張り詰めていた。窓の外は強い風が吹き、ガラスを細かく震わせる。俺は支社長のデスクの前に立ち、周りを囲むように集まった連中を見回した。老若男女、十数人。全員が、香澄にハッキングしてもらった例のLINEグループにいた"組織”のメンバーだ。「人数は合っているようだ。逃げ出すやつが1人もいなくて助かった。よほど強い団結力のようだな」皮肉も込めながら俺は言う。目の前の連中は、表情も様々だった。ある者は俺をにらみ、ある者は恐怖に怯え、ある者は全くの無表情で何を考えているやらわからなかった。無表情のやつに関しては、仕草からしてまるで佐伯敏夫のようでもあった。「お前たちが大道寺家に対して快く思っていないことはわかっている。だからと言って仕事の遅延や隠ぺいが許されていいことじゃない」一人のメンバーが開き直って言う。「じゃあ、どうする気じゃ? 減給にでも処す気ね? それとも懲戒解雇ね?」俺は答える。「そうだな、それも視野に――」と、連中は一斉に動き出した。女たちが距離を取って離れ始める一方で、男たちはスーツの上着を脱ぎ捨て、シャツ一枚でたくましい体を見せつけるように俺を取り囲む。「……何の真似だ?」「決まっとるじゃろ。おどれボコボコにしちゃる。箱詰めにして、クール便で東京に送りつけちゃる!」よく鍛えられた体の男たちが迫ってくる。「嘘だろ……暴力で反抗する気か? そんなことしたら貴様ら、解雇どころか警察沙汰だ。社会的に終わるぞ?」「知ったことか。ここは東京やないんじゃ! 祭りやったらケンカになるのも当たり前の松山だぞな」「わざわざこの部屋におどれに恨み持つ者ばっかり集めたのが仇となったな。愚か者!」どうやら話の通じる相手じゃないらしい……。最初に飛びかかってきたのは、30代後半に見える筋肉質の男。いきなり俺に顔に向かって右ストレートを繰り出してきた。咄嗟に目をつぶる――。が、痛みは一向に襲ってこない。目を開くと、俺の後ろからボディガードの熊谷――bearが前に出て、拳を受け止めていた。「下がっていろ、大道寺。ここは俺の出番だ」bearの声は低く、静かだった。男の拳が、今度はbearの顔面に向かう。だが、bearはわずかに体を捻り、男の腕を掴んだ。次の瞬間、「大外刈り」。男の体が宙を舞い、背中から床に叩きつけられ、

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