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第0509話

Author: 十六子
隼人は、瑠璃の顔色が一瞬で変わったことにすぐ気づいた。

「どうした?何かあったのか?」

瑠璃は不機嫌そうに彼を見つめた。

「自分が何をしたか、自分の胸に聞いてみたら?」

隼人は眉をひそめた。彼女の言いたいことがまるで見当もつかなかった。

「君ちゃんをどこに連れて行ったの?」

瑠璃の問い詰めるような声に、隼人はますます困惑した。

「千璃ちゃん、何を言ってるんだ?君ちゃんを連れて行った覚えなんて、俺にはない」

「隼人……あなたって、本当に私を苦しめないと気が済まないのね?私が心配してるのを見て、そんなに嬉しいわけ?」

「本当に知らないんだ」

隼人は困惑と焦りの混ざった目で、彼女の刺すような視線を見つめた。

「千璃ちゃん、頼む、何があったのか教えてくれ」

「隼人、蛍と長年一緒にいたからかしらね、演技が板についたみたいね」

そう言って瑠璃は皮肉に口元を歪めると、アクセルを踏み込み、車を幼稚園の正門前まで走らせた。

その道中、隼人は何度も彼女に説明を求めようとしたが、瑠璃は一切応じなかった。

そして車が停まったとき、門の前で焦った様子で立っている律子の姿が見えた。

隼人はその瞬間、状況をうっすらと察し始めた。

律子は彼を見るなり激昂し、そのまま隼人の前に詰め寄った。遠慮のない怒声が飛んだ。

「目黒隼人、あんた最低よ!少しでも人間らしい心が残ってるなら、瑠璃ちゃんの子供を返しなさい!」

隼人は冷静な表情を崩さなかったが、内心には不安が広がっていた。

「たとえ有罪と言われても……何の罪を犯したのか教えてくれ」

「まだとぼけるつもり!?」

律子は冷たく笑った。

「さっき、瑠璃ちゃんの代わりに君ちゃんを迎えに来たの。でも担任の先生が言ったのよ。もう隼人様の使いが迎えに来て連れて行ったって!」

その言葉に、隼人の表情が変わった。胸の鼓動が一気に早まった。

「やっぱり……私が君ちゃんを連れて景市を離れるって言ったから、あなたはあの子をどこかに隠したのね?」

瑠璃が怒りをにじませて問い詰めた。

「言いなさい!君ちゃんはどこにいるの!?」

隼人はようやく、誰かに陥れられるという感覚がどういうものかを知った。

だが、かつて瑠璃が受けた仕打ちに比べれば、この程度で苦しんでいられない。

彼女の疑念に満ちた瞳を見つめながら、隼人はなおも穏や
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