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第0527話

Author: 十六子
瑠璃は、隼人の掌に乗せられたその物をそっと手に取った。

彼女の瞳が揺れ、次の瞬間、記憶が彼女を強く引き戻した。

——あの、遥か昔の夏の日へ。

あの年、彼女は十歳。彼と出会った、あの十二歳の隼人。

その時、彼女は七色の貝殻を彼に渡し、「いつまでも幸せで、笑顔でいてね」と願いを込めた。

当時の隼人の目には、警戒心がいっぱいだった。それでも最後には、彼は珍しく彼女に微笑んでくれた。

幼かった瑠璃は、その時まだ何も分かっていなかった。でも後に気づいた。あの一瞬の振り返り、あのときめきこそが、一目で永遠を決める瞬間だったのだと。

その後、隼人は葉っぱで作った栞を彼女に手渡してくれた。

彼女はそれを宝物のように大切にし、日記帳に挟んで保管していた。時々、それを見返しては思いを馳せていた。

だが、ある日過去の日記を読み返そうとしたとき、日記帳そのものがどこにも見当たらなかった。あの栞も、日記と一緒に消えていた。

その時、彼女はしばらくの間、ひどく落ち込んでいた。

それは、彼——隼人お兄ちゃんがくれた、たった一つの想いの形だったから。

けれど、その長い間失われていたはずの栞が、なぜ今、隼人の手の中に?

「隼人……この栞、なんであなたが持ってるの?答えて」

瑠璃の視線は鋭く、そこには焦りさえ滲んでいた。

対する隼人の目には、ただただ柔らかな光が宿っていた。彼女がその栞をいまだに覚えている——その事実だけで、彼の心は不思議と満たされた。

「どうして俺の手元にあるかなんて、もうどうでもいい。大事なのは、千璃ちゃん、お前がこの栞を覚えていてくれたってことだ」

瑠璃の心は微かに乱れた。彼女は気持ちを押し殺しながら、栞を強く握りしめた。

「私があなたと再会して、やっと自分の想いを伝えようと願っていたとき……あなたはすでに私を否定した。私がこの栞を宝物のように抱えていた間、あなたはもう私なんて捨てていた。隼人——この栞は、もう私にとって何の意味もない。あなたが私にとって、そうであるように」

その言葉を残し、瑠璃は冷たく隼人の横をすれ違っていった。

隼人はその場に立ち尽くし、深い虚しさが心の底から広がっていった。

……

帰宅後も、瑠璃はずっと考え続けていた。なぜ、あの栞が隼人のもとにあったのか。

彼女の記憶はあの頃に遡る。

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