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第0562話

Author: 十六子
雪菜も慌ててその後を追った。表向きは心配そうな顔をしながらも、内心ではほくそ笑んでいた。

彼女は、青葉が瑠璃に怒鳴り込むのだと思っていた。だが、まさか病院に向かうとは思っていなかった。

過去の人脈を頼りに、青葉は瑠璃の病状を調べ上げた。

そしてその内容を知ると、彼女は声を上げて嘲笑した。

「はははっ、あのクソ女、本当に記憶喪失だったのか!そりゃさっき私にあんな恭しくお義母さんなんて呼ぶわけだ。なるほどね、元のバカ女に戻ったってことか!」

チャンス到来とばかりに、彼女は急いでマンションに戻り、簡単に荷物をまとめて退去した。その足で堂々とスーツケースを引きながら、隼人と瑠璃が住む別荘へ向かった。

ちょうどタクシーから降りようとしたそのとき、隼人の車が別荘から出てくるのが見えた。

一方その頃、瑠璃は丁寧に目黒家の祖父の体を拭き、毛布を整え、安らかに眠れるようにしていた。

もう少しおじいちゃんと話そうとしたとき、玄関のチャイムが鳴った。

扉を開けると、そこには仏頂面の青葉と雪菜が立っていた。

「……お義母さん?」瑠璃は礼儀正しく声をかけた。「どうしてこちらへ?」

青葉は彼女を睨みながら目を剥いた。

「この家はうちの息子の家よ?母親の私が来て何が悪いの?今日から私と雪菜はここに住むから。どうせあんたはおじいちゃんの世話してるんでしょ?ついでに私たちの世話もお願いね」

隼人が出かけているのを確認した雪菜は、勝ち誇ったように眉を上げた。

「義姉さん、なにボサッとしてるの?早く私とお義母さんのスーツケースを中に運んで、さっさと部屋の準備してよ、早くしなさい!」

そう言うと、彼女はわざと瑠璃の肩を思いきりぶつけながら、傲然と中へ入っていった。

瑠璃は二人の後ろ姿を一瞥し、玄関に置かれたスーツケースに視線を落とした。

「わあ、なんて素敵な家!広くて綺麗!」

中へ入った雪菜は、目を輝かせて興奮していた。まるで自分がこの家の主人であるかのように振る舞い、瑠璃のような女は隼人には釣り合わないと内心で見下していた。

青葉は以前にも数回来たことがあったため、そこまでの感嘆はなかったが、ソファにふんぞり返ってくつろいでいた。

瑠璃がスーツケースを引いてリビングに戻ってくると、青葉は嬉々として笑みを浮かべた。

瑠璃が「死んだはず」から戻って以来、ずっと面白く
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Comments (1)
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土御門ユリア
やっぱりこの男って言うか もうこと家の人と関わらない方がいいと思うのよね って言うかこんなに話引っ張ってどうおさめようとしてるかわからん!
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