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第0701話
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目黒様に囚われた新婚妻 第0702話
「おじいちゃんは大丈夫だよ。さっき見に行ったばかりだ」瞬はそう言いながら手を上げ、瑠璃の肩をそっと抱き寄せた。「千璃、話があるんだ。先に出よう」瑠璃は彼を見上げ、それから隼人を一瞥して頷いた。「うん」瑠璃が瞬について歩き出そうとしたその時、隼人の声が背後から追いかけてきた。「千璃ちゃん」瑠璃の足がわずかに止まったが、振り返らなかった。「千璃ちゃん、もう悲しませるようなことはしない。昨日の車の中のこと……ごめん」隼人は詳しく口にしなかったが、瞬には彼がどの件について瑠璃に謝っているのか、すぐに分かった。瑠璃は隼人に何の反応も見せず、そのまま瞬と共に立ち去った。隼人は胸の奥がざわついていた。――さっきの瞬との会話、千璃ちゃんは全部聞いてたはず。――彼女は俺のこれまでのやり方に、もっと怒ってしまったかもしれない……車の中。空気は張り詰め、異様なほど静まり返っていた。瞬は車を道路脇に停めてから、ようやく口を開いた。「千璃、さっきの話……全部聞いてたんだよね？」核心から入る問いに、瑠璃も曖昧な態度を取らず、素直に答えた。「うん、聞いてた」瞬の表情が一瞬揺れたが、彼女に向ける態度は変わらず、声も柔らかかった。「千璃、俺の気持ち、わかってほしい」「わかってる。隼人にもう私の邪魔をさせたくない、その気持ちから来てるんだよね。私のことを思っての行動なんだって」怒っていないどころか、理解を示す瑠璃の反応に、瞬は意外そうに目を見開いた。そしてその顔には、明らかな喜びが浮かんでいた。瞬は彼女の手を優しく握りしめた。「千璃、君がわかってくれて嬉しいよ。やっとここまでたどり着いたんだ。俺は、もう隼人に君の世界に現れてほしくないんだ」瑠璃は頷き、視線を瞬の黒い瞳に向けた。「瞬、一つ聞きたいことがあるの」「なに？」「……実は私より前に、隼人が目が見えなくなってたこと、知ってたんだよね？」瞬は一瞬言葉に詰まり、予想していなかった質問に軽く戸惑った。しかし、嘘をついても仕方がないと悟り、正直に答えた。「うん、知ってた」はっきりとした答えを受け取った瑠璃は、無意識に眉をひそめた。そっと瞬の手から自分の手を抜き取ると、落ち着いた声で言った。「少し一人で考えたい。あとでまた会いまし
目黒様に囚われた新婚妻 第0701話
蛍は困惑したように目を上げ、どこか軽蔑の色を帯びて言った。「彼女って、ただの調香師でしょ？」「ふん」瞬は冷ややかに蛍を一瞥し、嫌悪を隠さず言い放った。「エルナは千璃そのものだ」「……な、なに？」蛍は目を丸く見開き、その事実を信じられず、ましてや受け入れられるはずもなかった。「四宮、瑠璃があの调香師のエルナ？そんなはずないです！彼女にそんな調香の技術があるなんて……」瞬は冷たい目で蛍を見据えた。「身の程をわきまえろ」「……」蛍は呆然と目を開いたまま、完全に思考が止まっていた。自信たっぷりに仕掛けた罠が、結果として自分が最初に落ちる落とし穴だったとは思いもしなかった。まさか瑠璃が调香師のエルナだったなんて。つまり、隼人が不眠に悩まされていた三年間、最終的に安眠できていたのは、瑠璃が調合した香りのおかげだったということ！思いもよらない因縁が、瑠璃と隼人の間に存在していた。蛍は悔しさに唇を強く噛みしめたが、その頭上から瞬の冷たい警告の声が降ってきた。「もう千璃に関わるな。次があったら、お前にも失明の苦しみを味あわせてやる」「……」蛍の瞳孔が縮み、足元から這い上がるような寒気が全身を襲った。瞬は書斎に戻った後、彼が景市を離れていた間に起きたことをじっくりと整理した。しかし、車の中で瑠璃と隼人が交わしたあのキスだけは、どうしても心の整理がつかなかった。翌朝、彼は早々に家を出て、車で目黒家の別荘へと直行した。門をくぐるとすぐに、隼人が悠々とした様子で祖父を車椅子で押して屋敷から出てくる姿が見えた。瞬の目が冷たく細められ、軽く笑いながら中へと足を進めた。「盲目の男が半身不随の老人を押してるなんて、皮肉な光景だな」その声に隼人はゆっくりと足を止めた。祖父は怒気を帯びた目で瞬を見つめ、彼が冷笑を浮かべながら近づいてくるのを睨みつけた。「瞬、お前……もう勝手な真似はやめろ。お前の両親の死の真相は、お前が思ってるようなもんじゃない、わしは……」「黙れ」瞬は冷酷にその言葉を遮った。目を鋭く光らせて、冷たく言い放った。「人殺しのくせに、俺の両親を語る資格なんてない」「瞬、お前の両親は事故で亡くなったんだ。おじいちゃんには関係ない」隼人が代わりに説明したが、その声は瞬よりもさらに冷
目黒様に囚われた新婚妻 第0700話
瞬に妹がいるの？瑠璃は驚きつつも、女の説明を耳にした。「私は瞬の実の妹じゃありません。15歳の時に両親が事故で亡くなって……人生で一番真っ暗でどうしようもなかったときに、瞬さんが現れて、私を引き取ってくれたんです。今年、無事に大学を卒業できたのも全部、瞬さんのおかげなんです」瑠璃はようやく納得した。そしてその説明から、瞬が彼女を助けた理由もおぼろげに理解できた。それは、両親を事故で同時に亡くした、共通の経験があるから。その共感が、瞬にこの女への同情を抱かせたのかもしれない。瑠璃は瞬と遥を車に乗せ、郊外の一軒家に戻った。使用人たちはすでに遥の部屋を整えていた。瑠璃が「そろそろ帰るね」と言おうとしたとき、瞬は彼女の手を引き留めた。そっと彼女を抱き寄せ、優しく長い髪に手を添える。「千璃、離れていた間、君のことがすごく会いたかった」彼は淡々と語ったが、その言葉には確かな想いが込められていた。瑠璃は無表情のまま瞬の胸に寄りかかった。けれど頭をよぎるのは、隼人と一緒にいたときの感覚だった。「千璃、遥をここに住まわせてもいいか、君に聞きたくて」彼はまるで彼女の許可を求めるようにそう言った。瑠璃は瞬の腕から抜け出し、さらりと答えた。「もちろんいいと思うわ。あなたの家は彼女の家でもあるでしょうから」瞬は柔らかく微笑み、奥深い瞳でじっと瑠璃の顔を見つめた。彼の温かい指先が彼女の眉から目元へ、そして唇へと静かに滑っていく。「ここ……血の跡があるみたいだけど、ケガしたの？」瑠璃はその言葉に頬を赤らめ、唇に指を当てた。「たぶん、さっきうっかり噛んじゃったの」彼女は乾ききった血の痕を慌ててぬぐった。瞬の黒い瞳は深く揺れ、何かを思案するように瑠璃の顔色の変化をじっと見つめていた。「瞬、もう遅いから帰るね。君ちゃんと陽ちゃんが待ってるから」「うん」瞬はそれ以上引き止めなかった。その会話を、書斎の外から遥が見ていた。彼女は黙って背を向け、寂しそうにその場を離れた。瑠璃が帰宅した後、瞬はすぐに蛍に電話をかけた。蛍は、雪菜が瑠璃と青葉を誘拐した件について、細かく報告した。だが、ネット上で瑠璃を誹謗中傷した件や、隼人を誘惑しようとしたことは一切口にしなかった。彼女は瞬を恐れていた。この男は、彼女を死刑から
目黒様に囚われた新婚妻 第0699話
瑠璃が「瞬」の名前を言い終わるその前に――隼人はすでに俯き、彼女の唇を塞いでいた。狭い車内、淡い光に包まれた空間で、そのキスは突如として、けれどもあまりにも真剣で。驚いた瑠璃は瞳を見開いたまま、突然唇を奪った男の顔を見つめた。彼は目を閉じ、まるで彼女の存在すべてを噛み締めるかのように、深く、長く、そして愛おしそうにその瞬間を味わっていた。頬にかかる隼人の息が熱を帯び、瑠璃の顔はみるみるうちに火照っていった。ハッと我に返った彼女は、反射的に隼人を突き放そうと手を上げた。だがその動きが、逆に彼をさらに強く抱き寄せさせた。まるで彼女の拒絶すら、彼の情熱を煽る燃料になったかのように。瑠璃は必死で彼のシャツを握りしめ、抵抗の意思を示したが、隼人に引く気配はなかった。ついに――「んっ！」彼女は彼の唇を思い切り噛んだ。鋭い痛みが走り、隼人はようやくキスを解いた。唇の間には、ほんのりと鉄のような味がにじむ。それでも隼人は名残惜しそうに瑠璃から身を引いた。彼女の唇にかすかに血の色が浮かんでいるのを見て、もう一度そっと顔を近づけてキスを落とした。だがその次の瞬間、彼の頬に彼女の平手が飛んできた。彼女の瞳には、怒りが燃えていた。彼はわかっていた――衝動的だった。けれど後悔はなかった。その証拠に、隼人は低く、けれどはっきりとこう言った。「……あの男を愛してるなんて、もう言わせない」その言葉は、子どものような固執と、狂おしいほどの執着が滲んでいた。「隼人、あなたにそんな権利ある？！」瑠璃は睨みつけながら、鋭く問い返す。「あなたを愛していた時、私を大切にした？今になって、なぜ他の人を愛するななんて言えるの？！人間違いたって一言で済むだと思ってるの？」怒りのままに叫んだ彼女の呼吸が落ち着くと、少し低い声で続けた。「私は記憶を失っている。でもあなたの母親が言ったの――私の目を奪って、顔を傷つけたのは蛍だって。たとえ直接手を下していなくても、あなたは蛍の暴走を止めなかった」「……降りて」その冷たい言葉に、隼人はじっと彼女の顔を見つめた。「今は顔を見たくない」そして静かに、車を降りた。瑠璃はすぐに車を発進させ、彼を残して去っていった。頬には彼女の手のひらの痕が残り、唇には痛みが残っていた。だが彼
目黒様に囚われた新婚妻 第0698話
「瑠璃、このしつこい悪霊みたいな女め！」蛍は拳を強く握りしめ、燃え上がる嫉妬と怒りを懸命に押さえつけていた。だが、その瞳の奥では妬火がさらに勢いを増し、今にも瑠璃を灰にしてしまいそうなほどだった。エレベーターの中。隼人は瑠璃の手を取り、そのまま中に入っていく。密閉された空間には、二人きり。「千璃ちゃん……お前が現れるって、分かってたよ」隼人は予想していたかのように穏やかに言った。瑠璃もすでに悟っていた。「あなた、最初から私が後をつけてるのに気づいてたんでしょ？ドアをわざと開けっぱなしにしてたのも、わざとよね？」隼人は頷いた。「万成明日香がどこまでやるつもりか、見てみたかっただけだ」「じゃあ、もう分かったでしょ？彼女はあなたを好きで、あなたに体を差し出そうとしてた」その言葉に、隼人は微笑んだ。だがその笑みの奥には、かすかなやきもちの匂いが漂っていた。彼は一歩近づき、彼女の目を見つめた。「千璃ちゃん……やっぱり俺のこと、気になってたんだね」「……隼人、あの女と同じで、思い上がらないで」瑠璃はあくまで冷たく笑った。言葉が落ちると同時に、エレベーターの扉が開く。彼女は一度も振り返らずに出て行った。隼人はすぐさま後を追い、駐車場まで着いてくる。「千璃ちゃん、千璃ちゃん……」彼は名前を何度も呼び、たとえ無視されても、語りかける声には温もりと忍耐があった。そう、彼の今の姿は、かつて瑠璃が味わった苦しみを、彼自身が今歩いているようなものだった。それでも、まだ足りない――あの頃の彼女に比べれば。瑠璃が車に乗り込むと、隼人もすかさず助手席に乗り込んできた。「何しに乗ってきたの？」彼女がエンジンをかけようとしたところで、手を止めて彼を睨む。「降りて」隼人は普段なら彼女の意志に従うが、今回はそうしなかった。「隼人、降りなさい」彼はふいに静かに、しかし真剣に言った。「千璃ちゃん……もう、自分に嘘をつくのはやめよう」瑠璃は理由が分からないまま、彼の澄んだ目と視線を交わし、ふわりとした眉をひそめた。「……嘘？何のこと？」彼の視線は真っすぐで、どこまでも真剣だった。「千璃ちゃん、俺はお前を愛してる。もう、平気なふりをするのはやめた。お前を瞬に譲るなんて、二度としない」
目黒様に囚われた新婚妻 第0697話
本気で隼人が蛍に応じるのだと思っていた。だが、次の瞬間――彼は手にしたワイングラスを高く掲げ、その中身を勢いよく蛍の顔面にぶちまけた。「きゃっ！」蛍は思わず悲鳴を上げる。まさか隼人がこんな行動に出るとは思ってもいなかった。ワインまみれになった顔で、呆然と立ち尽くしながら彼を見上げる。「隼人……なんで、私にワインを？」隼人は一瞥すらくれず、嫌悪感をあらわに顔を背けた。「これは教えてやってるんだ。ワインは人の気を緩めるだけじゃない。目を覚まさせることもできる」その声は冷たく、美しくも鋭い。「どうだ、少しは目が覚めたか？」蛍は一瞬言葉を失い、腹の底で怒りを煮えたぎらせながらも、無理やり無実なふりをした。「私はただ、あなたの視力を早く戻すために……これも心理治療の一環なのよ」「へえ、随分とユニークな治療法だこと」その声に続いて、瑠璃がゆっくりと現れた。蛍は言葉を失い、慌てて振り返る。そこには、優雅な足取りで部屋に入ってくる瑠璃の姿があった。「瑠璃？」驚きの表情を浮かべるも、すぐに切り替えた。「碓氷さん、どうしてここに？どうやって入ったの？」瑠璃は微笑みを浮かべ、ゆっくりと室内を見回す。「あなたみたいな心理治療の名医が、どんな治療をするのか見学に来ただけよ」視線は、透けるようなナイトガウン姿の彼女の装いに止まる。「なるほど。音楽を流して、お酒を飲ませて、それで患者を癒やすのが貴女の治療なのね？しかもそんな紙より薄い服で？」「……」蛍の表情がこわばる。慌てて隼人に向き直り、必死に取り繕う。「隼人、違うのよ！碓氷さんが言ってることは全部デタラメよ。私はただ、あなたにリラックスしてもらいたくて……それだけ。服だって普通のものよ。私は医師としての誇りと倫理を守ってる。決して不適切なことは……」声は正論を吐いていたが、その表情には軽蔑と挑発がありありと浮かんでいた――どうせ隼人には見えないと、油断しきっていた。「碓氷さん、もしかして……私と隼人の仲を引き裂きたいの？彼の中での私の印象を壊したいのよね？でも残念、私は隼人の現恋人。あなたはもう、ただの元妻なのよ」現恋人の部分に強く力を込め、顔には勝ち誇ったような笑み。だが――その笑みは、隼人の一言によって粉々に砕
