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第4話

作者: クレヨンおじさん
彼女が別荘の二階で、長いあいだ使われていなかった一室のアトリエを見つけた。

キャンバスも絵の具もイーゼルも、すべてが揃っている。ただ、薄い埃が静かに積もっているだけだ。

まるで感情の吐け口を見つけたかのように、晴美は待ちきれないほど慌ててその中へ駆け込んだ。

彼女はありったけの怒り、悔しさ、無念さ、そして絶望を、キャンバスに注ぎ込んだ。

彼女は重く沈んだ色調と、歪み、もがくような線で、見えない檻に閉じ込められた鳥たちを描き出した。

その鳥たちは鋭い眼差しをたたえ、屈しない誇りをにじませながら、見えぬ壁にひたすら身を打ちつけていく。羽は乱れ、暗紅色に染まり、まるで血の涙を流しているようだ。

彼女はこのシリーズに「囚われの鳥」と名づけた。

創作に没頭している時だけ、彼女は現実の一切を忘れ、芸術の世界で束の間の息抜きを得ることができた。

一筆一筆が、運命への無言の抗議でもあった。

修二が彼女を訪ねて来たとき、時折アトリエの入り口に立ち、晴美がほとんど決死の覚悟で筆を走らせる背中を、そして彼女の筆先から生まれる痛みと葛藤に満ちた絵を、静かに見つめていた。

彼の瞳の色が深く沈んでいったが、結局、何も口にはしなかった。

そんなある日の午後、雨子が予告もなく現れた。

彼女は高価なスキンケア用品とお菓子の袋をいくつか手に提げ、晴美に向かって心配そうな笑みを浮かべた。

「晴美ちゃん、一人でここにいたら退屈してしまうでしょう?様子を見に来たの。いろいろ持ってきたわ」

晴美は冷ややかに一瞥をくれただけで、そのままアトリエへと戻っていった。

雨子はメイドたちに苦笑を向けると、自分のペースで別荘の中をひと回りし、そして偶然、そのアトリエへと足を踏み入れてしまった。

イーゼルに掛けられた、まだ完成していない暗く沈んだ色調の「囚われの鳥」を目にした瞬間、彼女の瞳の奥に一瞬、鋭い光が走った。

「まあ、晴美ちゃん、まだ絵を描いているのね?本当に……個性的だわ」

雨子はスマホを取り出し、何気ないふりをして別荘の内部を撮りながら言った。

「ちょっと写真を撮っておくわ。帰ったらうちも少し模様替えしようかしら。修二さんのセンスって、本当に素敵ね」

晴美は彼女に背を向けたまま、相手にする気もなく、雨子のカメラのレンズが長いあいだ絵に向けられていることに気づかなかった。

その夜、悟は雨子から送られてきた写真を眺めていた。そこには、陰鬱で怒りに満ちた、抗いの気配すら感じられる絵の数々が写されていた。

続いて表示された雨子の音声メッセージは、一見心配げな口調でありながら、その一言一言が鋭く胸を突くものだった。

「おじさん、本来なら余計な口出しはするつもりなかったんですけど…今日、晴美ちゃんのところに行ったら、彼女が描いてる絵がどれも恨みや不満に満ちていて……どうやら、両家の決めたことに納得していないみたいなんです」

「ちょっと心配で……おじさん、彼女にもう少し話を聞いてあげた方がいいんじゃないでしょうか?」

「何と言っても私たちは政略結婚で協力するのであって、争うためじゃありませんから。もし彼女が婚約の席で何か問題を起こしたら、それこそ大変なことになりますので……」

悟の命令は容赦なく、そして驚くほど迅速に下された。

修二が手下を率いてアトリエに押し入った時、晴美はちょうどイーゼルに立てかけた「囚われの鳥」の未完成画に、最後の筆を入れているところだ。

手元の絵の具が尽きたのに気づき、取りに振り返った瞬間、彼女の背後には黒々とした人影の群れが立ち並んでいるのを見て、息をのんだ。

「何をするつもりなの!?」

晴美は彼らの手に握られたハンマーを見た瞬間、鋭い視線で先頭に立つ修二を睨みつけながら、勢いよく両腕を広げてイーゼルの前に立ちはだかった。

「私の絵に触らないで!」

修二の目に一瞬、ためらいが見えたが、父の厳しい言葉が頭をよぎると、無理に心を閉ざした。

彼は彼女の問い詰めるような視線を避け、低く、しかし逆らうことを許さぬ声で言った。

「晴美、どいてくれ」

「いやよ!」

晴美の声は涙で震えていた。「修二、触ってみなさいよ、できるものなら!」

だが、彼女の抵抗など圧倒的な力の前ではあまりにも無力だった。

修二が連れてきたメイドたちは、あっさりと彼女の身体を押さえつけた。どんなに暴れても、泣き叫んでも、晴美はその場に立ちすくみ、無情に振るわれるハンマーや棒がイーゼルを打ち壊し、キャンバスをずたずたに引き裂いていくのを、ただ目を見開いて見つめることしかできなかった。

ドン!

ガシャーン――

イーゼルが倒れ、キャンバスは無残に引き裂かれ、絵の具が飛び散った。それはまるで、今まさに砕け散った彼女の心そのもののようだ。

彼女が宝物のように大切に育て上げた作品は、わずか数分のうちに、無残な破片と木屑の散らばる有様へと化した。

「いやっ!やめて!!」

晴美は声を枯らして叫び、絶望が冷たい潮のように彼女を飲み込んでいった。

崩れ果てた残骸を見つめ、そしてその破壊を静かに指揮した男を見やると、血が一気に頭に上り、視界が暗転した。次の瞬間、彼女の身体は力を失い、柔らかくその場に崩れ落ちた……
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