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第3話

Author: 佐藤光絵
私、生まれ変わった。

部屋の中に飾られた華やかな正月の装飾を眺め、外から聞こえてくる紅白歌合戦のオープニングを耳にして、今が高校三年生の正月であることを知った。

外に出ると、いきなり顔に雑巾が投げつけられた。

「何やってるの?親戚みんな待ってるんだから、早く掃除をしなさい!」

顔から雑巾を取り、古びたセーターに目を落とした。

顔を上げると、妹の由珠が、ショーウィンドウで見た高級なセーターを身にまとい、ピアノの前に座っていた。

ちょうど優雅なピアノ曲を弾き終えた。

親戚たちが拍手喝采していた。

叔父は妹を褒め、伯父は励まし、いとこたちが妹の周りに集まって離れない。

部屋の空気は和やかそのものだった。そんな中、誰かがふと口にした。

「由珠ちゃんがこんなにすごいなら、お姉さんの砂織ちゃんもきっと素晴らしいんじゃない?」

親戚たちの視線が私に向けられる。しかし、前世のように俯いて、両親に「恥さらし」と罵られることはもうなかった。

私はこの人生で初めて、輝くような笑顔を見せた。真っ白で整った歯を見せながら、

「いいわよ!」と答えた。

案の定、両親が止めに入る。

言葉も前世と全く同じだった。

父は「砂織が由珠と比べられるわけないだろ。絶対無理だ」と言った。

「そうそう、この子は本当に不器用で、妹とは全然違うのよ」母もそう言った。

親戚たちの表情は、すでに全てを物語っていた。

軽蔑、不満、哀れみ、困惑、そして「やっぱりな」といった顔。

私は何も言わず、由珠の潔癖症を知っていながら、その手に雑巾を押し付けた。

彼女が怒りを爆発させる前に、私の十本の指がピアノの鍵盤を飛ぶように走った。

激しいリズムと情熱的なメロディーが、指先から溢れ出す。目にも止まらぬ速さで弾き続けた。

最後の音が鳴り終わると、部屋中が静まり返った。

その静寂を破ったのは、突然鳴り響いた拍手の音だった。

「パチン!」

続いて、熱狂的な拍手が部屋を満たした。

叔父は驚嘆した表情で言った。「すごいな!俺みたいな音楽の素人でも、砂織ちゃんがすごいってわかるよ!」

伯父は感心した様子で続けた。「これは世界的なピアニストのレベルかもしれないな。由珠ちゃんもすごいけど、砂織ちゃんの方がさらに上手いんじゃないか。君たち親は本当に謙虚すぎるよ!」

いとこたちは教えを乞うたり、一緒に写真を撮りたがったりして、私を囲む。

人生でこんなにたくさんの賞賛や認められる瞬間を味わったのは初めてだった。

私はもう、部屋の隅で羨ましそうな目をして縮こまる存在ではない。

両親が言うような無能でも無価値でもなかった。

本当は素晴らしい存在だったのだ。

叔父がこれからの計画を尋ね、伯父が大会参加のために資金援助を申し出てくれたそのとき、

由珠が唐突に口を開いた。

「お母さん......お姉ちゃんがこれを......私、苦しい......」言葉を最後まで言い切ることなく、彼女はその場に倒れ込んだ。父は急いで彼女を抱き上げ、母と共に部屋を後にした。

言葉を最後まで言い切ることなく、彼女はその場に倒れ込んだ。

父は急いで彼女を抱き上げ、母と共に部屋を後にした。

母は私の頬を平手打ちし、険しい口調で怒鳴った。「あんたは偉いね、ばっかり目立とうとして!おかげで由珠が怯えちゃったじゃないの!それに雑巾を渡すなんて、どれだけ菌がついてるかもわからないの?由珠に何かあったら、どうするつもりなのか、ちゃんと考えときなさい!」
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