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第880話

Auteur: 栄子
大輝は眉間を揉みながら言った。「広報部に連絡して、彼女と話をさせろ。内容は、俺が芸能プロダクションを立ち上げる予定で、小林さんは共同経営者になるってことにしろ。それから400億円を俺が肩代わりしたというのは、彼女が俺に借りただけのことだと強調しろ。

あと、輝星エンターテイメントとは円満に契約解除したんだ。今後も重要なパートナーとして協力していくつもりだから、会社の将来性と、女性の自立といった話題に話をすり替えておけ。1時間以内に広報部から、対応策の文案を提出させろ」

「承知いたしました。すぐに伝えます」

......

大輝の指示を受けて、広報部の担当者はすぐに杏に連絡を取った。

杏は、自分が広報に協力すると伝えれば、大輝はきっと感謝して、自分から連絡してくると思っていた。

しかし、連絡してきたのは立響グループの広報担当者だった。

担当者は事務的に、大輝の意向を伝えた。

400億円は自分が借りただけだと説明してほしいと言われ、杏は呆気に取られた。

おかしい。

これは自分の予想と全く違う。

杏が何も言わないので、広報担当者は尋ねた。「小林さん、何かご不明な点はございますか?」

杏は我に返り、尋ねた。「では、私が説明した後、石川社長はどういうされるつもりなのでしょうか?」

「申し訳ありませんが、私は広報の仕事しか担当しておりません。今後の協力関係については、小林さんご自身で石川社長に確認していただいた方がよろしいかと思います」

杏もそうしたいのは山々だった。

しかし、今は大輝が全く電話に出てくれないのだ。

そうでなければ、わざわざ他の人に頼ったりするものか。

しかし、今の状況では、焦っても仕方がないことも杏は分かっていた。

事態は大きく広がってしまった。

真奈美の性格では、黙っているはずがない。

きっと、この数日、大輝と真奈美は400億円のことで大喧嘩しているに違いない。

そう考えると、杏の不安は少し和らいだ。

「分かりました。では、石川社長の言うとおりにします」杏は優しい声で、素直に言った。「石川社長のお役に立てて嬉しいです。ただ、新井さんが400億円のことで石川社長と揉めないか心配していました。結婚したばかりなのに、私のせいで二人の仲が悪くなったら申し訳ないですから」

「小林さんのご理解、感謝いたします」担当者は少し間を置
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