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第82話

Author: 連衣の水調
胤道は拳を握りしめた。

「彼女は、俺がいなきゃダメなんだ」

一語一語、搾り出すように言ったその言葉には、どこか自信のなさと迷いが滲んでいた。

静華は、かつて本当に彼を必要としていた。

何度も彼の帰りを待ちわび、いつも遠回しに電話をかけてきた。

彼が煩わしそうにするまで、名残惜しそうに通話を切った。

けれど今の彼女は、去ると言えばすぐに去ってしまう。

薬を盛られても、彼を頼ろうとはせず、他人に助けを求めた。

二人の間には、もう取り返しのつかない変化が生まれていた。

そう思うと、胤道の胸にはどうしようもない不安が広がった。

「……あんたは、ほんとに……!」

母はふらつき、目の前がくらんだ。

りんは我に返り、すぐに母の体を支えた。

「お母さん、大丈夫ですか?」

彼女は慌てて胤道に言った。

「胤道、もうこれ以上何も言わないで。一度、外に出てくれない?お母さん、もともと体が強くないの。病院に逆戻りさせる気?」

そう口にした瞬間、心の奥で不安がざわついた。

胤道が一番気にしているのは、いつだって母親の体調だった。

それなのに今日、彼は静華のために、母にまで反抗している。

静華は――彼にとって、いったいどれほどの存在なのか。

胤道は目を伏せた。

「わかった。外に出る。明け方まで玄関前に立って、自分の無礼を罰す。でも、答えは変わらない。

母さんが体に負担をかける必要はある。俺たちのことは、どうか放っておいてください」

そう言い残して、彼は静かに部屋を出た。

りんは母を部屋へ連れて行き、二階から下を覗いた。

胤道は、本当に玄関の前に立っていた。

身動きひとつせず、凍えるような風が吹きつける中でも、まるでその場に根を張ったかのようだった。

静華なんて、たかがあの女のために――

どうして、ここまで?

りんは恐ろしくなった。

これで静華は完全に、胤道の人生から消えると思っていた。

けれど、今の光景は……むしろすべてが悪化しているようにしか見えなかった。

慌てて階段を下り、上着を手に取った。

「胤道、寒すぎるわ。しかも服が濡れてる。風邪ひいたら大変よ。体壊したら、私が心配で仕方ない……」

そう言って、彼の肩にそっと上着をかけた。

その時、胤道が突然、彼女の手を強く掴んだ。

「……母さんは、どうしてお前の足のケガが森の仕業
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Comments (5)
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KOKORO
人の言葉に惑わされて、ころっと騙されるこの男大丈夫か?これで経営とかしてたら、あっという間に倒産するでしょ。
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Iroha
お母さんの言ってることは割と正しいよ……普通嫁以外の女囲ってるってなったらあの反応すると思うし、ただ男が馬鹿すぎて……これでまたヒロイン責めて揉めて死にかけてを永遠に繰り返す地獄なんだろうな
goodnovel comment avatar
小沼恵美
お前が死ねって思う!
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