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第13話

Author: 雲間探
麗美の声だった。

玲奈は声のする方を見た。

麗美と智昭がいた。

玲奈は足を止めた。

智昭はタバコを吸っていて、何も答えなかった。

距離が遠く、智昭は逆光に立っていたため、玲奈には彼の表情が見えなかった。

麗美は言った。「あなたの気持ちも分かるわ。優里には何度か会ったけど、まだ25歳で世界トップクラスの大学で博士号を取得して、家族の事業もうまく取り仕切っているみたいね。綺麗だし、性格も野性的で手なずけがたい——彼女の優秀さと輝きは、ほとんどの女性にはない魅力よね。確かにあなたを惹きつけるだけの価値はあるわ。でも出自があまり良くないわよ。智昭、本当によく考えたの?あなた……」

「どんな女性を望むか、自分でわかっている」

「でも……」麗美は眉をひそめた。玲奈のことは認めていなかったが、優里のことも認めていなかった。何か言いかけたが、智昭の目に不快感を見て、諦めた。「そこまで庇うなんて、一言も言えないのね。もういいわ」

玲奈はそれを聞きながら、手を握りしめた。頬が夜風に当たって痛かった。

苦笑して、これ以上聞く気になれず、その場を離れた。

玲奈が立ち去ると、麗美は何かを思い出したように言った。「そうそう、玲奈が辞表を出して、会社を辞めるって言ってたけど?」

「一昨日の午後、和真から彼女がミスをしたと聞いた。和真はかなり怒っていて、会社の手続きに従って解雇するように言っておいた」

麗美は嘲笑うように笑った。「なるほどね。さっき彼女が言った時は、まるで自分から辞めるみたいな言い方だったから、おかしいと思ったわ……あの、あなたにべったりくっついているような性格で、自分から辞めるわけないもの。解雇されたのね、あはは~」

智昭は何も言わず、まるでこの件は自分とは全く関係ないかのようだった。

玲奈は二階に上がり、部屋に戻ろうとした時、階下に向かおうとしていた悠真とぶつかりそうになった。

二人とも驚いた。

悠真が先に謝り、心配そうに「お姉さん、大丈夫?」と声をかけた。

悠真は藤田家で、老夫人の他に唯一玲奈に優しく接する人だった。

玲奈は首を振り、微笑んで答えた。「大丈夫よ」

玲奈と智昭が結婚した時、悠真はまだ小さく、多くのことを理解していなかった。

知り合って何年も経つが、彼はずっと玲奈のことを美しくて優しい人だと思っていた。結婚後も兄と争うこと
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Comments (2)
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緒方咲子
夫と娘に、腹が立つ!! 周りの人間にもムカつくわ!! 早く離婚の意志が、伝わりますように!! 夫達に、目にものを、見せてやって!! 早く離婚して 後悔の涙を、流させて、スッキリしたい!!
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早苗
夫も娘も最悪 早く捨ててしまえばいいのに… 相手の女と娘に重い報復を 夫にも会社を滅びさせて更なる重い報復を与えて欲しい 読んでて胸が苦しくなる
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