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第203話

作者: 雲間探
玲奈の落ち着いた様子は、まるで彼らが最初から手を組むことを知っていたかのようだった。

淳一は特に深く考えず、礼二が事前に彼女に話しておいたのだろうと思っただけだった。

彼は素っ気なく言った。「よろしく」

店に着いて車を降りると、玲奈と礼二はそのまま階上へ向かおうとしていたが、淳一の視線が鋭く、反対側の入口から入ってきた智昭と優里をいち早く見つけた。

彼は足を止めて声をかけた。「藤田さん、大森さん」

智昭と優里も、彼らの姿に気づいた。

智昭が軽く頷いた。「徳岡社長、湊さん」

礼二は口元だけで笑みを作りながら言った。「藤田社長」

そう言うや否や、彼が何か言う前に続けて言った。「話の邪魔はしないよ。私たちは先に行くから」

そうして玲奈と一緒にエレベーターへと乗り込んだ。

以前藤田総研で会ったときから、淳一は礼二が智昭をひどく嫌っていることに気づいていた。

今回の礼二はそれを隠す気さえなかったようで、淳一も少し驚いた。

礼二と智昭の間に一体どんな因縁があるのか、彼には分からなかったが、少なくとも智昭の方は、礼二に対して特に敵意を見せていなかった……

智昭と優里は、礼二と玲奈が去っていった方向から視線を戻した。

優里が言った。「徳岡社長が湊さんと一緒に来るってことは、契約がまとまったんですね?」

淳一は笑みを浮かべた。「そうです」

以前、淳一と長墨ソフトの取引は成立しなかった。彼女には分かっていた。淳一が自分のせいで玲奈を怒らせ、そのせいで礼二まで彼を毛嫌いするようになったのだと。

以前、礼二は淳一との協力には一切応じる気がなく、その姿勢は頑なだった。

彼女は、淳一も自分たちと同じように、玲奈のことで長墨ソフトとの取引を逃すものだと思っていた。

まさか淳一が契約をまとめるとは、予想外だった。

つまり、礼二にとって、いくら玲奈が大事でも、いざ自分の利益がかかれば、そちらを優先するということか。

つまり、玲奈は礼二の中で、思っていたほどの存在ではないということ?

そう思うと、優里はふっと笑みを浮かべた。「おめでとう」

淳一は彼女の祝福に軽く笑い、「ありがとう」と返した。

その流れで、淳一は智昭に向かって言った。「そういえば藤田社長、御社のあるプロジェクトに興味がありまして。いつならお時間がありますか?一度お話できませんか?」

智昭
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コメント (4)
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お神楽
礼二いいわーやっぱり玲奈の親友女子キャラだね。
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源谷小百合
人格の面から言うと優里より玲奈のほうがずっと素敵だと思うな それがわからない人たちは本当のクズです 痛い目みてください
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眞弓
早く更新して下さいね...️待ってます。
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