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第247話

作者: 雲間探
ケーキは冷蔵庫に入れた。

茜は階上でちょうどお風呂を終えたところで、携帯が鳴った。

電話の相手は智昭だった。

茜は電話に出た。「パパ?」

「さっき連絡があった。明日の午後、お前のおじいさんが帰ってくる。明日、学校が終わったらお前を迎えに行くから、家で一緒に夕飯を食べよう。ママにも伝えておいて」

智昭の父、藤田政宗(ふじた まさむね)は政府関連の仕事に就いている。

政宗は仕事が忙しく、年に数回しか家に戻ってこない。

藤田おばあさんが倒れた日の早朝、政宗は一度戻ってきたが、夜明け前にはまた出発していた。

今も藤田おばあさんは入院しているため、政宗は元旦にあわせて2日間の休暇を取り、彼女に付き添うため帰省したのだった。

茜は智昭の言葉を聞いて返事した。「うん、わかった」

そう言いながら、ふと思い出した。電話では智昭が「お前を迎えに行く」と言っていた。「お前ら」ではなかった。

つまり、玲奈はその中に含まれていない。

彼女は玲奈に尋ねた。「ママも一緒に帰ってご飯食べないの?」

これまで政宗が帰ってくると、智昭が不在でも、藤田おばあさんは必ず玲奈と茜を本宅に呼んでいた。

回数も多かったので、まだ小さい茜の頭の中にも「おじいちゃんが帰ってきたら、私たちは本宅でご飯」という印象が残っていた。

茜が玲奈に問いかけようとしたとき、智昭が先に言った。「ママは明日用事がある」

「そっか」

茜はスピーカーモードにしていたので、そのやり取りは全部、玲奈にも聞こえていた。

政宗が帰ってくるという話は、玲奈にとってもこの時が初耳だった。

彼女と智昭はすでに離婚手続きを進めている。

今となっては、藤田家に行って智昭の家族に会いに行く必要はもうないのだ。

そして智昭も、それを分かっているようだった。

だから、彼女が何も言う前に、先回りして「藤田家に帰れない理由」を用意していた。

智昭はそれ以上多くを語らず、すぐに電話を切った。

翌日。

午後、辰也と彼の会社の中核技術スタッフが長墨ソフトに仕事の打ち合わせで訪れた。

ここ最近、辰也は業務面で非常に協力的で、玲奈にとっても多くの手間が省けていた。

そのため、玲奈も以前よりいくらか丁寧に接するようになっていた。

辰也が到着すると、玲奈はすぐに手元の仕事を止めて彼を迎えた。

一時間ほど経った頃、辰也のス
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