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第260話

作者: 雲間探
重野社長との協力はとても順調に進んだ。

二日後、双方が契約書にサインを終えると、重野社長は他の予定があるため長墨ソフトを後にした。

半日かけて働き詰めだった玲奈と礼二は会議室に戻り、温かい飲み物を飲んで少し休憩していたところに、浅井が分厚い招待状の束を持って入ってきて、その束をテーブルの上に置いた。「ここ数日で届いた年末のパーティー招待状、全部まとめてあります」

中にはざっと二、三十通の招待状があった。

淳一、辰也、藤田グループ、藤田総研からのものも含まれていた。

玲奈と礼二が目を通すと、大森家からの招待状も届いていることに気づいた。

大森家からの招待状の中には、礼二だけでなく玲奈の名前までしっかりと記されていた。

礼二は会議室の椅子に斜めに座りながら、大森家の招待状を手に取って笑った。「うちの会社って、意外と人気あるんだな」

人気というより、彼らが最近手がけている2つのプロジェクトとCUAPが、大森家にとって致命的な魅力を放っていたのだ。

だからこそ、大森家は玲奈の名前まで記載して、頭を下げるような形で招待状を送ってきたのだろう。

だが彼らは知らない。この長墨ソフトの垂涎の技術が、実は……

そう思うと、礼二の目元に笑みがさらに濃く浮かんだ。

実際には、大森家だけではなく、徳岡グループ、藤田総研、藤田グループなどからの招待状も、すべて玲奈の名前が抜かりなく書かれていた。

ただ一つ違ったのは、辰也からの招待状だった。

彼は二人を分け、それぞれ個別に招待状を送ってきたのだ。

礼二は「へえ」と言って舌打ちしながら言った。「島村辰也、わりと気が利くじゃん」

玲奈と辰也が最後に会ったのは、彼が彼女に「あなたは教授の弟子か」と尋ねたあの朝のことだった。

礼二の言葉を聞いても、玲奈は何も言わなかった。

礼二は招待状を眺めながら言った。「徳岡グループ、藤田総研、藤田グループ、大森家は全部パスしよう。島村グループとか、うまく付き合えてるところだけ行けばいいだろ」

徳岡グループなどの会社については、こちらから人を遣って贈り物でも届けておけば、形式的な付き合いとしては十分よ。

もちろん、藤田グループや藤田総研、大森家のような会社には、贈り物すら必要ない。

縁を切った方が早い!

「うん」

玲奈も同じ気持ちだった。

彼女と礼二は、会社の中心業務
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