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第360話

Author: 雲間探
瑛二がそう思っていたとき、淳一がまた尋ねた。「瑛二、田淵さんとうちのオヤジ以外で、真田教授の連絡先を知ってるやつ、お前の知り合いの中にいるか?」

瑛二はそう答えた。「いないよ」

そう言った後、何かを思い出したように彼は続けた。「でもさ、大森さんって真田教授に会ったことあるんだろ?たぶん真田先生の連絡先も知ってると思うし、もし真田先生に話せば解決するってんなら、大森さんから連絡するんじゃない?」

淳一は言った。「それも考えたけどさ、彼女は当事者だろ?よっぽどのことがなきゃ、自分から真田先生に湊礼二のことを悪く言うなんてできないだろ?」

淳一はそこまで気を回してた。

どうやら、思ってる以上に優里のことが気になってるらしい。

淳一が言った。「いいや、他のやつにも聞いてみるよ」

「うん」

玲奈も真田教授の教え子だってことは、礼二や玲奈たちが外に話してない以上、機密扱いなんだろう。

そうなると、淳一にそれを話すのは、やっぱり無理がある。

そう思った瑛二は言った。「玲奈と何度か話したことあるけど、彼女は君が言うような人には見えなかったよ」

「淳一、本当に玲奈が湊さんが大森さんを好きになるのを心配して、何度もあいつを狙ってたって思ってんのか?その間に誤解とかあったんじゃないか?大森さん本人か他の人に話聞いて、実際どんな因縁があるのか確かめてみたら?」

淳一はその言葉を聞くと、眉をひそめた。「瑛二、お前はあいつの肩持ってんのか?」

瑛二は淡々と返した。「違う、事実を言ってるだけだよ」

だが淳一は、瑛二が玲奈にうまく丸め込まれてると感じていた。

「誤解なんてあるわけない。俺はこの目で見たんだぜ、間違いようがねえ。それより、お前こそ見かけに騙されるなよ」そう言ってから、少し声を緩めた。「もうあいつの話はいい。お前が休みに入ったら、また飲もうぜ」

瑛二もまだやることがあったため、それ以上は話さず、淳一との通話を切った。

……

優里は外で待ち続けていたが、玲奈も礼二もまったく相手にせず、そのまま放っておいた。

優里もまた、それでも待ち続けるつもりだった。

だが、その日の昼には別の用事があり、礼二に会えないまま、仕方なくその場を後にした。

その後の二日間も用事に追われ、長墨ソフトに行って礼二を待つ機会はなかった。

木曜日、ようやく時間ができた彼女は
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