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1.戦闘開始

last update Date de publication: 2025-07-22 15:57:00

その都市は長い戦いの末、荒廃していた。倒れたビルはミサイルの爆撃によって穴が開き、街はいたるところで硝煙が上がっている。

俺は瓦礫でところどころふさがれた道を、でかいショットガンをかつぎながら特殊部隊の仲間とともに駆けていた。敵の拠点である巨大な工業団地にたどり着く。

(ここを占領すれば、俺たちの勝ちだ)

掲げられたフラッグのそばには敵の防衛部隊が待ち構えていて――。俺は物陰に隠れながら、仲間からの合図を待った。

……といっても、これは本物の戦争をしているわけじゃなく、ゲームの中の世界だ。

リリース以来、世界で圧倒的な人気を誇っているオンラインゲーム『ゼロ・グラウンド』。一人称視点のシューティング(FPS)とリアルタイムで進む戦略ストラテジー(RTS)とが合わさった、空白の都市をめぐって4つの国の特殊部隊が争いを広げるウォーゲーム。

そのゲームの中の戦場で――俺たちは出会った。

どこかで鳴る、妙に静かな銃声……。振り返ると、仲間がひとり倒れていた。

(サイレンサーか……! どこから撃ってきたか、わかりにくいな)

相手の場所を特定する前に、もうひとりの仲間も回復不可能な状態にされる。

「クソっ、こんな短時間で……!」

マップを見ると、占領したはずの拠点がふたつ取り返されていた。ゲームパッドから手を離し、感情にまかせて机を叩く。

(ありえないだろ、こんなの!)

普段からチームを組んでいる仲間じゃないものの、ここはゲームの中でもかなり高ランクのプレーヤーが集まる場所だ。そんな簡単にやられるような奴らでもない。

(戦況をたったひとりで変える、なんて……。そんなことができるの、プロのプレーヤーくらいだ)

相手が何者かについて考えながら、絶対に狙撃されない場所まで移動する。ポイントに着いてひと息ついたところで、背中を撃たれた。

(まさかっ……! いったい、どこから……)

見上げると、給水塔の上に『ヴァイパー』という機動力の高いキャラクターが、ライフルを手にこっちを見下ろしていた。あっと思って撃ち返したときには、相手は塔の上から飛び降りていて――。空中で持ち換えたんだろうナイフで、あっという間にキルされてしまった。

アカウント名:okaP

(……オカ、ピー……オカピ?)

ふざけた名前だと思った。昔どこかで見た図鑑に、そんな動物がいたような気もする。俺は負けたイラ立ちにまかせて、メッセージを送った。

『誰?』

返ってくるか微妙な気はしたけれど、相手が何か入力している気配がある。

『そっちこそ、誰』

俺はいつもなら絶対に書かないけれど――この時だけは、本名を書いた。友達になりたい、なんて思ったわけじゃない。ただ、純粋に……電光石火のように戦場を駆け抜ける、このとてつもなく上手いプレーヤーのことが知りたかった。

『神谷伊織(かみや いおり)、中3。そっちは?』

何か入力しているという表示。わくわくした。

『雑魚に名乗る名前とかない』

はらわたが煮えくり返るって、こういう気持ちのことを言うのかもしれない。勉強になる。名前はわからなかったが、こいつが生意気な日本人だということだけはよくわかった。

『ゼロ・グラウンド』――通称・ゼログラのプレーヤーは国内におよそ300万人いる。高ランク帯のプレーヤーは全体の1%に満たないくらいだから、多く見積もっても3万人くらいだろう。その中でムカつくほど上手くて、生意気で……そして、おそらく未成年だ。大人はきっと、中学3年に雑魚なんて言わない。(たぶん)

プロか、きっとプロに近いプレーヤーだろう。『プロゲーマーになって、でかい会場でゼログラをプレーしたい』。そんな風に思っていた俺は、この得体の知れないokaPを心の中でライバルに認定した。そして……。

『次はぜってー泣かす』

俺はそんなメッセージを送って、通信を切った。

そこから1年……。俺は都内にあるeスポーツ部で有名な高校に進学した。

そして、あろうことか――その部活でクソ生意気なライバル・okaPと再会した。

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  • 神ゲーマーふたりは今日もオンライン   【おまけエピソード】3.私立新葉高校eスポーツ部(後編)

    その日は律の店に集まった後、みんなでご飯に行って夜まで遊んだ。別れるときに、チャットのグループをひとつ作った。『新葉高校eスポーツ部』。次に全員で集まれる日がいつになるかはわからないけれど……「またみんなでゲームでもやろう!」という話になった。久々に楽しい集まりだったな、と思う。律と家に帰る途中。ずっとくだらない話ばかりしていたけれど、ふと小神野と神谷――あのふたりの話になって。「久々に会ったけどさ、ぜんぜん変わってなかったね! オカピ先輩といおりん。居酒屋でもずっとケンカしててさぁ……」「あれは、過去一でくだらない争いだったな」前の試合、スナイパーを使って弾を外した神谷に「なんで当てられなかったんだ?」と小神野が素朴な疑問をぶつけたのが始まりだった。次第に言い合いがエスカレートしていった結果、ついにふたりはシュウマイにからしをつけるかどうかでケンカしていた。もう、何でもいいんだろ、それ……。「お酒飲んでたってのもあるかもしれないけどさぁ、まじで笑ったよね」「面白かったな。あれで一緒に住んでるっていうんだから、不思議っていうか」「あれ……玲は気づいてなかった? ふたりの指に、お揃いのリングがあったの」「へっ?」自分の理解の及ばない話に、俺は宇宙空間にいる猫みたいになっていたんだと思う。律が俺の顔を指差して、腹を抱える。「薬指だったから、きっとそういう意味なんじゃないかな」「そういう意味って……えっ、お前まじで言ってる?」「うん。前に一度、配信でも事故ってたからさぁ。指輪つけたままにしちゃって、噂流れてたから知ってはいたんだけど」「まじか……俺、あのふたりが、いちばん仲悪いと思ってたわ……」「不思議だよねぇ。言い合いばっかりしてるくせに、いつも一緒にいるっていうか」律の言葉に、俺はあのふたりのことをもう一度よく思い出してみる。いつからだろう、と思ったが……さっぱりわからなかった。たしかに、ふたりで一緒にいることは多か

  • 神ゲーマーふたりは今日もオンライン   【おまけエピソード】2.私立新葉高校eスポーツ部(中編)

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  • 神ゲーマーふたりは今日もオンライン   【社会人編】15.ふたりの部屋

    「うわっ……これ、PCの配線やばすぎね?」「2台分だもんなぁ。繋ぐだけならいいけど……掃除できんのかな、これ」「って、なんかインターホン鳴ってない?」「鳴ってる! ソファー届いたかも」引っ越しは、世界大会の予選が終わった5月の連休にした。その日は朝から慌ただしくて……午前中から悠馬の荷物の運び込み、午後からは俺の荷物と家具が届くようなスケジュールだ。「悠馬、ソファーってここでいい?」「もうちょい手前~」業者の人にお礼を言って、設置までしてもらう。まだ何もないリビングだけど、テーブルとソファーが揃えば何だかそれっぽくなるから不思議だった。「こうやって見ると、テレビも欲しくなるかも」「でっかい画面でゲームやるのも楽しそうだよなー。映画とか観るのもいいし」「悠馬も映画とか観るんだ」「そりゃあ、見るよ。アニメも観るし」「ちょっと意外かも。一緒にいるとき、観てたこととかなかったから」「たしかに、伊織といるときは話したり、ゲームしてたりすることの方が多かったかも……」「じゃあ、新しいの買ったら、一緒に観る?」「いいね。注文しよ」ネットで良さそうなテレビとテレビ台を見つけた悠馬が、さっそくスマホで情報を送ってくる。新居の入居にかかる費用と引っ越しの費用、家具の購入にかかった費用……。銀行の預金残高を思い浮かべつつ、ざっと計算しようとしたけれど――途中から具合が悪くなってきたので、やめることにした。(使った分は、また頑張って稼げばいいわけだし……)そう言い聞かせて、ゲーム部屋の作業に戻る。部屋に入ると、悠馬が待っていて「こっちこっち」と手で招かれた。PCの電源がついていて、配信で使うカメラがオンになっている。「配信用の画面、今のところこんな感じなんだけど……。ドアとドアノブが映ると、家がバレる気がしない?」「うわっ、たしかにそうかも……!」盲点だった。

  • 神ゲーマーふたりは今日もオンライン   【社会人編】6.世界の舞台に向けて

    楽しかった休みも終わり、ワールドチャンピオンシリーズの本戦が本格的に始まった。この段階ではまだオンラインの試合だけど、プレーオフになれば世界のどこか広い会場での試合になる。(去年は出場できなかったけれど、今年こそは……!)そう思っているのはチームのメンバーも同じらしく、ハルさんもサブリーダーとして仕事に気合いが入っているようだった。「次に対戦する韓国チームの情報、送っておくから各自見といてー」チームのオンラインミーティング中、ハルさんが独自に集めた情報を全員に共有してくれた。「あり

  • 神ゲーマーふたりは今日もオンライン   23.エピローグ

    俺の予想は、残念ながら当たっていて――先輩はあれから急に忙しくなり、顔を見ることもなくなった。仕事だから当然だが、練習の時間が格段に増えたみたいで、先輩の情報は個別の連絡よりも公式SNSで見ることの方が多くなった。たまにある配信では珍しい先輩の敬語が聞けて(そもそも、使えたんだって思った)、毒舌も台パンもない先輩は借りてきた猫みたいに大人しかった。それでも、勝ったときに控えめに喜ぶ先輩の姿は変わらなかったし、俺はその様子を急に増えた女の子のファンと一緒に楽しんでいた。先輩のokaPというアカウントは元はといえば彼の父親が使っていたものらしく

  • 神ゲーマーふたりは今日もオンライン   22.別れと約束

    明け方くらいまで何度も行為を繰り返した後……お互いに疲れ果てて、眠りについた。今日は平日だから学校か……と思っていると、先輩が「今日は創立記念日」と言ったので、昼になるまでだらだらとベッドの上で過ごす。先輩の色んなところにキスして跡を残したり、それに飽きるとお互いの身体にあるほくろを探して数えたり。シャワーを浴びている先輩を邪魔しに行って、ふたりで一緒にお風呂に入ったりもした。何となく離れがたくて……昼ご飯を作って食べた後も、だらだらと先輩の家に居座っていた。俺が荷物をまとめて帰ることになったのは、その日の夜だ。部屋の前で別れると思っていたけれど、先輩は外へ出て途中まで見送りに来てくれ

  • 神ゲーマーふたりは今日もオンライン   21.長い夏の終わり

    会場の熱気。試合に勝った高揚感。お祝いムードからのみんなでの打ち上げ――。ふわふわした気分のままカラオケのパーティールームに移動して、顧問の谷内先生も入れてみんなではしゃいでいると、何人かのスマホが同時にピロンと鳴った。その音に、俺もスマホを触ってSNSをチェックする。「……あっ……小神野先輩のニュースが出てる」俺のつぶやきに、みんながいっせいに自分のスマホに目を落とした。『話題のオンラインゲーム、ゼロ・グラウンド。現役高校生がeスポーツチームとプロ契約』。そんな見出しのニュースの記事を追っていくと、小神野先輩が史上最年少でプロチームと契約したと書いてある。俺はてっきり、元パート

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