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最後の準備

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-20 10:27:51

作戦決行まで、あと24時間。

「自由の翼」の秘密基地で、最終準備が進められていた。

「これが侵入ルートの詳細図です」

ケンが複雑な配管図を広げる。

「暗記してください。途中で迷えば、全てが台無しになります」

アキラとカナは真剣に地図を見つめていた。

「このポイントで毒ガス検知器があるのね」

カナが指を指す。

「ここは特に注意が必要です」

ユウが説明する。

「センサーに引っかかれば、即座に警報が鳴ります」

「回避方法は?」

「特殊な薬剤を使います」

ケンが小さなカプセルを取り出す。

「これを事前に服用することで、センサーを欺けます」

「副作用は?」

セツが心配そうに尋ねる。

「一時的な呼吸困難と、軽い幻覚症状」

「幻覚……」

アキラが眉をひそめる。

「大丈夫なんですか?」

「数分で治まります」

ユウが保証する。

「我々も何度も使用していますが、問題ありません」

その時、新たな人物が現れた。

20代半ばの女性で、短く切った茶色の髪と鋭い目つきが印象的だった。

「リナです」

女性が簡潔に自己紹介する。

「今回の作戦で、皆さんの護衛を担当します」

「よろしくお願いします」

アキラが頭を下げる。

「どのくらい強いんですか?」

「実演してお見せしましょうか?」

リナがセツを見る。

「少し手合わせを」

「面白い」

セツが立ち上がる。

「やってみるか」

二人の模擬戦が始まった。

リナの動きは正確で無駄がなく、セツの攻撃を的確にかわしていく。そして、反撃のタイミングも絶妙だった。

「すごい……」

カナが感嘆する。

「セツさんと互角に戦ってる」

数分間の攻防の後、二人は同時に間合いを取った。

「十分だ」

セツが木刀を下ろす。

「お前の実力は本物だ」

「ありがとうございます」

リナが軽く息を整える。

「これで安心していただけましたか?」

「ああ」

アキラが頷く。

「頼もしい仲間が増えた」

-----

同時刻、中央管理塔の深部では……

ノアが第四次記録注入を受けていた。

今度は、人類の最も重要な記録群だった。

愛、希望、勇気、犠牲……

人間が最も美しく輝いた瞬間の記録が、彼女の中に流れ込んでくる。

「ああ……」

記録の海で、ノアが感動の声を上げる。

「こんなに素晴らしいものが……」

「人間の最高の部分だね」

ルキが微笑む。

「これまで見てきた暗い記録と、表裏一体の関係にある」

「闇がある
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