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#27.第七話「噂と兆候」①

作者: あともす
last update 公開日: 2026-08-01 19:00:57

 アリスの実家であるミルナー家は粉挽きを家業にしており、毎日パン屋や大きな家の下働きが小麦を抱えてやってくる。

 水車のお陰で粉挽きが自動化されたとはいえ、小麦がパンに使える粉になるまでにはそれなりの時間が掛かるわけで、お陰でこの通り粉挽き小屋の周辺はひっきりなしにやってくる粉挽き待ちの人々でごった返す羽目になってしまうのだ。

「粉挽き待ちの方はこちらでお待ちください! そこ、道を遮らないで。荷車が通れなくなっちゃうでしょ」

 粉挽き屋の女将でもある、アリスの母エディスが、隙あらば抜け駆けしようとする順番待ちをけん制している声を聞きながら、アリスも父サイモンの手伝いに勤しんでいた。

「アリス、テッドに代官邸の分が出来たから呼んできてくれ」

「分かったわ」

 サイモンは木箱を重ねた台の上に小麦粉の詰まった大きい麻袋を二つ置いて、ポンポン叩きながら声を掛けると、アリスが小屋から顔を出して、軒下で近くの者と雑談していた痩せた男に声を掛けた。

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  • 神父と白い野獣   #29.5.七話の補足:粉挽き屋は、村の胃袋であり情報ハブである

     中世イングランドの村で、粉挽き屋は欠かせない仕事でした。  小麦や大麦は、そのままではパンや粥になりません。食べるためには、まず粉にする必要があります。  そのため、水車小屋には村人の穀物袋が集まりました。 けれど粉挽き小屋は、ただ粉を作る場所ではありません。  人が集まり、順番待ちが生まれ、支払いがあり、使いの者が出入りする場所です。  そこには、村の食べ物の流れと、人の流れが集まっていました。■粉挽き小屋は村の情報交差点 粉挽き小屋には、いろいろな人がやって来ます。  農民、パン屋、大きな家の下働き、代官邸の使い。穀物袋を持った人々が順番を待ち、挽き上がった粉を受け取り、挽き賃を払って帰っていきます。 そこで見えるのは、世間話だけではありません。  どの家がどれだけ穀物を持ってきたか。  誰が急いでいるか。  どこの使いが来ているか。  誰が支払いで揉めそうか。  どの家の暮らし向きが苦しそうか。 粉挽き屋は、そうした情報を仕事の中で自然に見ています。  穀物袋の量、順番待ちの顔ぶれ、支払いの様子、使いに来た相手。それらは、村の暮らしぶりを映すものです。 だから粉挽き小屋は、村の情報ハブでもありました。  食べ物と人の流れが交わる場所だからこそ、村の変化や噂が入りやすく、小さな異変にも気づきやすい場所だったのです。■粉挽き(ミルナー)はなぜ嫌われやすいのか 粉挽きには、挽き賃がかかります。  現金で払う場合もありますが、穀物や粉の一部を取り分として渡すこともありました。 ここが、粉挽き屋が疑われやすい理由です。 村人にとって、穀物は生活そのものです。  その袋を粉挽き屋に預ける。  粉になって戻ってくる。  けれど、挽く前と後では量も形も変わっています。 すると、疑いが生まれます。  多く取られたのではないか。  目方をごまかされたのではないか。  自分の袋だけ後回しにされたのではないか。

  • 神父と白い野獣   #28.第七話「噂と兆候」②

     アーサーは司祭館を出て教会に向かうと、礼拝の広間に集まった数人の体調不良の信者たちの患部に按手(あんしゅ、Laying on of hands)による祝福を施して回った。  幸いここに居る村人の中には重篤な症状の者は一人も居らず、祝福を与えると皆安心して普通に歩いて帰っていった。  それを見送ると、今度は教会から診療所に向かう。  祝福を求めている患者は診療所にこそたくさん居るだろうし、後は、ルーシーの様子が気になったからだ。  ウルフの話が出来るのは現状ルーシーだけだから、この騒ぎの中で彼がどうしてるのか何か知らないか訊きたかった。  診療所に行くと、やはりいつもより患者が多く、シスターや世話人たちが忙しなくあちこち駆け回っていた。  薬を貰うために並ぶ人の列と、施設に入りきらない患者たちが地面に蹲ったり横たわっている光景を見渡しては、アーサーは顔を青褪めさせた。  薬草を煎じた匂いに、汗と湿った布の臭いが混ざり合い、空気が重く淀んでいる。咳き込む声や苦しげなうめきが絶えず重なり、耳の奥にまとわりついた。  思わず息を詰め、アーサーは無意識に胸元で小さく十字を切る。 「どうしてこんな事に……」  体調不良で不安そうな村人達の何気ない会話に耳を傾ければ、やはりあちこちで〝流浪人の呪い〟について語り合っており、アーサーの胸を締め付けた。  流浪人──ウルフが呪いを振りまいてるなどという妄言を、どうすれば払拭できるだろうか。その方策を、今のアーサーには全く思いつかず、とにかく少しでも多くの情報を求めてルーシーの姿を人の群れの中で探した。 「あ……!」  動き回る世話人の中からやっとのことでルーシーを見付けたが、彼女は薬を抱えて特に忙しそうにしている一人だったため、アーサーが声を掛けようか迷っていると、診療所の管理者であるシスターマーガレットが、神父アーサーの登場に気付いては、表情を輝かせて先に駆け寄って来た。 「アーサー様。様子を見に来て下さったのですか?」  マーガレットが何も知らずに、心強い味方を見付

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