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禁欲教授の溺愛レッスン:甘えん坊な奥様に溺れて
禁欲教授の溺愛レッスン:甘えん坊な奥様に溺れて
Author: だるがりさん

第1話

Author: だるがりさん
「んっ」

部屋のドアが開き、よろよろと二つの影が入ってきた。

二人の目は酔いに染まっており、入ってくるとすぐに玄関でキスを始めた。

吐息が交互に聞こえ、甘い香りが部屋中に満ちていく。

「あっ」

浅野遥(あさの はるか)は驚きの声を上げ、男に軽々と抱き上げられた。

彼女の小さな体は、彼の腕の中にまるで迷子のように埋もれてしまい、その体格差が否応なしに想像力を刺激する。

そのままベッドへ向かい、遥はベッドに投げ出され、大きな体が覆いかぶさってきた。

男の目尻は赤く染まり、普段は抑えられた目元には炎が踊っている。

理性という名のタガが、音を立てて外れる。

遥はシーツを握る手に、思わず力が入る。白い骨が浮き上がった指先が、激しい昂ぶりを物語っていた。その瞳の奥に、一瞬、奔流のような光が迸った。

照明が揺れ、か細い喘ぎ声が部屋中に響き渡る。

「遥……」

「遥……」

遥は夢から急に目を覚まし、額に薄汗をかいていた。

またあの夢だ。もう一ヶ月経つのに、毎晩のように見てしまう。

夏休みのある日、結城涼介(ゆうき りょうすけ)の誕生日だった。遥は喜んで参加したのに、彼が招待したのは自分だけではなかった。同じ学科の他の学生もいて、その中には美人で有名な藤崎美桜(ふじさき みお)もいた。二人はぴったりと並んで座り、親密な様子だった。

多くの人が遥の方を見て、彼女の反応を伺っているようだった。

遥と涼介は同じ学科だけど違うクラスだった。みんな、彼女が二年も前から涼介を好きなのを知っていて、涼介本人だって知っていた。なのに、彼は一度も彼女の好意をはっきりとは断らなかった。

周りの学生の様子から見て、どうやら全員が美桜のことを知っているみたいだった。自分だけが何も知らず、騙されていたのだ。

自分を繋ぎ止めておきながら、美桜ともいい感じだなんて。

クラスメイトの冷やかしの視線が心に突き刺さり、遥は密かにこの滑稽な片思いに終止符を打つことを誓った。

その夜、彼女はかなりお酒を飲み、胸にモヤモヤした気持ちを抱えていた。

トイレに行く途中、よろめいて誰かにぶつかった。男の深い目と目が合った。

涼介よりハンサムで、男らしい。

どこから湧いてきた勇気か分からないが、彼の襟首を掴み、吐息がかかるほどの近さで言った。「私と寝ない?」

その後の展開は、もう止められなかった。二人は部屋に入り、一晩を共に過ごした。

酒に酔った勢いで大胆になった遥は、翌朝目を覚ますと、男と裸でベッドにいる自分に気づき、すっかり慌てふためいた。服を着ると、転がるように部屋を出て行った。

ヤバいことしちゃったのは分かってるから。 誰にも言えないし、あの男が誰なのか探ろうとも思わなかった。

でも、ずっと気になっていたせいか、一ヶ月経った今でも、毎晩のように夢を見てしまう。

絡み合う裸体、荒い呼吸、そしてあの男の深い目……

「遥、早く起きなさいよ!まだボーッとしてるの?新学期早々、遅刻する気?」

相葉佳奈(あいば かな)の声に、遥は我に返った。ごちゃごちゃした思考を頭から振り払い、慌ててベッドから降りた。

身支度を整え、遥は教科書を抱えて佳奈と一緒に教室へと急いだ。

「そんなに急いでどうするの?」遥は彼女のペースについていくのがやっとだった。

「今日は解剖学の授業だってこと、忘れたの?」佳奈が言った。「最近、ぼーっとしてるから、何も覚えてないんじゃないの?」

遥はそこでようやく思い出した。

学校が高額の報酬で、すごい解剖学の教授を招いたらしい。J・H大学を卒業して戻ってきて、いきなり教授に抜擢されたんだって。医科大学始まって以来の最年少教授らしい。

その教授に急用ができて、予定通りに大学に来られなかったから、学生たちの解剖学の授業が一ヶ月以上も延期になったんだ。それで、今、連休が終わって、最初の授業がその教授の授業なんだ。

「遥、知ってる?今朝、もう何人かの学生がその教授に会ったらしいわよ」

佳奈の声には、かすかな興奮が混じっていた。

「その教授が、もう信じられないくらいイケメンなんだって。学校のグループチャットは大騒ぎよ。授業を取らなかった学生が後悔してるって話も聞いたよ」佳奈は遥の手を引っ張った。「早く行こう!遅れたら教室に入れなくなるわよ!」

大袈裟すぎじゃない……と遥は思った。三年生だし、それに休み明けの授業だ。サボるやつも結構いるだろうから、教室は結構空いてるんじゃないかな。

教室のドアにたどり着くと、遥は黒山の人だかりを見て、呆然とした。

まるでスーパーで卵の特売日に、おばあちゃんたちが我先にと殺到している光景みたいだ。

佳奈は、こんな状況になることを見越していたようだった。

「有名大学出身のイケメンとなると、アイドルの追っかけと変わらないわね」

彼女は遥を引っ張りながら人混みをかき分けて進んだ。「すみません、すみません。聴講生の方は正規の学生の席を取らないでくれませんか?」

やっとのことで隙間を見つけて席に着くと、佳奈は何を見たのか、嫌そうな顔をした。

「マジ、勘弁……」

彼女の視線の先に、前の席に座っている涼介と美桜の姿があった。

重要な授業だと、いくつかのクラス合同で大教室で行われることがあった。まさかこんなところで彼らに会うとは思わなかった。

二人は親しげにしていて、涼介が美桜の耳元で何か囁くと、彼女は口元を手で覆って笑っていた。

遥がずっと彼らを見つめていると、佳奈はため息をついた。「最近、あなたがぼーっとしているのも無理ない。二年も好きだった人が他の人と付き合ってるんだから、誰だって辛いでしょう」

遥は驚いて彼女を見た。「二人が付き合ってるの?」

「そうよ。涼介の誕生日に付き合うことになったのよ。その顔、まるで今初めて知ったみたいね」

遥は静かに言った。「本当に今、初めて知ったの」

「じゃあ、最近あなたがぼーっとしてるのは誰のせいなの?」

新学期が始まってから約一ヶ月、佳奈は遥の様子がおかしいことを知っていた。

「……」

遥は、お酒に酔って他の男と寝てしまったことを言えなかった。

彼女が黙っていると、佳奈は強がっているのだと思い、優しく肩を叩いた。「大丈夫よ。今知ったってことにしとけばいい」

「……」

本当に今知ったんだから。

「涼介って、ちょっとイケメンで成績がいい以外に、どこがいいのかしら。あなたが彼のこと好きだったなんて。ただの最低男よ。彼よりイケメンで優秀な人なんてたくさんいる。例えば、新しく来た教授とか。涼介なんて、あっという間に踏み潰されちゃうよ。遥、好きな人、変えたらどう?」

遥はぽかんとして彼女を見た。「誰に?」

佳奈はからかうように言った。「新しい教授に決まってるでしょ」

彼女は何でも言ってしまう。

遥は彼女の頭を軽く叩いた。「何言ってるの!」

突然、教室がざわめき、声が聞こえてきた。

「教授が来た!教授が来たぞ!」

人でいっぱいの教室は興奮に包まれ、みんなキリンのように首を伸ばして見ている。

遥も例外ではなかった。

彼女も、世間で騒がれているとてつもない美貌を一目見ようと、興味津々だったのだ。

まさか、人外みたいな顔ってわけでもないだろうけど。

背の高い人影が、教室のドアに遠くから徐々近づいてくる。

すらりとした体つきで、顔立ちは清秀で端正。滑らかなフェイスライン、高い鼻筋、形の良い唇。深みのある瞳はどこか人を惹きつけ、物腰柔らかな佇まいに誰もが心を許してしまう。

佳奈は、隣の遥が息を呑む音を聞いた。

「遥、言ったでしょ?本当にイケメンだって」

そして、隣の遥は、机にぐったりと突っ伏してしまった。
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