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第111話

Author: 風羽
舞の目に、ふと潤みが差した。

子どもを産めないという事実は、今もなお、心の奥に刺さる棘のように疼いている。

空気がほんの一瞬で冷え込んだ。

京介は、彼女の鼻先にそっと額を寄せながら、低く抑えた声で囁いた。

「まだ何もしてないのに、もう泣いちゃうの?」

舞は彼を押し退けて身を起こし、髪を束ね直した。

細く白い指が髪をかき上げるたび、うなじがちらりと露わになった。

その一瞬の色香が、京介の脳裏に過去の記憶を甦らせた。

どうしようもなく欲しくて、あの細い首筋を噛んで名前を何度も言わせた夜。

「京介……京介……」

彼は、シロの毛を撫でながら、どこか気のない笑みを浮かべた。

「犬を迎えに来た?それとも上原九郎のことで?」

けれど、彼は返事を待たず、内線で食事の用意を指示した。

電話を切ると、いつもの柔らかな声色に戻っていた。

「三ヶ月ぶりにちゃんと会えたんだ。一緒にご飯くらい、どう?」

彼の表情は穏やかで優しくて、まるであの傷つけ合った日々なんてなかったかのように。

まるで——離婚なんて、最初から存在しなかったかのように。

邸内の使用人たちは舞の存在にすぐ気づい
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